第三十八話
「……このように、エステ以外にも様々なサービスを提供しており。そのどれもが、他では味わえないほどに、一流なのです」
「へぇー。思ったよりも、すごいのね」
「はい。それはもう、素晴らしいのですわ!」
王都郊外に向かって走る我が家の馬車の中に、喜色を含んだ声が響く。珍しく感情的なカラミラ様。
そんな普段とは違うカラミラ様の様子に嬉しくなる。エステサロンに誘ったのは大正解だったみたいね。
マンネリと化してしまっていたお茶会とは違い、今回のお出かけには新鮮な空気があった。
これは仲を深めるには絶好の機会ね。こうなると、是が非でも頑張らないといけない。なにせ……。
カラミラ様だけでなく、アリク様までも誘いに応じてくれたのだから!
「……それにしても、てっきりアリク様には断られるかと思っていたけど、来てくれて嬉しいわ」
残念ながらカトラ様には断られてしまったけど。もともとカラミラ様だけしか来ないだろうと思っていたから、本当に嬉しい。
「わ、私も。ケノミーナ侯爵家のエステには興味があったので、誘っていただけて嬉しいです」
「そうなのね。なら、今日は一緒に楽しみましょう」
「はい」
穏やかな雰囲気の中。私たち四人(私とアリク様とカラミラ様にマイア)を乗せた我が家の馬車は走り続ける。
そうしてしばらく馬車に揺られ、やがて目的地であるケノミーナ侯爵家が運営するリゾートホテルへと辿り着いた。
「へえ。ここがそうなのね」
馬車から降りると、目の前には大きな館が聳え立つ。四階建てのその建物は、柱や梁などの骨組みが外観に現れている。
確かこうして骨組みを外観の装飾の一部にする建築様式があるのよね。
そんなことを思いながら館を眺めていると、入り口の前に立っていた二人のドアマンが近づいてくる。
「「皆様、ようこそお越しくださいました」」
「……ご案内いたしますので。どうぞこちらへ」
恭しくお辞儀をした二人のドアマンのうち片方が、案内をしてくれるというので、私たちは後に続く。
そうしてドアマンに続き館の中に入り。入ってすぐの所にあった広々としたロビーを通り抜けようとして……。
(げっ! あれって、プラム様じゃないの! なんでこんな所に……)
思いがけない人物を発見してしまった。
『あら本当ね。どうするの。見つかると面倒じゃない?』
思わず出てしまった心の声にメリスが反応する。
(なんとかやり過ごしたいわね)
幸いなことにプラム様はまだこちらに気付いていない。なんとかこのまま気付かれないうちにロビーを通り抜けたい。
しかし。そう思った矢先、プラム様がこっちを向いてしまった。
『気付かれちゃったわね』
(ええ……。はぁー)
私に気付いたプラム様は、座っていたソファーから立ち上がると、心の中でため息をこぼす私のほうへ駆け寄ってくる。
「メリス様! ごきげんよう。こんな所で会うなんて奇遇ですわね!」
元気な声で話しかけてくるプラム様。
「ごきげんよう、プラム様」
声をかけられたので、仕方なく立ち止まり挨拶を返す。
困ったわね。絶対面倒なことになる。
プラム様がなぜここにいるのかわからないが。プラム様のことだ、私たちの目的を知ったら、同行すると言い出しかねない。
そうなると非常に困る。せっかくアリク様やカラミラ様と三人で、気楽にエステを楽しもうと思っていたのが、台無しになってしまう。
プラム様とアリク様たちの仲はお世辞にも良いと言えない。だからプラム様が混ざったら、空気がギスギスしたものになる。
一方的にプラム様が敵視しているだけなのだけど、プラム様は敵意をまったく隠そうとしないから、険悪な雰囲気になるのよね。
「ごきげんよう。プラム様」
「ご、ごきげんよう」
「お二人も、ごきげんようですわ。……メリス様も、こちらには保養目的でいらしゃったのですか?」
カラミラ様とプラム様の挨拶に、二人のほうを一瞥もせず素っ気なく返すと、私に質問するプラム様。
うむむ。ここでエステ目的だと素直に答えたら、プラム様に「私もご一緒したい」と言われるだろう。
かといって、誤魔化すのも不可能だ。はぁ……。
「ええ、エステを受けにきたのよ」
「あら。そうでしたの。でしたら私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
仕方なく本当の事を言うと、予想通りプラム様は同行したいと言い出した。私はアリク様とカラミラ様のほうを見る。
二人のためにも、できれば断ってしまいたいのだけど……。
ただ、断るにもそれなりの理由がいる。今回は三人だけで行動したいと、そんなことを言えば角が立つだろうし……。
かといって、プラム様とは行動したくないと言うのは、さすがにストレート過ぎる。駄目ね、断るためのうまい口実がない。
「私は構いませんよ」
「わ、私も。構いません」
むっ。なんとなしに二人のほうを見ながら悩んでいただけなのだけど、二人は意見を求められたと思ったみたい。
「お二人も、こう言っていますし、よろしいですわよね?」
うーむ。こうなると、もう断るのは無理かも。いや、まだ手はある。
「そうね。構わないけれど。ただ、予約は三人で入れているから……」
ドアマンを見詰め、無言の圧力をかける。
さあ、予約がいっぱいだから無理だと断りなさい!
「フレール侯爵令嬢。お一人様追加ということでよろしいでしょうか?」
「ええ……」
良い笑顔を浮かべるドアマン。まあ、伝わらないわよね。ああ。アリク様とカラミラ様との仲を深める、せっかくの機会が……。
「決まりですわね! ほらあなた、さっさと私たちを案内して頂戴」
「では、ご案内いたします」
プラム様に催促され、案内を再開するドアマン。運の悪さにうなだれながら、私はドアマンの後に続いた。




