0103 制裁
フルーミニス市場からそう離れていない王都南西モスターノ地区の酒場に、見るからにガラの悪そうな男たちが数十人集まり、輪になっていた。輪の中心には五人の男。うち四人は、いましがたフルーミニス市場の路地でルカにやられた紫色のシャツを着た年嵩の男と、一緒にいた三人だ。
紫色のシャツを着た年嵩の男は、目の前に立つ大柄でボタン付きの丈の短い上着を着たいかつい男に怒鳴られ、震えていた。
「てめ、なめんてんのか!」男は怒声をあげると、目の前で小さくなっている紫色のシャツの男をおもいっきり殴った。
ドゴ、ガーン! 派手な音をたてて床に倒れる男。
「ゆ、許してくれ! オッターヴィオ、あいつ、あいつなんか変だったんだ。き、きゅうに、なんか強くなりやがった、なっ? なっ?」殴られた男は、自分の後ろにいる三人の男たちに同意を求めた。
「あっ? 急に強くなった? おめえはクソったれか! 十にもならねえガキっつったろが? そんなガキが、おめえら四人をのしたってのか? 馬鹿も休み休み言えや!」オッターヴィオが、さっき殴った男の髪を掴んでさらに殴る、殴る、殴る。
「ぐぅがっ」鼻と口から血を流しながらまた床に倒れる男。
「ほ、ゲホッ、ほん、ほんろだ、ほんろなんだ! おまえらも、いえ! いえよ! ほんろら!」シャツよりも濃い赤紫色に顔を腫らし、血を流しながら後ろの仲間に這い寄る男。
「アキッレ、ジッロ、フェルモ、マウロを押さえろ」オッターヴィオが、さっきから殴られているマウロの後ろにいる男たちに命じた。
「ま、まって、な、なにを、やめて……」マウロが、手斧を右手に持ったオッターヴィオを見て震える。
「あぁ、落としまえだ。てめぇは、俺に恥をかかせた。このモスターノを仕切るオッターヴィオ様の顔に泥を塗ったんだ。覚悟しろや。おい、早くマウロを押さえろ」舌舐めずりをしながら、ゆっくりとマウロに近づくオッターヴィオ。
アキッレ、ジッロ、フェルモと呼ばれた男たちが、すまない、という顔をしながらマウロの体を押さえる。
「やめろー! やめろー! みただろ! おまえらもみただろ! いえよ! いわねえとおまえらもやられるぞ! いえよぉー!」マウロは泣き叫んで振り返り、「フェルモ、おまえ、どんだけいままでせわしてやった! おれはおまえのおじきだぞ、たすけろよぉ!」と必死に怒鳴る。
「オ、オオオ、オッターヴィオ、あ、あの……あの……」マウロの体を押えていた男の中で一番若いフェルモが、オッターヴィオに声をかけた。
「あ? なんだ?」オッターヴィオが睨みつける。
「……はい、あの……た、たしか、に、あのガキ……と、とつぜん……かわり、ました」真っ青な顔でフェルモが告げる。
「……てめえも、腕を斬り落とされてえか?」ニタッと笑いながら告げるオッターヴィオ。
「い、いいえ、あの……ほんと、ほんとに、女のガキが、りゅうがんのなんとかって……りゅう、きし? かいほう、とかって突然言って、で、で、ガキの体がなんか、ドンッ、て爆発、そう爆発した。ほんと、ほんとなんだ」なぜか勢いがついたフェルモが見たことを一気にしゃべった。
「……はぁーっ……そうか、わあった。おい、おめえら、四人とも押さえろ。四人とも、死刑だ。この俺をバカにすんじゃねえ!」真っ赤な顔で怒り狂ったオッターヴィオが、四人を取り囲んでいる男たちに命じた。
「ちょっと待って、アニキ」オッターヴィオの斜め後ろで酒を飲んでいた、長髪で化粧をしロングスカートをはいてるやつが、オッターヴィオに声をかけた。
「あっ? なんだベッファ、うっ」
「ちょっと、その名は呼ぶなって言ったわよね。血を分けたきょうだいでも、殺すわよ」ベッファと呼ばれたやつが、オッターヴィオの首にナイフを押し当てて告げた。
「す、すまねぇ、ベリー。で、ど、どうした?」オッターヴィオが、こめかみに汗を垂らしながら訊くと、ベリーはニタッと笑い「そうよ、お兄ちゃん。わたしはベリー。忘れないでね」とオッターヴィオの頬にキスをした。そして、フェルモの方に顔を向けたベリーが「フェルモ、あんたいま『りゅうがん』って言った?」と、フェルモをねっとりと見ながら問うた。
「は、はい、ベリー。お、女のガキが言いました。なっ、アッキレ、ジッロ、聞いたよな、なっ?」フェルモが必死でアッキレとジッロに同意を求める。アッキレとジッロは顔を見合わせると、恐る恐る頷き、ジッロが「た、たしかに、言いました」とかすれた声で告げた。
「ウフフッ、そう。アニキ」と言ってベリーがオッターヴィオの耳に口を寄せ、何やら囁く。「ほんとか?」オッターヴィオが真顔で問い返す。「ええ、いまわたしが付き合ってるイロが言ってたの、間違いないわ」と、下卑た笑みを浮かべて答えるベリー。
「おい、テオ! すぐに人を集めろ。フェルモたちから、そのガキどもの特徴を詳しく訊いて探させろ。すぐにやれ!」オッターヴィオに命令されたテオは、「まかせろ!」と言って周囲を囲んでいた連中の数人に声をかけて、外に走らせた。
「まぁうろぉ、いい甥っ子を持って助かったなあ。でもな、ガキを逃したことには違いねえ。まっ、だけど、これで勘弁してやる!」オッターヴィオは、そう言うが早いかマウロの右手を床に押しつけ、手斧を振り下ろした。「ぎゃー!」マウロは大声で叫びながら狂ったように床を転げ回る――
オッターヴィオが振り下ろした手斧が、床に刺さっている。その刃の脇には――指が三本、転がっていた。




