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壊れた緋色  作者: 楓海
4/11

和食

 読んで戴けたら嬉しいです。

「わあ、凄いね!

 凄いご馳走だ! 」


 テーブルに広げられた料理を緋曖(ひあい)は、目を輝かせて眺めた。


「そうですか?

 普通の家庭料理っすよ」


 と、言いながら


『こんなに素直に喜んで貰えると、こっちも作った甲斐があるや』


 と、(しゅう)は思った。


「ボク、ずーっとコンビニ食生活だから、家庭料理に飢えてるんだ

 嬉しいよ、こんな温かな料理が食べられるの

 有り難う、萩」


 緋曖は熱の籠った目で萩を見詰めた。


「それは良かった

 張り切って作った甲斐があります」


 萩は照れ笑いをしながら腰を(さす)った。


 緋曖は席に着くとはしゃいで言った。


「もう、食べて構わない? 」


「勿論! 」


 萩は嬉しそうに席に着いた。


「いただきまーす」


 緋曖は煮付けに箸を伸ばし、さといもを口に放り込んだ。


『あれ、美味しいや

 へえ、こいつマジで料理上手いんだ』


「美味しいよ

 萩は本当に料理が上手なんだね」


 緋曖は柔らかな笑みを萩に向けた。


 萩は目を伏せて言った。


「恐縮っす」

「これは和え物? 」


 緋曖は小鉢を手に取った。


「もやしと人参の和え物、隠し味にごま油入れてみたんですけど……」


「え、この赤くて細いの人参なんだ

 ボク、人参嫌いなんだけど、折角だから食べてみるね」


『ボク、ガチで人参嫌いなんだけどな』


 ひと箸口の中に入れると、ふわりと香ばしい香りが広がった。


『人参の嫌な匂いがしない………………』


「これも凄く美味しい」


 緋曖は顔を綻ばせた。


 萩はやっと安心したのか、料理を食べ始めた。


「良かったっす

 気に入って貰えて」


『この辺で、身の上話でもして同情を引くか………』


 緋曖は目を伏せ、箸を両親指と両人差し指で挟んで話し始めた。


「実は、ボクの母もキミの妹さんと同じで、精神病院に入院していて、もう十二年になる

 母が発症した時、ボクは八歳だった

 狂った母によくぶたれた記憶がいつもボクを(さいな)むんだ

 何故、愛されると云う当たり前が、ボクにだけゆるされないのかって………………」


 萩は悲愴な顔で箸を置いた。


「そうなんですか

 緋曖もそんな辛い思いを…………………」


「ごめん

 何だか暗い話しちゃって

 こんな話、折角の料理が不味くなっちゃうね」


 緋曖は哀しげな笑みを萩に向けた。


「そんな事無いっすよ」


 萩は軽く笑った。


「何故かな?

 こんな話、誰にもした事無いのに……………

 キミなら、解ってくれる様な気がしたのかな? 」


『残念、これボクの常套(じょうとう)手段なんだよね』


 緋曖はこうした身の上話をする事で、相手が気持ちを和らげる事を知っていた。


 殊に自分だけに話すと思わせる事で、近しい感情を持っていると思わせる事ができる。


 案の定、萩は素直に喜んだ。


「それなら、嬉しいっすよ

 オレは素直に嬉しいです」


「そうなんだ

 キミは優しいんだな」


「オレは優しい人間じゃ無いですよ

 妹の敵を殺そうと思っているし………」


『そうだね、ボクはまだキミを完全に信用してる訳じゃ無いからね』


「いや、優しいから妹さんをそんな風にした奴が許せないんだよ

 キミは優しい人間の部類に充分値いすると思うよ

 ボクにこんな話をさせちゃうんだから」


 緋曖は熱い視線を萩に向けた。


「そ、そうかな」


 萩は笑って頭を掻いた。


『本当に単純な奴

 案外、落とすのは簡単かもね』


 緋曖はそう思いながら、真剣な顔をして言った。


「処で、どうやってその妹さんをめちゃくちゃにした奴、見付けるつもりなの? 」


『そろそろ、情報収集させて貰いますか…………』


 萩も真剣な表情になって言った。


「とにかく明日、N市に行ってあちこち訊いてみようと思ってます」


「そいつの事、どの程度解ってるの? 」


「可なりのイケメンで、変わった名前って事くらいしか解らなくて」


 緋曖は指を組んだ。


『ここに居るよ

 目の前にね

 キミが殺したいほど憎んでる奴は、今ここでキミの料理を堪能してるよ』


「それだけじゃあ、雲を掴む様な話だね」


 緋曖は表情を曇らせた。


「でも、必ずそいつの周囲には気が狂った被害者が出るって事が解ってるんです」


『こいつ、やっぱり相当の莫迦(ばか)

 その程度の情報で、このボクを特定できると本当に思ってるんだ』


 緋曖は笑い出したくなるのを必死に(こら)えた。


「ボクもできるだけ協力させて貰うよ

 できる事があれば何でも言って欲しいな」


 緋曖は優しく微笑んだ。


『勿論、協力させて貰うよ

 キミはボクの手の内で転がっていればいい』


「本当に、こんなに親切にして貰って、何てお礼を言っていいか……………」


 萩は恐縮していた。


 緋曖は天使の様な柔らかな表情を浮かべて考えていた。


『妹を落とすのも狂わせるのも、あっけないほど簡単で物足りなかったんだ

 そう簡単には済ませない

 兄のキミには責任を取って貰う

 心行くまで、充分楽しませて貰うよ』


 緋曖は組んだ指に(あご)を載せ笑った。


「美味しい料理のお礼だよ」





 読んで戴き有り難うございます。

 この作品の他に「ラプンツェルの接吻(修正版)」を今連載しているのですが、明日はめちゃくちゃ長くて「壊れた緋色」投稿できないかもです。

 ご迷惑お掛けして、すみません。

 m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] いえ。投稿の事情は人それぞれだから、悪いとかそういうことはないですよ。
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