0112 葛藤
ヤハンの雨に紛れて王都を出ようとしたルキウスたち。その前に、ステラたちヒリュウの鱗亭の面々が立ちはだかった。ジョルジョが、ルキウスの説得を試みるもルキウスは全く受けつけようとしない。
(やはり、無理か)ジョルジョはチラリとステラを見た。その視線にステラは気づいていたが、返事をしない。グレタが、そっとステラに寄り添い囁いた。「お気持ちはわかります。ですが……おわかりでしょう。言葉ではルキウスくんを説得するのは無理です」グレタは、『無理』に力をこめた。
「……」でも、まだステラは決断できないでいた。ジョルジョやグレタが言いたいことはわかる。でも、それを許してしまったらルキウスたちと継嗣戦をすることになる。それは、嫌だ。でも……
今日の昼営業が終わったころに、竜眼主の子供らを探しに出ていたグレタが戻ってきた。そして、ステラが遭遇したこどもたちの居場所を突き止めたが、ルキウスとフェリシアも一緒にいたと報告された。ならば、ルキウスを説得できなければ、子供たちから力を奪う術は使えない。
「ルキウスくんを説得するのは、無理でしょう」ジョルジョがあっさりと告げた。
「では、どうするのですか?」問うステラ。
「遣り合うしかないですね」簡単に返すジョルジョ。
「な、何を仰ってるんですか? ルキウスさんたちと継嗣戦をすると仰っしゃるのですか? そんなのダメです!」
「お嬢の言いたいことはわかります。ですが、彼は真っ直ぐな男なんです。ですが、真っ直ぐすぎて融通がきかない。そういう不器用なやつなんです。実際に目にしないと、考えをあらためることはないでしょう。そのためには、彼とフェリシアさんには、無抵抗な状態になって貰わねばならないんです」
「でも、そんな……長くはないですけど一緒に暮らした家族ですよ。なのに……ダメです。絶対に許しません!」あくまでも拒否するステラ。
「ですがお嬢、悠長なことをやっている余裕はありませんよ。お聞きになったでしょ、ルキウスくんたちが襲われた話を。あの子らが竜眼主の関係者だともうばれてるんです。このままでは、王都中のいや、ビタロス中の竜眼狩りから襲われます。それだけしゃない、竜眼主たちだって放っておくはずがない。何処にいるかも、誰かもわからない竜眼主たちに襲われるんですよ。そうなったら、子供ちもルキウスくんとフェリシアさんも殺されます。それでいいんですか?」
二人の話はかなり長い間平行線をたどっていた。だが、最終的にはグレタがジョルジョに味方をし、「絶対にルキウスさんとフェリシアさんを殺さない、と約束をしてください!」ステラが条件を出して折り合った。
だが、やはりステラは迷っていた。いま、ジョルジョが色々と言って話を引きのばしているが、もう限界も近そうだ。それに何よりルキウスが、かなり焦れ始めている。このままだと、ルキウスのほうから仕掛けてこないとも限らない。ステラにとっては、もうルキウスもフェリシアも家族なのだ。家族が傷つくのは嫌だ!
ティアマト家の惨劇。自分が意識を取り戻したとき、もう屋敷からはかなり離れていた。そして、父も母も、グレタの両親も兄も、アリアとアンナの父親も死んだと聞かされた。自分なんかを守って皆を死なせてしまった。もう、家族が傷つくのは、亡くすのは……絶対に嫌だなのだ。
だがステラは――無言で頷いた。
それを確認したグレタが、「わかりましたルキウスくん。あなたがそこまで信じないと言うのなら、勝負をしましょう」と、切り出した。




