第五十三話・カトラ視点
「普段、メリスちゃんとどんなお話をしているの?」
「そうですね。ファッションの話や、お勧めの料理の話……。あとは、とりとめもなく噂話をしたりもします」
私はレクス公爵夫人の問いかけに、言葉を選びながら答えた。
お茶会の雰囲気が緩やかなものだとわかって、それなりに落ち着いていた緊張が、再び高まっていくのを感じる。
お茶会が始まってからしばらく経ち、ある程度状況に慣れてきたとはいえ、こうして会話の矛先を向けられると……。
メリス様、早く戻ってきて!
メリス様がクロード様と二人で部屋を出て行ってからずっと、レクス公爵夫人の会話の矛先は私に向いている。
レクス公爵夫人は私に興味を抱いている様子だったので当然と言えば当然の結果だったけど、正直困っていた。
私は身分の高い者と話すことが苦手なのよ……。
子供の頃、ついつい思っていることをそのまま口に出してしまうことが多かった私は、よく父に叱られていた。
そんな経験のせいか、私は身分の高い者を前にすると、どうにも必要以上に意識してしまって、重圧を感じてしまうのだ。
「へぇー。そうなの。やっぱり仲良しなのね」
「はい……」
「あなたの他に、アリク様とカラミラ様も、メリスちゃんと仲が良いのよね? 四人でよくお茶会をしていると聞くわ」
「はい。私とメリス様とそのお二人で、よくお茶会をしております」
「四人は親友なんですってね。メリスちゃんから聞いているわよ」
「そうなのですか……」
親友……。そう言われて少し気まずさを感じる私。
メリス様は周りにも私たちのことを親友だと話しているのね……。
メリス様の好意がよくわかり、その好意に応えられていない自分が不誠実に思えて、なんだかやましさを覚えた。
特に、私もメリス様と仲良くしたいと思い始めているのに、躊躇しているという事実がやましさに拍車をかけている。
初めは仲良くなりたいというメリス様の真意がわからず警戒していた私も、今ではメリス様に他意がないことがわかっている。
昔のメリス様は少々性格に難があって、好きになれなかったけど、ここ一年ほどで随分と変わったメリス様を、好ましいとも思う。
ただ。だからこそ、うしろめたい。
だって、仲良くなりたいと思いながらも、私は自分でメリス様に対して作った壁を、壊せないでいるのだから……。
今まで隔意を持った態度を取ってきたのに、急に態度を変えるのはなんかこう……。無性に気恥ずかしくて……。
今日だって、久しぶりにダンスの練習のために呼ばれたこの機会を生かそうと思っていたのに。
いざメリス様を前にしてしまうと、二の足を踏んで、いつも通りの態度を取ってしまったし……。
こんなことなら、エステサロンに行っておくべきだったかな?
すでに予定が入っていたから断ったんだけど。その予定もずらそうと思えばずらせなくも――。
「カトラ様から見て、二人はどんな子なのかしら?」
レクス公爵夫人に尋ねられ、思考を中断する。
いけない。今は余計なこと考えているような状況ではなかった。
「えっと……。アリク様は少し引っ込み思案ですが、とても優しい方で。カラミラ様は気遣いのできる、しっかりとした方です」
「二人とも、とっても良い子よ」
私の言葉のあとにアリア様がそう付け足す。
「そうなの。お二人にも会ってみたいわねぇー」
「あら。だったら丁度いい機会があるわよ」
「機会?」
「ええ。三日後にメリスと歳の近い令嬢を集めたお茶会があるの」
むっ。レクス公爵夫人も三日後のお茶会に参加するのかな?
それはなんだか波乱がありそうな気がするけど、私が口を出せることでもないので静観する。
アリク様とカラミラ様には、レクス公爵夫人が二人に興味を抱いていることを教えてあげよう。
「あら、そんなのお茶会があるのね。それなら丁度いいかも……。でも突然参加しても大丈夫かしら?」
「大丈夫よ。格式ばった催しでもないから。ねえ、カトラさん?」
「そうですね。問題はないと思います……」
レクス公爵夫人が参加するとなると、きっと皆緊張するでしょうね。
「そう。だったら参加してみたいわ」
「決まりね。私も久しぶりに顔を出すわ」
「……どうせなら、クロードも連れて行こうかしら?」
「クロード様も? 構わないけれど……」
後ろで扉が開いた音がして、アリア様が言葉を途切れさせる。そのすぐ後にメリス様の声が聞こえてきた。
「ただいま戻りました」
「あら。意外に早かったわね。もうお話は終わったの?」
「はい」
レクス公爵夫人に答えながらテーブルへと近づくクロード様とメリス様。
そんなメリス様にアリア様が話しかける。
「メリス。丁度今、三日後のお茶会の話をしていたのだけれど。お茶会にナルシスも参加することになったわ」
「えっ。ナルシス様がですか?」
メリス様は驚いた顔をした。
「駄目かしら?」
「いえ。急な話で驚いただけで……。ナルシス様が来てくださるなんて、とっても嬉しいですわ!」
そう言いながら席に座るメリス様。クロード様も同じく席に座った。
「ありがとうメリスちゃん。ああ、それとクロードも一緒でいいかしら?」
「えっ? 私は構いませんが……」
先ほどナルシス様がお茶会に参加すると言ったとき以上に驚いた様子で、メリス様はクロード様のほうを見る。
「はい? 私もですか?」
「ええ。あなたも参加なさい」
「できれば遠慮したいのですが……」
「駄目よ。せっかくなんだから」
明らかに気乗りしないといった様子のクロード様が言い募るが……。
「しかし――」
「いいわね!」
「わかりました……」
レクス公爵夫人の有無を言わせぬ物言いに、クロード様は屈した。
「そういうことだから、メリスちゃん。お願いね」
「はい。わかりました」
「三日後が楽しみねぇー」
「はぁー」
笑みを浮かべるレクス公爵夫人とは裏腹に、疲れたようにため息をつくクロード様。そんなクロード様と私の目が合う。
「……」
じっとこちらを見詰めてくるクロード様。
ばっちりと目が合ったこともあり、なんとなく視線を外し辛い。これは何か話したほうがいいのかな?
でもいったい何を……。クロード様とは挨拶以外に会話がなかったこともあって、言葉が出てこない。
ああえっと……。どうしたら……。
「カトラ嬢……」
どうしようかと悩んでいるとクロード様から話しかけてきた。
「はいっ」
思ったよりも返事の声が大きくなってしまい、恥ずかしくなる。
「……あなたはメリス嬢のことを、どう思っていますか?」
「えっ? ええっと……」
内心で慌てていた私は、無表情のクロード様から放たれた思いがけない言葉を飲み込めず、返答に窮する。
「カトラ嬢は、メリス嬢のことが嫌いですか?」
戸惑っていると、さらに問いかけてくるクロード様。
「い、いえ。そのようなことはありません!」
私は戸惑いながらも、なんとか答えを返した。
「そうですか。それは良かった」
なにやら満足げに頷いたクロード様は、言いたいことを言い終えたようで、ふいっと私から視線を外した。
後には突然過ぎる展開に、おいてけぼりを食らった私が残る。
え、ええ……。いったいなんだったの……。
釈然としないままに、とにかく心を落ち着けようと紅茶を一口飲むと、少し落ち着くとともに新たな疑問が浮んできた。
なんだか無性にメリス様とクロード様との関係が気になり出す。なんでクロード様が、メリス様と私の仲を気にするのかな?
さっきまでは自分のことで手一杯だったから、気にしている余裕がなかったためアレだったけど。
思えばメリス様とクロード様は随分と親しげな様子だった気も……。さっきは二人きりになってたし。
あれ? もしかして二人って……。




