0102 計画
「ルカ、ミア、こらからのことなんだけど、僕たちと一緒に旅に出ないかい?」
「たび? どこかに行くの?」ルカが訊く。
「うん、特に行き先が決まってるわけではないんだけど、一緒に色々なところを見て回るのはどうかな?」
「行きたーい! ミア、たびってしたことないの。前にね、ぎょうしょうのおじさんが王都の外には楽しいところがいっぱいあるって言ってたのぉ、あっ!」楽しげにはしゃいでいたミアが突然暗い顔で黙った。
「ミア、どうした?」ルカがミアの顔を覗き込んで訊く。「……お母さん……お兄ちゃん、お母さんは本当にもう……帰ってこないの?」目から大粒の涙を零しながらミアがルカに訊く。
「ミア、その話は昨日しただろ!」と、ルカがミアを突き放す。「だって……」と、止めどなく涙を流しながらミアが言いかけると、フェリシアがミアを抱えて膝の上に載せた。そして、「ミアちゃん、あのねずっとじゃないのよ。そうね、ミアちゃんがルカくんと同じ歳になるぐらいまでかな。お家もこのままにしておけば、お母さんが帰ってきてもここで待っててくれるわ。だからどう、お姉ちゃんたちと一緒に色んなところに行ってみない?」
「お家はそのままなの?」
「そうよ、そのまま。そうだ、お手紙を置いておきましょう。お母さんに、ミアたちはちゃんと帰ってくるから、お家で待っててね、ってどう?」
「……ミア、字書けないよ」
「字はね、お姉ちゃんが書いてあげる。たから、ミアちゃんは絵を描くのはどう? 絵、描くの好き?」
「好き! あのね、お外でいつも描いてるの。お母さんの顔もお兄ちゃんの顔も描いたよ。そうだ、フェリシアお姉ちゃんとルキウスお兄ちゃんの絵も描いてあげる」
「わぁ、嬉しいなぁ。お姉ちゃん、すっごい楽しみ。ありがとうね、ミアちゃん」
ミアの機嫌がよくなったところで、ルキウスがあらためて「どうかな?」と二人に訊いた。
「……うん、俺はいいよ」ルカがルキウスの顔をしっかりと見て答えた。そして、「わたしもぉ」とミアがフェリシアの膝の上でニコニコとしながら手を上げると同時に、「ピッ」と何モノかも返事をした。
「コロちゃん!」とミアが声を上げてそちらを見ると、トトトトトッ、と床を後ろ足二本で走ってフェリシアに近づくと、ピョーン、とジャンプをしてミアの膝の上に、ポン、と綺麗に着地をした。
「お前どこに行ってたんだ?」ルキウスが呆れたように訊くと、「ピッピ、ピピピ、ピピ」と答えたのだが、いつものごとくわからない。
朝起きたらコロはどこにもいなかった。ルキウスはステラのところに帰ったのだろうと思っていたのだが、なぜかまた戻ってきた。
「お前も行くの?」とルキウスが訊くと。「ピッピ」と頭を縦に振るので、どうやらそのつもりらしい。だが、ステラはいいのか? まぁ、いますぐ出発するわけではないので、いいか、と取り敢えず放置しておくことにした。
「よし、じゃあ、これからの計画を話すね」と、ルキウスは話し始めた。
昨夜フェリシアと話して決めたのは、定住は危険だが小さな子供を連れたまま旅をし続けるのも無理がある。なので、まずは国内の田舎、しかも中立派貴族の領地内でできるだけ辺鄙なところを転々としようと決めた。
ビタロス王国の貴族は、大きく三つの派閥に分かれている。ルキウスたちが属するのは、新興派と呼ばれる派閥、それに敵対しているのが正統派、そしてどちらにも肩入れしていないのが中立派である。
ルキウスたちが、まずは中立派の領地を目指そうと考えたのは、一番見つかりにくく、また見つかっても騒がれないと考えたからだ。新興派や正統派だと、ルキウスやフェリシアを知る者も多く、見つかったときに色々と面倒になりそうなのだ。まずは落ちついて情報収集をしようと考えているため、中立派貴族の領地に身を隠すことに決めたのである。
問題は準備だ。王都を出ること自体はいつでもできる。だが、警備兵に見つかるとレオーネ家に連絡されるだろうから、身元を隠すために変装をしなければならない。それと、ずっと歩いていくわけにもいかないので、馬や荷馬車、野宿などの道具、路銀、そして隠れて住むときの当面の生活費なども必要だ。しかし、現在手持ちのお金が殆どない。
なのでルキウスは、この間討伐したグールヒポダイルの取り分をなんとか前払いして貰えないか、これからフィルに頼みに行こうと考えていた。
グールヒポダイルの査定は既に終わっていて、現在ギルドが買い手候補と値段を交渉している途中なのだ。相当なレアもんなので買い取りに名を上げてる業者は結構いる。しかし、なにせ値が張るため、売る側と買う側の交渉が難航しており、ルキウスたちへの支払い目処が全くたっていないのだ。
一通り話をしてからルキウスが、「買い物は僕が全部してくるから、ルカとミアはフェリスと一緒に旅の準備をしてくれるかな」と告げると、ルカが「ルキウス兄ちゃん、俺も連れてって」と言い出した。
「どうしてだい?」とルキウスが尋ねると、「俺、ミアの兄ちゃんなんだ。だから、ルキウス兄ちゃんたちだけに任せるのは……なんか……お、俺もやりたんだ。役に立ちたい」ルキウスを真っ直ぐに見る目は真剣そのものであった。
きっとルカは何かを感じているのだろう。昨日会ったばかりのルキウスが、ミアの金色の目のことを知っていて、突然一緒に旅をしようなど言い出したのだ、何かあるのでは、とルカが思っても不思議ではない。ただルカは、ルキウスとフェリシアが決して悪意を持って自分たちに近づいたのではない、ということだけは肌で感じていた。
「わかった。一緒に行こう。じゃ、フェリス、ミアのことを頼むね」ルキウスは、そんなルカを頼もしいと思った。




