0106 ヒヨリ=ツキノVSベリー
オッターヴィオ、ベリー、フェルモ、そしてもう一人の男が、馬から下りてゆっくりとルキウスたちに向かって進んでくる。
「かすみ囲い。構築せよ、鬼櫓」金髪側のヒヨリ=ツキノが唱えた。そして、「ルキウス、櫓を組んだから、物理攻撃も魔法攻撃も二人には届かないわ。でも、ツキノとのデュオ形態だから、もって半カイ(三十分)よ。それまでに決着をつけなさい。あと、あなたへの盾は期待しないでね」と、ルキウスに告げた。
「ありがとう、ヒヨリ。二人を頼むね」ルキウスが剣を正眼に構えた。「おい、ルキウス。俺が牽制とベッファをやってやる。おめえはオッターヴィオをやれ。いいか、日和んなよ。死ぬぞ」銀髪側のヒヨリ=ツキノも告げた。「わかった」短く返すルキウス。
「ぶっ殺せ!」、オッターヴィオの叫びとともに、囲んでいたゴロツキどもがいっせいに襲いかかってきた。
「飛礫五月雨、雨滴降弾」銀髪側のヒヨリ=ツキノが襲いくる連中に左手をかざし、呪文を発動させた。すると、地面に落ちていたたくさんの小石が、フワリ、と浮き上がり、ゴロツキどもに向かって飛び跳ねた!「がっ!」「いて!」「うおおっ!」小石の飛礫は、ゴロツキどもの顔に命中し、中には目を潰されのたうち回る者もいる。だが、人がひしめき合った状態では、他者が盾になって当たらぬ者もいる。だが、そんな連中には、空から透明の何かが降り注ぐ! それらが頭や顔、首に突き刺さり、「あぁっ!」「うわあぁ!」と叫びがあがる。頭、顔、首から血を流しうずくまる者、うずくまった者たちにけつまずき倒れる者。そうして倒れた者にも、容赦なく透明の何かが突き刺さる!
それでも突き進んでくる者たちがいる。その連中に左手をかざし、「暴威連べ打ち」と唱える銀髪側のヒヨリ=ツキノ。「うあっ!」「がっ!」と、ゴロツキどもが後ろに倒れる。
「くそっ!」ベリーが、ヒヨリ=ツキノに近づこうとしているが、次々と繰り出される魔法で近寄ることができない。じれたベリーが「このクソアマが、小賢しいことしてんじゃないわよ!」と、近くにいた手下の一人の襟首を掴み、盾にしながら突っ込んできた。「暴威」それに向かって攻撃を放つ銀髪側のヒヨリ=ツキノ!
だが、「うわっ」と言って倒れた男の後ろにベリーがいない。「こっちよ、バーカ」と、いつの間に移動をしたのか向かって左側にいたベリーが反対側からフレイル型のモーニングスターを振りかぶって襲いくる! 「空矢連べ打ち」銀髪側のヒヨリ=ツキノがすぐさま反応をして魔法を発動させた!
「ちっ」舌打ちしたのは銀髪、金髪両方のヒヨリ=ツキノ。ベリーは、また一瞬で反対側に移動していた。「やっかいね。なんとかできる?」と金髪のヒヨリ=ツキノが銀髪のヒヨリ=ツキノに訊いた。「あぁ? だぁれに言ってんだ。黙ってろ!」虚勢をはるも状況は厳しい。
「ホーホッホッホ。あらあらどうしたのかしら、あたいに攻撃が当たらないようだけど、薄っぺら顔のブサイクさん。ほんと、あんただいっ嫌い! 髪の色をコロコロと変えちゃって、羨ましいじゃない! その髪、よこしなさい!」ベリーがモーニングスターを強く振ると、鎖につながれた棘付きの鉄球が、ツキノ側に襲いかかる!
「盾・ツキノ」金髪のヒヨリ=ツキノが呟くと、ツキノ側の頭に命中直前の鉄球が、音もなくはじき返された。
「あぁ? 余計なことすんじゃねえよ!」ツキノ側がヒヨリ側に文句を言うが、「ありがとよ」と小さな声で付け加えた。「あなたがやられると、わたしもお肉が食べられなくなるの。もっと、しっかりやりなさい」ヒヨリ側が、ツキノ側を叱るが、他から見ると一人で喋ってるようにしか見えない。
「チッ。なによ、まだそんな余裕があるわけ。ならいいわ。こっちも本気でいくわよ!」ベリーはそう言いながら、今度はヒヨリ側に向けてモーニングスターを振った。鉄球は、遠心力を借りてすさまじい速さでヒヨリの頭を――「盾・ヒヨリ」金髪のヒヨリ=ツキノが呟く――鉄球はまた、はじき返され――なかった。「おうわ!」ヒヨリ=ツキノが慌ててしゃがむ! 「ヒヨリ、危ねえだろ!」ツキノ側が怒鳴る!
鉄球は確かにヒヨリ側の頭に向けて迫っていた。だが、ヒヨリ側の頭に当たる少し手前で、突然鉄球が右方向に大きくスライドし、ツキノ側の頭に向かって迫ってきた。「やるわね、これがあいつの〈念動〉ね」ヒヨリが冷静に呟く。「チッ、制限付きのクセにやっかいだぜ」ツキノ側がそれに応答する。
ベリーのリュウオンシは〈念動〉だ。正しくは、リュウオンシ〈魔法(制限∶念動)〉と言う。すなわち、魔法系のリュウオンシだが、使えるのは〈念動〉のみという意味だ。制限付きというのは他にもたくさんある。ステラの〈治癒〉もその一つだ。ヒヨリ=ツキノは、ヒヨリのときは〈魔法(制限∶防御)〉で、ツキノのときは〈魔法(制限∶攻撃)〉である。だが、ヒヨリ=ツキノのリュウオンシは、制限付きであっても防御、攻撃といった広い範囲に使えるので、汎用型と呼ばれている。そして、ベリーやステラのような狭い範囲の制限付きは、特化型と呼ばれており、それだけにしか魔法を使えないが、その分威力が汎用型よりも強い、という特徴がある。
「どう? 薄っぺらブサイク。色んな魔法が使えるからって、偉くないのよ!」ベリーがモーニングスターを縦、横、斜めとでたらめに振ってくる。だが、襲いくる鉄球はもっとでたらめだ。右と思って盾をはれば左から、左と思うと上から、横、斜め、そして下からもくる。ベリーが〈念動〉で鉄球を自在に操っているのだ。ポイントシールドではとても防げない、というかどこからくるかわからない。なので、ヒヨリはフルシールドに切り替え、全身を防御していた。だからと言って、ヒヨリ=ツキノは防戦一方ではない。ツキノも次々と攻撃魔法を繰り出していた。しかし、あたらない。右に撃てば左に、左に撃てば右に、ベリーは縦横無尽に位置を変え、ツキノ側に狙いを絞らせない。
「くそったれ! あいつ〈念動〉で自分を飛ばしてやがる」
「ツキノ、身囲いをこれ以上続けるとマナがもたないわ」
「わぁってる。ヒヨリ、一瞬俺に体をゆずれ」
「何をするの?」
「あの、モーニングスターを止める」
「わかったわ。身囲いはとくけど、鬼櫓はダメよ」
「ああ、それでいい。欲しいのはマナじゃねぇ。おめえの右手だ」
「あら、あれをするのね。おかわいそうに。でもあいつだからいいわ。やっておしまい」ヒヨリ=ツキノの髪が、全て銀髪になった。
銀髪のヒヨリ=ツキノが、狙いを定めるように両手をベリーに向けた。「風よ、我の申し出を受諾せよ。彼の者の右腕にそなたの刃でからみつけ。輪風刃」詠唱とともに銀髪のヒヨリ=ツキノが、突き出した両手を捻った!
「うぎゃあああー!」
モーニングスターが宙を舞い、狂ったような叫び声をベリーがあげた。




