めざめ(1)
水面に映る自分の姿を見ただけで、これは夢だと分かった。だって、髪を染めたことなんて一度もないのに、混じりけのない美しい金髪が揺れていたから。
夢だと分かった理由は他にもある。森の奥深くにいるのか、辺りは背の高い木々に囲まれておりとても暗い。立っているだけで気が滅入りそうなこの場所に、馴染みはなかった。更に奇妙なことに、水面に見える自分の耳は不自然に大きくなっており、臀部からは九本の尻尾が生えていたのだ。だがきっと、夢なんてそんなものだろう。
彼女は泣いていた。打ちひしがれたように四つん這いになって、池の水に映る自分の顔を見つめていた。歯を食いしばって何かを喚いていたが、何と言っているのかは自分でも分からなかった。何も聞こえなかったのだ。だがやはり、夢なんてそんなものだろう。
水際に生えた雑草ごと拳を握りしめてから、彼女はようやく顔を上げた。そして、体の右側に落ちていた刀をゆっくりと手に取る。それから、彼女はそっと刃を自分の首筋に当てた。
もう少し、もう少しで終わる。もう声は聞こえなくなった。だからきっと次が最後だ。この苦しみは次で終わる。次で役目を果たせばもう終わる。あと少し。あと少しだ。
自分の首に刀を突きつけながら、彼女はそんなことを考えていた。
恐怖はなかった。同じような痛みは何度も感じてきた。長く辛い苦しみから逃れることができるのならば、一瞬の激痛などいくらでも耐えられる。
「最後の使命を果たす前に、もしも……」
彼女は掠れた声でそう囁きながら、ぐっと腕に力をこめた。それから、刀を己の首に向けて叩きつけるように迷いなく振る。刃がその美しく柔らかい肌に食いこみ、そして――藤原柚子は目を覚ました。




