プロローグ 素晴らしき魔法使いの世界
『魔法――それはこの世界において最も偉大で、最も優れた力である。 魔法を使えない者は――――』
幼い頃から、両親に何度も教え込まれた言葉だ。
賢者として名高い両親の元、ウィンドロッド家の長男として生まれた僕は、十四年もの間、過度な期待と重責を背負って過ごした。
……と、少なくとも僕はそう思っている。
自分のことはよく知っているつもりでいた。
周りからの評価は、明らかに分不相応で過大な評価だと分かっていた。
だけど、みんなの思う理想像に必死にすがる為の努力は怠らなかった。
十二歳でこの国一番の魔導学院、アリステラ魔導学院に入ってからは、学術試験では常にトップを取り続けた。
そして今日、十五歳を迎えた僕は人生の大きな岐路に立っている。
進級試験だ。
魔導学院の大広間――院長や教授、院生たちが固唾を呑んで見守る中、魔法陣の描かれた羊皮紙が手渡された。
試験紙を手渡した教授は、ニッコリと微笑んでいた。
――あぁ、これもまた、過剰な期待によるものなんだろう。
『君なら大丈夫。なんてったって、あの賢者たちの子どもなんだから』って。
渡された紙は、初級魔法への各種適性を示す主要五属性試験紙。
これにより僕の最適な魔法属性と魔力量が測定される、いわば人生の指針となるものだ。
通常、一般的な魔法使いであれば一、二種類の魔法適性を持つって言われているけど、両親のように三種類の属性を持つすごい人もいる。
……まあ、僕に限ってそんなことは起きないけど。
ただ、進級試験と言ってもあくまでそれは形式的なもの。
全く魔法の才能がない者なら、この試験紙は何の反応も示さないだろうけど、そんな人間はそもそも学院へ入学すらできない。
なぜなら、一定の魔力量が無いと判断されたものは入学試験すら受けることはできないからだ。
僕はこれでも、受験者数三百人の中を首席で試験を突破して、魔力量は上から十三番目だった。
……これについては、父が良い顔をしていなかったけど。
「それでは、これより応魔の儀を執り行う」
学院長の声が大広間に響き、辺りはしぃんと静まり返った。
そして目の前には、宙に浮かぶ巨大な魔導板が音もなく現れた。
「さあ、レキム=ウィンドロッド、試験紙をそこへ……そして魔力を込めたまえ」
学院長の厳かな声に促され、空中に浮かぶ魔導板へ試験紙を貼り、手のひらをぺたんとつけた。
緊張してない……と言ったら嘘になる。
だって、こんな紙切れ一枚で人生が左右されるんだ、そりゃあ慎重にもなるさ。
「ふぅ……」
深呼吸一つ、僕は目を閉じ、意を決してありったけの魔力を込めた。
ヴゥンッ――
「えっ、あれって……」
「いや、嘘だろ……?」
「でも……」
試験紙の起動音に続いて聞こえたのは、広間のあちこちからこぼれるどよめき。
一瞬にして背筋が凍るような感覚を覚えた。
恐る恐る、顔をあげる。
「………………えっ」
何も、映ってなかった。
さっきとなんら変わらない、まっさらなままの試験紙が揺れた。
火も、水も、風も――
属性を示す光は何一つ灯っていない。
それが示すことはほかでもない――――”魔法への適性が無い”、ということだ。
『魔法――それはこの世界において最も偉大で、最も優れた力である。 魔法を使えない者は――――』
我が家の家訓、両親から子への期待、そして呪縛。
あぁ、なんでこんな時に思い出してしまうんだろう。
いや、こんな時だから思い出してしまうのか。
『――魔法を使えない者はただの無能だ。 そんな者は人間の中でも最底辺の落ちこぼれだ。 決して関わることのないように』
幼い頃から、両親に何度も教え込まれた言葉だ。
父上、母上、すみません。
どうやら僕は、無能で最底辺の落ちこぼれだったみたいです。




