第6話 死なばもろともって感じだね。
「そういえば、文化祭って数週間後ですよね」
今日の課題本から顔を上げて、彼女を見る。
梅雨入りなのに、すとんと落ちる髪はとても綺麗だ。
とても羨ましい。
ゴールデンウィークに遊園地に行ってからは、いつも通りの生活を送っている。
今は部活中で、三輪さんがおもむろに文化祭の話を出してきた。
「文芸部って何するんですか?」
「作品の展示だよ」
椅子から立ち上がって、開けていた窓を閉める。
文化祭は私たち文化部にとって一大イベントである。
いつも通りであれば、廊下に作品を張り出すことになる。
「作品ってなんの作品を……?」
「自分で書いた作品だよ」
逆に誰の作品を展示するんだ。
「じゃあ何か書かないといけないってことですか?」
「うん」
「えー……」
ちょっと嫌そう。
「私たちの作品なんて誰も見ないから気負う必要ないよ」
「それはそれでどうかと思いますけど」
おっと、励まし方を間違ったみたいだ。
「芽衣さんは去年の文化祭で何か書いたんですよね?」
「そうだね」
「どういう感じだったんですか?」
「評論寄りの文章を書いたよ」
きさらぎ駅と猿夢の関連性という、個人的興味を詰め込んだ内容だったけど。
ちなみに小泉さんからはかなり好評だった。
「今年も同じ感じですか?」
「いや、今年は小説にしようかなって思ってる」
「めっちゃハードル高いんですけど」
そんなことないと思うけどな。
私も書いたことないけど、何とかなる気がする。
「千尋ちゃんが好きな話を書けばいいだけだよ?」
「好きな話を書くのが難しいんですよ」
三輪さんは唇をきゅっと結ぶ。
困った様子もどことなく愛嬌がある。
庇護欲をくすぐられるっていうか。
そんなことを考えていると、あることが頭に浮かんだ。
「ていうかさ、千尋ちゃんが好きなのってなに?」
実は三輪さんのことを私は詳しく知らない。
「怖い話ですけど」
「それ以外は?」
「……」
三輪さんは黙ったまま、私の顔をじっと見つめてくる。
「怖い話以外ない感じ?」
「……そういうことでは、ないんですけど」
私たちは怖い話以外、ほとんど話をすることがない。
だからもっと三輪さんのことを知りたいのだ。
「例えば恋愛とかあるじゃないですか」
「うん」
とっても人気のあるジャンルだ。
少なくとも怖い話よりは人気だと思う。
「それを書くとしますよ?」
「書くとする」
「もしそうなったら、私の恋愛観がバレる可能性あるじゃないですか」
それは恥ずかしいです、と三輪さんは呟く。
「自分が書いたのをばれるのが嫌って感じなら、名前伏せても良いけど」
それくらいのことは顧問の先生も多めに見てくれるだろう。
「でも芽衣さんは私が書いたってわかるんでしょ?」
「同じ文芸部だから、それは仕方ないよね」
「それが嫌だって話なんですけど」
他の人にバレるのは問題ないらしい。
その話を私にするってどうなの?
ちょっと傷つくんだけど。
「じゃあ怖い話かまた別のジャンルかってことで良いよ」
「うーん……」
私をちらちら見ながら、三輪さんは腕を組んだ。
部室に何とも言えない沈黙が降りる。
少し居心地が悪くって、飲み物に口を付けた。
飲み込んだ液体は、するする身体に吸い込まれる。
「……やっぱ芽衣さんに合わせます」
しばらくしてから三輪さんはぼそっと呟いた。
「もし芽衣さんが怖い話を書くなら書きますし、恋愛だったら私もそうします」
彼女の瞳には、私がはっきり映っていた。
これを部長としてどう捉えるべきだろう。
主体性がないというべきなのか、逆に主体性があるというべきなのか。
どのジャンルでもオッケーって感じだし。
「死なばもろともって感じだね」
「そういう感じです」
厳正なる話し合いの結果、私たちは恋愛をメインにした作品を書くことになった。
高校生ウケの良い作品のほうが、学校からの評価も良いのではという打算込みだ。
ちなみにそれは、三輪さんが力説してくれたので、その一部を紹介しよう。
『やっぱり恋愛系が良いと思うんですよ。ほら、高校生ってみんな恋愛好きじゃないですか。芽衣さんもそうですよね? ですよね、よかった。同じ年代の人の書いた恋愛作品ってそんなにないんで、興味を持って読んでくれると思うんですよ。私も芽衣さんの作品、めっちゃ興味ありますし。あくまでも同じ部活動の中でってことですよ? あっあと、私たちが恋愛作品を書くっていうのが、その、学校から見ても好印象だと思うので恋愛系が良いと思います。逆に恋愛作品以外はちょっとダメかもしれないです。もちろん私は大丈夫ですけど、他の生徒はどう思うかわからないし。例えば私たちが怖い話を書いたけど、もし読んでくれる人がダメだったら可哀そうじゃないですか。もちろん私は大丈夫ですけど。なので……』
とても熱心に恋愛系作品を書く意義を教えてくれた。
「じゃあ、次の部活から文化祭に向けて作品を書くってことにしようか」
「わかりました」
三輪さんはこくこく頷く。
心なしかいつもより嬉しそうだ。
今後の予定を簡単に説明してから、今日の部活を終わらせる。
「じゃあ芽衣さん、始めても良いですか?」
「いいよ」
恒例の怖い話が始まるようだ。
「今日お話しする怖い話は……か、姦姦蛇螺……」
ごめん三輪さん、その話知ってる。
しかし彼女の表情を見ると、どうしても言い出せなかった。
頑張って仕入れてくれたんだろうし、最後まで聞かないのは失礼というもの。
私はニコニコ笑いながら、某掲示板で屈指の怖い話を聞き始めた。




