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溺愛の伝え方  作者: 小夜時雨
灰色結婚生活
11/25

10.プレゼント大作戦

「ああ、謝罪の言葉以外あんなに沢山話すリリィは初めてみたよ…。」


「君よく振られないでいるねアル。」



先日のお茶会のことをまるで夢のような時間であったと語るアルフレドのお相手をするのは昼休憩のユリウス。

始終機嫌がいいので周りも仕事が捗っているようだ。


いかんせんキリリとしたシャープなラインの瞳が眉根を寄せ更に不機嫌オーラを漂わせていると声をかけづらいのだ。

その点ユリウスは人懐っこい垂れた目元のお陰で部下との交流はアルフレドより多い。


おおよそ一ヶ月ぶりになるのか、結婚当初以来の幸せオーラを纏ったアルフレドのおかげで本日は早上がりできそうな勢いである。



「アルバムができたら、是非一度見せてくださいよ。」


「誰がお前なんかに、リリィが汚れる。」


「写真だけで!?」



浮かれているからといってアルフレド自身の仕事に影響はなく、むしろ作業効率が格段に上がる。

早く帰って奥さんに会いたい一心のことであろうことは安易に想像できた。


この勢いで素直に好意を伝えたらいいものを、ユリウスはため息をつくと不憫そうに視線をやった。



「なんだその目は。」


「いや、別に…僕に彼女のことを話すように、彼女にもそう言えたらいいのになってね。」


「出来れば10年も悩まん……。」



聞けば相当な罵詈雑言の数々。

本当になぜ離縁を言い渡されないのかが甚だ疑問だ。


その後も惚気ながらも順調に仕事は進み、異例の15時上がりとなった。

まっすぐ直帰しようとするアルフレドの背を捕まえ、いいことを思いついたとばかりにユリウスは言った。



「花を贈ろうアル!」






街中に金髪と黒髪のべらぼうに顔のいい青年がペアでうろつくと、流石に目立つものである。

通りすがりの年頃の女性は見事にポーッと頬を染めており、恋人であろう男達は悔しそうに帽子を深くかぶり直していた。


さてユリウスに連れられたのは街で一番大きな花屋である。

散々聞かされた惚気の中から"花好きな奥さん"という情報を得られたので、ちょうど帰りの早いこの日に花束を購入し贈ろうと提案したのである。


美青年に花束、これで落ちない女性はいまい。



「い、いらっしゃいませ!贈り物ですか?」



街中のいい男とは格段にレベルの違う2人に気圧され、まるで太陽を直視しているかのように目を細めて対応する女性店員。

美しいものが光り輝いて見えることは、先日のリリエッタで証明されたところだ。



「ええ、彼の奥さんにね。

花束を贈りたいんだが見繕ってもらえますか?」


「はい、もちろんでございます!


奥様のお好きなお花などご希望ございますか?」


「…かすみ草が好きだと言っていたな。」


「かしこまりました、一度サンプルをお作りいたしますのでそこから微調整していきましょうか!」



かくしてアルフレド、人生で初の花束プレゼント作戦が始まったのである。


あれやこれや店員と思案してみればあっという間に1時間。

メッセージカードも添えてはどうですかという提案には、流石に気恥ずかしさがあり丁重にお断りさせていただいた。


仕上がったのはかすみ草の白とマーガレットのピンクを基調とした可愛らしい花束。

丁寧にピンクの包装紙と薄い水色のリボンでラッピングすれば、流石の美青年、アルフレドでさえ持つのを躊躇われるラブリーさである。


しかしここまで作ったのであれば渡さない手はない。

チップを上乗せし代金を支払うと、深呼吸をして呼びつけた馬車に乗り込んだ。



「まあグッドラックといったところかな、親友。」


「付き合わせて悪かったなユリウス、感謝する。」



パチンとウィンクを器用に決めると、ユリウスはひらひらと片手を振りながら繁華街へ消えていった。

ああ見えて遊び人の彼のことだ、きっとまた好みの女性を引っ掛けにいったのだろう。


馬車に揺られること15分、自宅に到着するやいなや御者からは



「きっとお喜びになられますよ。」



と声をかけられ、ヴィンセントからは



「奥様はいまお庭におられますよ。」



と気遣われた。


ここまで来て急に恥ずかしくなってきたアルフレドは、皆の余計な気遣いに眉を寄せつつ庭へ足を向けた。


そこに確かにリリエッタがいた。


噴水の近くに簡易のテーブルとイスを設置し、薔薇の花をエマと楽しそうに鑑賞している。

まだこちらには気づいていないようだ。


アルフレドはもう一度深呼吸をし煩い鼓動を静めると、意を決してリリエッタの元へ歩み寄った。



「まあ、おかえりなさいませ旦那様。


何かご用ですか?」



いつもは屋敷に直行のアルフレドが、珍しくもリリエッタをたずね庭へ足を運んだ。

その事実に少し驚きつつも、リリエッタはいつものように失礼のないよう立ち上がり、問いかける。


しばらくの間を経て、ようやくアルフレドは口を開いた。



「……受け取れ。」


「えっ…まあ!綺麗な花束…!」



なるべく罵倒が口をつかないよう命令系ではあるが短い言葉で伝えるよう意識する。

あまり長く喋ると不要なことを言ってしまいまたやらかしそうで。


花束を手渡すと目を輝かせ受け取ったリリエッタであるが、しばらく花束を眺めた後、ふとアルフレドに目をやり小首を傾げた。



「1つ…だけですか?」


「…2つ、欲しかったのか?」



質問の意図が汲み取れずリリエッタの疑問を疑問で返すアルフレド。

1つではダメだったのだろうか、今時は2つ花束を贈るものなのだろうか?

いやそれならあのユリウスが助言してくれているはずだ。


などとぐるぐると思考を巡らすも、それはリリエッタの言葉によって遮られた。



「いいえ旦那様、ミリアム様の花束がお見受けできませんでしたので…。」


「ミリアムの……?」



なんとなく会話の雲行きが怪しくなってきた。

察知したエマはどうにか助け舟を出そうと頭をフル回転するが、追いつかず。



「申し訳ございません、これはいただけませんわ旦那様。

ミリアム様を差し置いて私だけいただくわけには参りません。」



案の定。

エマは大変申し訳なさそうな顔をすると額に手を当てた。


どう言えばリリエッタに受け取ってもらえたであろうか。

しかしながらいまそのことを考えたって無駄なのである。



「え、で、私に花束が流れてきたんです…?」


「煩い……黙ってくれ……。」



結局は何も言い返せず、おまけに罵倒まで付けて尻尾を巻いて逃げる始末。

エマが哀れむような顔でそっと頭を下げていたのが、今になってアルフレドの心にじくじくとダメージを与えていたのであった。

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