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溺愛の伝え方  作者: 小夜時雨
スタートライン
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6.好きなもの

「ランチは……温室でとろうか、行きたいんだろう?」


「はい!ありがとうございます!」



時刻は12時を過ぎた頃、アルフレドは使用人に食事を温室へ運ばせるよう伝えるとリリエッタを温室へエスコートした。

ガラス張りの部屋に太陽の光が柔らかく差し込み、室内用の観賞植物が静かに揺れて2人を迎える。

この温室、サンルームとも呼ばれるここは二世代前の当主の妻、つまりアルフレドの祖母が建てたものであった。



「祖母はお前と…リリィと同じで、花や植物を愛していた。

変わった方だったよ、庭師でもどうにもできず萎れてしまった花は、祖母が手掛けるだけで色を取り戻した。」


「まあ……凄いわ、本当に植物がお好きだったのですね。」



温室の中は、植物への愛に溢れていた。

大事にされてきたのであろうことが、一目見ただけでもわかる。

自然と温かな気持ちになり、リリエッタはアルフレドに微笑みかけた。



「祖母には妖精が見えていたらしい、子供の頃に内緒だと言われて聞かされたよ。

俺もその時は小さかったから、それを信じて律儀に誰にも言わなかったが……まあ、それも含めて変わった方だった。」



思い出したようにポツポツと祖母の思い出を語るアルフレド。

今は亡き祖母だが、こうして祖母が大事にしてきた屋敷を今は自分が守っているのだと改めて責任の重さを感じた。


妖精の話は、もちろん今は信じていない。

嘘を言う人ではなかったが、どうにも空想じみていて大人になってしまったアルフレドにはお伽話の世界のように感じられてしまう。



「まあ妖精!?あの東の国にいるという妖精ですか!?

こちらにも存在していたんですね!凄いわ!」



しかし根が純粋すぎるリリエッタはそんな話を信じ込んでしまったようだ。


女性はこういうおとぎ話に憧れるというが、それは憧れであって、本当に実在しているかどうかという話になってくると別であろう。

こういう話を長い間しなかった分、リリエッタの乙女らしいというか、メルヘンな思考にアルフレドは少し驚いていた。


いつも変わらない表情で、泣くことも怒ることもせず冷静に謝り続けていたから、彼女はまだ16歳だったのだと少し自嘲気味に笑った。



「さあ、祖母には見えていたのかもしれないが、俺には見えなかったから。」


「きっと見えていらしたんですわ。


そのことをアルフレド様だけには知っていてほしかったから、内緒だとお話ししてくれたんでしょう?」


「どうだかな…今となってはわからない。


ただ、この温室は不思議とあまり手を加えなくても状態がいいんだ。

ここには祖母が言っていたように、その妖精がいるのかもしれないがな。」



小さな白いイスにリリエッタを座らせると、ちょうどランチが運ばれてくる。

結婚当初はこの食事の時間どう話をしようか悩みに悩んで腹を痛めたものだが、今ではうまく話題が出てこなくてもリリエッタが話しかけてきてくれる。


一口サイズのサンドウィッチを幸せそうに口にするリリエッタに、釣られてアルフレドも頰が緩んだ。



「今日お前と話しができてよかった。」



改めて話をすることなんてなかったから。

1度目のデートはやはりお互い緊張していて、お互いのことを話す余裕などなかったし、数度開いたお茶会にはベアトリスやミリアムがいたから2人きりで話すこともなかった。


傷つけることなく普通に話すこと自体、アルフレドにとっては至難の業であったので、余計にこの他愛ない話をする時間がひどく幸せに感じられた。


嬉しそうに微笑むと、リリエッタは首を振って言った。



「まだランチの時間ですもの、これからですわ旦那様。

私はまだまだ旦那様のことを知らないのですもの、たくさんお話ししてくださいませ?」


「……俺のことを?何を話せば……。」



そう、リリエッタはまだ今日の目標をすべて達成していないのである。

来たる来月のアルフレドの誕生日の為、この場を設けたと言っても過言ではない。ここからが本番である。


しかしいきなり話せと言われても、と口ごもるアルフレド。

対してリリエッタはこれまで聞けなかった分のありとあらゆる質問を事前に用意してきている、サンドウィッチを飲み込んでしまうと勢いよく質問を投げかけた。



「まずはそうですね、好きなものの話をしましょう?


旦那様、何か好きなものはございますか?

お色でも食べ物でもなんでも構いません、貴方の好きなものを知りたいのです。」



そんなものリリエッタである。

即答しそうになった口を間一髪塞ぎ込むと、なるべく口を滑らせないよう当たり障りないものからいこうと決め、紅茶を一口飲み込んだ。



「色か、色なら青が好みかな。」


「ふむふむ。」



ちなみにリリエッタの瞳の色である。



「食事にはあまり関心はなかったが、最近はフレンチトーストにシナモンがかかっていたのが舌に合った。」


「なるほど。」



補足するのであれば、リリエッタが用意させたものである。



「あまり好みについて深く考えてこなかったな……。

参考にお前の好きなものの話をしてくれ。」


「えっ、私ですか?うーん……。」



リリエッタの期待の視線に耐えきれず、うまく話題をそらす。

自分のことについてあまり考えてこなかった、というのは本当であって、というのも10年ずっと彼女を追い詰めては帰って猛反省会を繰り返していたからである。

セティス家の長男ともなればしなければならないことも幼い頃から沢山あり、それも相まって自分のことについて考えることなどなかったのだ。


たっぷり悩んだあと、ゆっくりとリリエッタは話し始めた。



「そう、ですね……色はどの色も個性があって好きですが、強いて挙げるのであれば暖色系のお色でしょうか?ああ、この間いただいたドレスの空色も素敵な色でしたね。」


「そうだな。」



あの時ほど空色のドレスに感謝したことはない。



「旦那様はすでにご存知かと思いますが、私甘いものに目がなく……気をつけねば太ってしまいそうで。


あとはこれもご存知かと思いますが、花は何でも好きです。」


「ああ。」



贈り物に花と菓子は外せない。



「そうですね、あとは……。

今は、旦那様とこうしてお話しできる時間が好きです。」


「うっ。」



そしてトドメの殺し文句である。

アルフレドよりよっぽど男前なリリエッタは、恥ずかしがることもなくサラリと言えてしまうのだ。


既に色々負けてしまっているのでは…と、ニコニコ顔のリリエッタに癒されつつも敗北を感じるアルフレドであった。


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