0.拗らせた関係
このお話にザマァ展開はありません、ご注意くださいませ
広大な土地と賑わった街、豊かな緑に囲まれたこの一等地を収める貴族。
その婚約者である美しい少女は、本日も本日とて虐げられていた。
「貴様は本当にトロいな、リリエッタ。
器量も要領も悪いお前が俺の婚約者だなんて、未来を絶望するよ。」
陽光に見事に光る金髪を携えた目を見紛うような美男子は、その赤い瞳を細め目の前で地に膝をつけている少女に吐き捨てるように言った。
「見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんセティス様…。」
慣れない高いヒールを履きこなせず、とうとう躓いてしまった少女は、プラチナブロンドの長い髪をかきあげ申し訳なさそうに頭を下げた。
彼女の名はリリエッタ=ラフィズリー。
目の前で煩わしそうにこちらを見下げるアルフレド=セティス公爵の許嫁である。
今日は田舎に隠居しているアルフレドの両親へ挨拶に伺う日である。
近くまで馬車で来たとはいえ、整備されていない田舎道に足を下ろした途端躓いてしまったリリエッタは、慌ててドレスに汚れがないか確認して安心したように立ち上がった。
そうしてもう一度、彼に深々と頭を下げ謝罪の言葉を述べる。
その慇懃無礼さが、彼を苛立たせているとも知らずに。
「貴様の間抜けはいつになったら治るんだ?」
「はい、申し訳ございません。」
「その醜いツラは幼い頃から変わらないなリリエッタ。」
「はい、おっしゃる通りでございます。」
「……ッ_________!」
この歪な関係は10年前から変わらず、とうとう結納の日は明後日に迫ってしまった。
続く罵倒に顔色ひとつ変えず、言い返すこともなくひたすらに謝罪を繰り返すリリエッタ。
そんな彼女をアルフレドは…
(お前が醜いのなら世の中の女は化け物か何かか!?あぁ!?)
超が付くほど溺愛していた。
顔がよくて地位もあり、その仕事ぶりは国王陛下からもお墨付きを頂いている。
そんな彼が唯一ままならないのが、リリエッタへの愛情の伝え方であった。
ツンデレといえば聞こえはいいが、デレの要素は皆無であり、リリエッタはこの婚約を完全に政略結婚だと思い込んでいる始末。
彼女が16歳、アルフレドが21歳を迎える結納の日までになんとか告白するつもりだったのだが。
「父上ももっと見目の良い女を選んでくれればよかったものを…。」
「申し訳ありません。」
この拗らせようである。
初めて顔を合わせた10年前からずっと、何故リリエッタの方から絶縁を言い渡されないのかが彼にとっては本当に謎である。
幼い頃からアルフレドの罵倒の嵐により、リリエッタはすっかり自尊心が低く育ってしまっている。
こんな自分と結婚してくれるのは最早アルフレドしかいない、そう思っているリリエッタと実はそんな思いの行き違いがあった。
これはそんな両片思いの彼女たちの、微妙にすれ違ったお話である。