16話 古代魔法
魔力が僕の全身を巡り、指先に収縮していく。
イメージは、火の魔法属性と水の魔法属性の融合――そして、膨張。
正反対の魔力が、エネルギー同士が、もみくちゃになって爆発する――そんな感覚だ。
それから、万が一成功したとして至近距離で爆発するとまずいから、発動までの時間に若干の遅延を加えるような感じで……うん、いける!
僕は頭の中のイメージをそのまま、魔力に乗せるような感覚で詠唱をした。
「火×水――【爆ぜよ水】ッ!!」
――――ドバァンッ!!
次の瞬間、昨夜と同じく激しい衝撃が走り、砂煙が舞った。
だいたいの狙い通りの場所に撃てたけど、離れていてもその衝撃はビリビリ伝わってくる。
イメージがそのまま……魔法になった。
「……で、できた……できちゃった」
「…………すっごぉぉい……」
僕もロナンさんも口をぽっかりと開けたまま、白い煙が立ち上っていくのを見つめていた。
しばらく茫然としていた僕たちだったが、ロナンさんがポツリともらした。
「……レキムさん、あなた何者……?」
「……ははっ」
自分でも分からないから、困る。
ただの一般人です、と言うには古代魔法というイレギュラーな存在が大き過ぎる。
もし、この魔法が無かったら、”ただの無能な一般人”と即答できたのに。
……なんだろう、こんな簡単な質問の答えに困ったのは、初めてだ。
僕の心の中には、小さな好奇心が湧いた。
もし、もしかすると――これは”他の魔法でも”できるんじゃないか――?
* * *
「えぇっ!? あの魔法って、オ、古代魔法なんですかぁっ!?」
ロナンさんの大きな声に、近くの小鳥が飛んで逃げた。
僕は、さっきの魔法の説明と昨日の夜の不思議な出来事を彼女に話した。
……と言っても、僕自身よく分かってないことだから話せることなんて少ないんだけど。
それでも、ロナンさんの興奮はどうやら最高潮のようだ。
「ちょ、ちょっとレキムさん、本当に何者なんですかぁ!? 私、古代魔法なんて、おとぎ話の世界だと思ってましたよぉっ!? えー、うわぁ、本当に見ちゃったんだ、私っ!!」
驚いたり喜んだり、くるくる回ったり……忙しい人だなぁ。
「ま、まあ、落ち着いて……古代魔法って言っても、あくまで僕の感覚だけの話なので、確証はないですから……」
……と、言いつつも古代魔法かどうかを確定づけるものが、そもそも存在しないから確かめようもないんだよなぁ。
とりあえず、暫定古代魔法って感じだろうか。
「いやいやいや、それでも十分すごいですって!! あの衝撃力は痺れましたよ! さすが古代魔法の、えぇと……イドラだっけ? すごいなぁ……」
「ええ……ん? あぁ、違いますよ?」
「あれっ!? ごめん、名前間違ってましたか?」
「いや、名前はあってるんですけど、さっきの魔法自体は別に古代魔法って訳じゃないですよ」
「……え? なに、どういうこと??」
ロナンさんは首をかしげたままフリーズしてしまった。
さて、どこから説明したものかな……
「まず、僕が習得した古代魔法は、月詠という月属性の魔法――それも恐らく、基礎魔法です」
「なる……ほど? つまり、あくまでも古代魔法って呼び方は魔法上の分類ってだけで、正しくは、昨日の夜に月属性の魔法を覚えた……ってことかな? じゃあ、さっきのイドラっていうのは月属性の魔法効果、もしくはその応用による別の魔法ってこと?」
「……ご、ご明察、です。 魔法を掛け合わせる、という意味では合成魔法と言えなくもないですかね」
おっどろいた。
ロナンさん、察しが良いというか……実はめちゃくちゃ頭良いんじゃないか……?
たったあれだけの説明で、ここまで理解して言語化できるなんて。
「メ、合成魔法って言ったら、高度な魔導技術の一つじゃないですか!!」
「あ、あくまでも、それに準ずるものってだけです! 恐らくですけど、月詠の効果は魔法同士を掛けあわせるもの、だと思います。 さっきの魔法もですけど、月詠を覚えるまではそんな発想なかったですし、例え試してみたとしても、普通は何も起きませんからね」
合成魔法――。
厳密には魔法ではなく、魔法同士を組み合わせる技術の総称としてそう呼ばれている。
本来であれば大勢の魔法使いと技術者が共同で、何か月、何年と開発を行って世に出されるものだ。
その活用法は多岐に渡り、便利な魔道具の開発やより高度な魔法の作成など、こと魔法第一主義のこの国にとっては非常に慣れしたんだ技術でもある。
……それ故に、僕なんかが合成魔法と軽々しく口にするのも恐れ多いんだけどね。
でも、この現象的には合成魔法が近いのかな、と思ってしまう。
「なるほどぉ……あれだね!魔法習得における謎現象、”最初から使い方を知ってるような感覚”ってやつですね!」
「まさにその通りです。 他の魔法を覚えた時みたいに、何をどうすれば何ができるかっていうのがなんとなーく分かったんです。 それに魔法の性質は本来、互いに不干渉……魔力を混合させても、そもそも発動しないか、反発しあって効果が消えるかどちらかですからね。 つまり、僕が難なく魔法を組み合わせられたのも、この月詠が原因というふうに――」
僕が何気なくロナンさんを見ると、彼女がジッと僕を見てることに気付いた。
し、しまった、調子に乗って喋りすぎた……!
僕の考察とか魔法論とか、ついついどうでもいい話を……!
「ご、ごめんなさい、つまらない話をつらつらと……!」
「フフッ……ううん、全然っ! むしろ面白かったですよ!私が知らない魔法の知識に、独自の観点からの考察……感心することばかりですっ!」
「あ、はは……そう言っていただけると、嬉しいです」
「フフッ……それにしても、月詠かぁ……レキムさん、これは大大大発見ですよっ!! レキムさんの考える通りの効果なら、”基礎魔法しか使えない”どころか、他に類を見ないレキムさんだけの魔法が使えるって訳ですからねっ!!」
そう言って、興奮気味に迫ってくるロナンさん。
「い、いやぁ、そんなこと……そうなの、かなぁ?」
僕の心の中には、葛藤があった。
そもそも、魔法同士の組み合わせだとか、新たな魔法を生み出すっていうのは高位の魔法使いの中でも、ごく限られた人にしか成しえてない、まさに偉業だ。
それこそ、この国に数名しかいない魔導総帥クラスの人でないと、手が付けられないようなものだ。
――でも、そうと分かっていながらも、自分なんかには分不相応だと思いながらも……挑戦してみたいと思う心もある。
それはきっと、ロナンさんという存在が大きいだろう。
僕の拙い魔法にも、僕の魔法に対する姿勢にも理解を示してくれた彼女の存在が。
僕を、今までにないくらい前向きにさせてくれてる気がする。
「…………やってみるか」
僕は、思わず呟いていた。
まるで、心の内が知らず知らずのうちに漏れ出たような小さな声。
その声に、ロナンさんはとびっきりの笑顔で応えてくれた。




