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集まれ妖怪の森クリニック  作者: 中川聖茗
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第十章

 さて、次の日、クリニックへ出勤すると、イカムーチョが真っ赤な顔をして院長室に乗り込んできた。

「先生!なんてことをしてくれたんですか!デイケアの責任者を二人も追い出してしまうなんて、このデイケアの運営をどうするつもりですか!」

 とガアガア喚きたてている。彼がなぜこれだけ興奮しているか理解できなかったので、「責任者としての能力に欠けていることを自ら悟って勝手に出て行ったのに、君は、なぜ、僕が追い出したとか、根拠のないことで、僕を責めるんだい。意味が分からん。出ていきたまえ」と、きっぱりと言ってやった。すると、彼は、手足をバタバタさせながら、また、「これは全体の会議で問題にしますからね」と捨て台詞を吐いて出て行った。

 なんのことやら、と呆れていると、そこへ、リスパアリマスが入ってきた。

「先生、デイケアの責任者二人は、イカムーチョのお気に入りだったんですよ。彼は落ち込んで、まあ可哀そうで見てられない有様ですよ」

 そう言うので、僕はますます混乱してしまった。そこで彼女に尋ねた。

「お気に入りって、妖怪でしょ。意味が分からないな。イカムーチョも妖怪にたぶらかされたってこと?」

 すると彼女は答えた。

「イカムーチョはね。ドドンパの命令で、このクリニックに派遣されたんですけど、あのケム二マクに対抗するために、デイケアのあの二人に目を付けて、いろいろと機嫌を取っていたんですよ。そのうち、すごく好意を持つようになってね、それからっていうもの、彼女らの言うことは何でも聞くようにしたんです。そうすることで、ケムマックに対抗しようとしたんですよ。でも、確かに、よく考えてみると、彼女らに取り込まれて、彼も妖怪化してしまったのかも…。私は悲しいです」

 なるほど、カラスのヤータンから聞いた話と符合する。ーーしかしである。そもそも、女の子の機嫌を取ろうなんて、相手が妖怪であれ人間であれ、そんな下心丸出しのやり方って、あまりに世故いではないか?

 僕は反論した。

「そういうね、世故いやり方は、僕が院長になった以上通用しません。いいです、イカムーチョには直接僕がしっかりと話します」

 そう言うと、さっそく僕は、今度はイカムーチョの部屋を尋ねた。そして言った。

「おい、イカムーチョ、さっきの院長に対する態度は何だ!ドドンパの部下だからと言って、何でも許されるわけじゃない。しかも、妖怪たちに気に入られようとあの手この手と、こざかしいことをやっていたなら、なおさら、ドドンパの信頼に背いていたということじゃないか!それに今までお前がドドンパの部下だからと大目に見ていたが、お前は、不正請求をしていただろ?それも知っていたが、チャンスをやろうと思って様子を見ていたんだ。それなのに、先ほどの態度、許せん、決闘だ、表へ出ろ」

 イカムーチョの顔は青ざめた。僕の思わぬ反撃にひるんだようだ。

 二人は庭に出た。僕は言った。

「よし、勝負だ”!今から問題を出すからそれに答えろ!ーー訪問診療と往診の違いは何だ?答えろ!」

 医療の事務を少しでもかじっていれば答えられる問題である。しかしイカムーチョの顔はますます青ざめて行った。

「うぐぐぐ...」

 彼は奇妙な声を上げて身もだえしだした。答えを知らないのである。つまり無能であったのだ。

「ひー!」

 と、ついに断末魔の声を上げると、彼は正体を現した。驚くべきことだった。彼は妖怪に取りつかれていただけではない、実は完全に妖怪と化していたのである。

「何という恐ろしいことだ…」

 なんとその姿は、何とタコであった。それも貧弱な...。やせた足をバタバタさせている。

 僕は言った。

「さっさと去れ!さもなくば、タコキムチ炒めにして食ってやるぞ!」

 それを聞くと、彼は「ひえー」と声をあげながら海に向かっていき、ついには海中へその姿を消した。ーーある意味哀れでもあった。

 あとには静寂のみが残った。

 僕はまたもやどっと疲れが出て、その日は仕事を早めに切り上げると、自室へ戻って早く寝た。


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