表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/126

「ねえ。夏休み、なんだよ」


高校生活、最後の!

まさかあたし達、最後まで、インドア派のままでいる気?


わたしは退院したばかりで、まだ安静にするように、と言われていて、ずっと家の中に籠り切りだったのですが。ある日突然におうちを訪ねてきたノノの、その言葉をきっかけに、外へ出ることを決めました。


あの日の日差し、ほんとうに眩しくて鮮烈。

じっと日向を見ていただけで、両目の奥のほうに痛みを覚えるほどのものでした。それこそ、まるで生まれて初めてモノを見ているようでした。


「おかえり、七穂」


駅の改札の前に、有慈くんがいました。

ながい間、わたしは彼に会っていませんでした。

久しぶりの、再開です。


わたしは、笑います。


「はい、ただいま、かえりました」


ノノは小さくため息をついて、けれど表情は柔らかく。


「なに、かしこまってるの」


と、少しだけ頬を膨らませます。

あの子には、わたしと有慈君の関係について、少しだけ含みがあるみたいです。

何度も、恋人ではありません、と、そう言い聞かせているのですが。

たまに、いつかそうなるんじゃないか、とばかりに、じっとりと据えた目でわたしを睨みます。


「そうだぜ、そんな改まった態度じゃ、カミウラも余計心配するぞ」


カミウラ。

そうです、ノノは、カミウラノノカです。


今は。

いまや。


今となっては。


すべては、わたしのせいです。


「さて、じゃあ今日は、退院祝いだ!」


俺のおごりで、どこへでも遊びに連れていってやるぜ!

と豪語する有慈くんの前で、わたしは自分のお財布の中身を確認して。

それがツボだったのか、ノノは笑い出してしまいました。


「なんだよ、信用してくれって、今度こそ!」


以前、ユウジ君が払うと言ってくれたお金をわたしが立て替えたのは、そう。

随分昔の事のように思えます。

まるでデートのような……そして、ひょっとしたら。

わたしの生涯がそこで終わっていたかもしれない、一日でした。


ノノにつられて、わたしも笑い出して。

それにつられるように、有慈くんもお腹を抱え始めます。

こんな景色を、また見られるなんて、夢にも思いませんでした。


それが嬉しくて、涙が止まらないほど嬉しくて、笑いながら、わたしは泣きました。

わたしは、そうです、安堵していました。


まるで夢のようです。

夢の中で、けれども明晰に、清々しく息をしているみたいです。

それは、意図して作り上げられた、作り物の夢ではありました。

でも、けれども。

わたしを蝕んでいた、わたしの体中を、血管の中を、びりびりと痛みを伴って流れ続けていた、あの悍ましい穢れが、いっぺんに洗い流されていく気がしました。


自分が最早、那々ではないことに。

加瀬七穂になれたことに。

心から、喜びを覚えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ