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溺愛の伝え方  作者: 小夜時雨
灰色結婚生活
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3.リリエッタとミリアム

「いってらっさいませご主人〜、これ絶対やらかしましたね?」


「律儀に見送りに来なくていい。引きこもってろゴミ。」


「それは本心っぽい。」



さて小さな幸せであったリリエッタのお見送りもなくなったこの日、契約者であるアルフレドを見送った愛人ミリアムは照れ隠しでないまっすぐな罵倒を受け流しながらちらりと視線を後ろにやった。


大理石の柱の影、ちょうどアルフレドからは見えない位置にリリエッタが隠れているのが見える。

無論アルフレドには見えないので気づくすべもなく肩を落として出勤していった。


アルフレドの背が完全に見えなくなる頃、ミリアムは振り向くと遠巻きに声をかけた。



「そんなに心配なら、一緒にお見送りしたらいいですのに。」



契約で極力リリエッタとの接触は禁じられている。

しかし外からちょっかいをかけないことにはこの夫婦、全く進捗がないのではないか。

そんな愛人の計らいがここにあった。



「はい、いいえミリアム様。

旦那様は私がお嫌いですから。」


「…まぁ、そらそうですわな…。」



あんな罵倒を10年も浴びせられ続けて好意を感じられるわけもない。

このリリエッタの反応は正常なのである。


ミリアムの肯定はリリエッタからの返事による心の中の理解の声だったのだが、リリエッタには変なふうに伝わってしまったらしく。



「はい、ですのでミリアム様が旦那様のお側で支えてくださると大変嬉しく思います。

厚かましいお願いだと承知してはおりますが、役に立てない私の代わりにどうか…。」



深々とお辞儀をされ丁寧にお願いされてしまった。



「や、ウーン…?はい…?」


「ありがとうございます、よろしくお願い申し上げます。」



こちらも一応契約上愛人関係にあるので、否定することもできず曖昧に頷くミリアム。

その返事に満足したのか、いつもの無表情からくしゃりとあどけない笑顔を見せるとリリエッタはその場を後にした。



「はーーーー……可愛、眼福眼福。」



おそらくアルフレドでさえほぼ見かけたことのないであろうリリエッタの貴重な笑顔を真正面からしっかりと目に焼き付け、ミリアムも自室へと戻っていった。



「奥様、本日はどのように?」


「はい、旦那様のお顔色が優れないようでしたのでシェフにメニューの相談に伺った後、念のために薬師に相談を。


その後はいつものように。」


「かしこまりました。」



さてアルフレドが仕事へ赴いている中、リリエッタも屋敷の中で暇を持て余しているわけでもない。

実はリリエッタはアルフレドが思っているよりずっと彼のことを気にかけて注視している。


起床時間から今朝のアルフレドの顔色、モーニングの食の進み具合、帰宅時間から全てにおいて観察し、その都度食事のメニューや湯あみの温度、部屋のアロマまで毎日細かく指示していた。


…ことはアルフレドもミリアムも知らない。


罵倒されながらも健気に主人を気遣うその様が、使用人達の涙を誘っていた。



「この案件…はどうにかお断りできませんか?」



そうしてランチを済ますと各所から届いた招待状などの整理が始まる。

自分の不器量さで結婚式を挙げることができなかった、と思っているリリエッタは極力人目を避けるべく何とかして招待をお断りしているのだが。



「こちらは…厳しいかと。」



今度のお便りはそうもいかないようであった。



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