学年対抗飛行リレー・前編
遂に学年対抗飛行リレーの日を迎えた。
空は晴れ渡り、風もほとんどなく、絶好の飛行日和だ。
つまり、飛びやすい気候ということは、普通に飛べば三年生の勝利は間違いなく、アクシデントによる低学年の勝利も期待しにくいということだ。
だがそれはいつもの学年対抗飛行リレーであればの話。
今年の一年生に、そんな考えの者はいない。
一年生たちは予想外の出来事による番狂わせなど最初から狙ってはいなかった。
本気で優勝を狙っている。
しかも一年生たちには、それを成し遂げられるだけの力を短期間で身につけたという自信があった。
「みんな、体調は良い? 相棒の様子はちゃんと確認した? 不調な子はいない?」
「フッ、私のレグスに不調などあり得ない」
「アストラは今日もご機嫌でしたわ」
「グランも問題なかったよ」
「ロッソも気合十分だぜ」
選手に選ばれたカイル、クラリス、レオン、エドが、当然といった顔でルルの声掛けに答える。
「みんな頑張ってね。私は第三休憩所で後方支援に回るから」
「僕もミアと一緒に第三休憩所で、みんなの力になれるよう頑張るよ」
「僕は出発地点で支援するから」
「僕もノアと一緒に支援する。エド、僕の分も頑張ってくれよ」
ミアとディーンは第三休憩所で選手の支援に回る。
そしてノアとハルトは出発地点となる学園側で選手を支援することになっていた。
結局、レースの選手にはエドが選ばれた。
エドとハルトの力は拮抗していたが、安定性という点ではエドの方が上だった。
それにこれは二人で話し合い、納得して決めたことでもある。
飛行訓練に集中して取り組んだ結果、ロッソの飛行速度は一気に跳ね上がった。
そのこともあり、ハルトはエドとロッソに勝負を託したのだ。
きっとロッソは、そのうちスピード狂と呼ばれる竜になるだろう。そう思わせるほど、速く飛ぶことに執着しているようだった。
「みんな、いつも通り飛ぶよ。肩に力を入れ過ぎないでね。私たちならできる! 絶対に優勝するからね!」
「「「おう!」」」
一年生全員が気合を入れる。
そして全員が学年カラーである水色のたすきを身につけると、第三休憩所側から飛ぶ第二走者と第四走者は、支援メンバーと共に第三休憩所へ向かっていった。
レース前に疲れないよう、飛ぶ速度はお散歩程度だ。
その姿を見送り、ルルたち学園側の生徒は、今日の飛行について話し合いながら、上級生たちの様子にも目を配る。
「二年生は、飛行のエースだった先輩が今年は出ないみたいだよね」
「その先輩は一度飛べなくなってから、スピードが出せなくなったそうなのよ。なのに、それで自分を見直すのではなく、竜を責めたらしいのだから自業自得ですわ。二年生はセドリック先輩を一番警戒するべきね。先輩の本気の飛行は、今日のレースでしか見られないはずですもの」
「三年生はやっぱりアルフレッド先輩だろうな」
「うん、アルフレッド先輩の竜は重量級なのに、飛行速度は学年一だもんね。風の力を使って押し切られたらキツイ相手だから、気を付けないと」
先輩たちの竜が傍にいても、先輩本人が近くにいても、一年生たちは怯えることがなかった。
飛行するメンバーも支援メンバーも、皆でレースについて話し合っている。
それに、自分たちなら勝てると信じていた。
勝利だけを目標に進む、自信あふれる仲間たちの姿が、ルルには嬉しかった。
「では、第一走者はスタート地点に着いてください」
学園の教師から声が掛かり、エドはレース用の竜アンカーを握り締めてスタート地点へ進む。
「エド、頑張ってね」
「エド、貴方ならできますわ」
「エド、応援してるから」
「エド、ロッソならできるって信じてるぜ」
エドは返事の代わりに竜アンカーを胸に当て、任せろと言わんばかりに相棒のロッソの横に立った。
ふんすっと気合を入れるロッソの背を優しく撫で、落ち着け、大丈夫だと伝えている様子は、さすがと言える。
ルルと一緒にグレイヴに乗ったことのあるエドにとって、ほかの竜が放つ圧など何ともないようだった。
「只今より、学年対抗飛行リレーを行う。第一走者……スタート!!」
教師の号令が掛かった瞬間、エドは素早く竜アンカーを使い、ロッソへと乗り込む。
その動きは三年生と二年生の代表者を上回る速さで、エドは真っ先に空へ飛び出した。
「凄い凄い、エド! 凄いよ!」
器用なエドらしい最高のスタートに、ルルの口から称賛の声が上がる。
第一走者こそ一番緊張するはずなのに、エドは普段以上の力を発揮していた。
その姿からは、彼の心の強さと、相棒としてロッソを導く頼もしさが感じられた。
「第一走者、第一通過地点、順位、一年、三年、二年。その差は僅差!」
最初の通過地点を通過したことで、レースを見守っていた教師から連絡が入る。それを受け、スタート地点の教師が拡声器を使って皆に報告した。
「エド、一位をキープしてるよ!」
「ああ、さすがエドだぜ!」
エドはあのスピードのまま飛び続け、高学年の代表者に負けない速さで一位をキープしているようだ。
この時点で、すでにいつものレースではあり得ない事態が起きていた。
一年生が首位。
そんな信じがたい光景に、学園までレースを見に来ていた街の人々から大きな歓声が上がる。
「おい、聞いたか。一年が首位だってよ」
「いやいやいや、そんなん今だけじゃねーのか」
「嘘だろ、信じらんねー。見間違えだろ」
驚いているのは王都の人々だけではなかった。
校長や教師陣はもちろん、レースを見に来ていた国王や第二王子のアレクシス、竜騎士団長も同じように驚いているようだった。
(エド、勝負はここからだよ。負けないで!)
第一通過地点は、第一休憩所のことだ。
そこまでは、セレスならともかく、大柄な竜ほどスピードに乗り切れない。だからこそ、高学年はここからスピードを上げてくるはずだ。
ただ、エドは普通の一年生ではない。
ルルと共に、グレイヴから竜の飛行について何度も指導されてきた少年でもある。
先頭は風を受ける位置でもあるが、一番前を飛ぶ利点もエドは理解していた。
第二走者が待つ第三休憩所までの最適なコースを飛べるうえ、後ろから来る先輩たちの竜の進路を塞ぐこともできるからだ。
そのため、第二中継地点でもエドは一位のままだった。
その情報が流れると、先ほどまでよりもさらに大きな歓声が上がった。
「今年の一年生はスゲーなー!」
ざわざわと、そんな声があちらこちらから上がる。
その一方で、「三年生が不甲斐ない」とか「二年生は何をやっているんだ」といった勝手な声も聞こえてくる。
これはこのレースに競技賭けがあるからだった。
まだ学生である竜騎士生は正式な竜騎士ではないため、賭けの対象にできる。
そのため毎年大盛り上がりになるのだが、高学年が勝つと予想して賭けている者も多かった。
そんな事情もあり、選手である高学年の生徒たちにも野次が聞こえてしまう。
中には、ルルたち一年生を睨む生徒までいた。
「第一走者、中継場到着。一位、一年。二位、三年。三位、二年!」
どうやらエドは無事に逃げ切ったらしい。
三年生との差はさほどないようだが、新人竜であるロッソの飛行だと考えれば、これは大成功だ。
エドは第一走者としての責任を、しっかり果たしたと言える。
「次はレオンね……」
「うん、レオンなら大丈夫だよ」
心配そうなクラリスに、ルルが声を掛ける。
エドの時はまったく平気そうだったクラリスだが、レオンのことは心配で仕方がないようだ。
(エド……恋のレースではスタートにも立ててないみたい……)
手を握り、レオンの活躍を祈るクラリスは、恋する乙女そのものだった。
ルルはちょっとエドが可哀そうになりながらも、第二走者であるレオンの飛行に集中する。
レオンは何でもそつなくこなし、力を抜くタイプだった。
けれどクラリスと出会ってから、それは変わった。
何でもそつなくこなすのではなく、クラリスに認められるために、全力で竜騎士の勉強に力を入れ始めたのだ。
だからこそ、今のレオンは無敵とも言える。
第二走者として先輩たちを引き離し、ぐんぐんとスピードを上げていく。
「第一通過地点、一年一位通過!」
一年生の通過だけが伝えられ、ワァッと歓声が上がる。
その後、三年生と二年生の通過も伝えられたが、一年生との差はかなりあるようで、レオンが飛ばしていることが分かった。
「レオン、頑張って……」
クラリスの祈りは無事に届いたようで、レオンはクラリスの待つ中継地点に、後続を引き離して一番乗りで到着した。
「クラリス! 頼む!」
「レオン! 任せてちょうだい! 貴方の努力は私が受け継ぐわ!」
バトンとなる竜アンカーを手渡す瞬間、クラリスとレオンの視線が交わる。
その瞬間、二人の間には、二人しか見えない。
そんな世界が広がっているようだった。
「アストラ、行きますわよ」
気合を入れたクラリスは、アストラと共に飛び上がっていく。
学年対抗飛行リレーは、一年生が先頭を走ったまま、後半戦へと向かっていった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
飛行リレー、読みにくいかもしれませんが、今の私の精一杯です。




