第29章 あの世界との永遠なる別れ
アークの声が、徐々にかすれていく。
「……そんな」
俺は、宝玉を両手で包み込むように持った。
衝撃を受けた――いや、宝玉がやられたときから、こうなるという予感はうっすらとあった。
アークとは、恐らくもう二度と会えなくなる。
そして元の時代に戻ることも、もう……。
俺はわずかにうなだれた。……やっと、親友とまた心が通じあったのに。……それなのに。……だが俺は、すぐにかぶりを振った。……弱気になってどうする! そんな弱いところを、別れの瞬間、友達に見せてどうする!
俺は、泣きじゃくりそうな気持ちを必死にこらえて、顔も声も平気なそぶりで、
「お別れのようだぜ、親友」
そう言った。
『エルド……』
「……しかし、お前は平気そうだな。俺や魔王が時間移動をしたことで、歴史が変わるんじゃないかと思っていたが」
「どうやら、その様子はないのう……」
リプリカ様が、ゆっくりとやってきて言った。
「推測じゃが、こっちはこっちで、そっちはそっちで続いていくのじゃろうな」
「聞いたことがあるッスよ。並行世界、というやつですっけ」
世界は初代勇者アリアが救った世界と、この俺、魔法戦士エルドが救った世界に枝分かれした。それを並行世界と呼称するのだ。そしてふたつの世界は、それぞれが独立して続いていくわけだ。
「エルド、よく知っておるのう」
「酒場でダラダラしていたときに、暇で暇でしょうがなかったから読んだ本に、書かれてあったんス」
『そ、そうか……』
「おかげで物知りになれたぜ、ははは」
俺はニヤニヤ笑ったが……
そのとき宝玉にまたひとつ、ヒビが入った。
『いよいよ……会えなくなってしまうな、僕たちは』
「そうだな」
「……うむ」
ふと――癒やしの杖をくれたローザ・ディヨルドのように、幽霊となれば、俺もまた遠い未来でこの世界のアークと会えるかもしれないと思ったが――ダメだな。そのアークは、俺の知っているアークじゃない。
『だが、心はいつでも一緒だ。エルド。それにリプリカも』
「気にするな。これくらいの事態、とうに覚悟はできておった。おぬしらの仲間になった、あのときからな。……命を捨てる覚悟で、勇者の仲間になったのじゃから」
「……俺だって、そうさ」
アークと会えなくなることは悲しい。だが、俺だって、……そうだ、俺だって勇者の仲間なんだ。だから、これくらいのこと、覚悟を――
覚悟を、決めないといけない!
「元気でな、アーク。こっちの世界は俺に任せろ!」
『頼む。……こっちの世界も、僕が必ず守り抜く!』
「また――また遠い未来に会おう!」
『もちろんだ。はるか遠い、時間さえ超えた世界でまた会おう! じゃあな! リプリカ! ……エルド!』
「アーク!!」
ぱきん。
時の宝玉は、静かに砕け散った。
虹色の欠片が、きらきらと光りながら宙に散っていく。
もう二度と、未来の世界と繋がることはできないのだろう。
「…………」
俺は、欠片がすべて消えるのを見届けてから、そっと目を閉じた。
さよなら、親友。
さよなら、俺の元いた時代。
「エルド様」
ルティナ姫がやってきた。
俺は顔を上げて、笑った。
「帰ろうぜ。ディヨルド王国へ!」




