第三十話・アリク視点
「カラミラ様は大らか過ぎるから、参考にならないって意味よ。ねえ、アリク様はどう? 少しは腹が立つよね?」
腹が立つ? どうだろう……。
確かに私も、メリス様のお茶会に呼ばれるようになってから、プラム様に絡まれるようになった。
プラム様は、私たちがメリス様と仲良くしていることが気に食わないようで、いろいろ言ってくる。
その物言いはきつく、ときには少しむっとすることもあったけど。でも我慢できないほどのものではなくて。
そもそも私は社交界にそれほど出て行くこともないから、二人と比べるとプラム様に会うこと事態少ないので……。
「……私はその。プラム様に会うことも少ないので」
「でも、少しは腹が立つでしょ?」
「少しだけなら……」
私の場合、腹が立つというよりは、迷惑だな、嫌だなという思いが強い。
「やっぱりそうよね! ……だいたい。不満があるのなら、メリス様に言えばいいのにって。そう思わない?」
控えめな同意でも、私の同意を得られたことが嬉しそうなカトラ様、さらに私とカラミラ様に尋ねてくる。
まあ、プラム様は「メリス様に取り入らないで」だの「メリス様からお茶会に呼ばれても断りなさい」だの。
どうしようもないことを言ってくることが多々あるので、カトラ様の言っていることも、わからないでもない。
私たちは別にメリス様に取り入ろうとしているわけでもないし、お茶会を断るのも畏れ多くて難しい。
だから、文句があるなら私たちではなく、メリス様のほうに私たちと仲良くしないように言って欲しいと。
そうカトラ様は言いたいのだろう。けど……。
「そんなこと。プラム様がメリス様に言えるわけないわよ」
「私も、そう思います」
プラム様が、メリス様に意見することなどできはしない。それに、仮に意見したとしてもメリス様は聞き入れないと思う。
私の知る限り、メリス様は他人の意見を簡単には取り入れない。メリス様はきまぐれで、その時の気分で物事を判断する方だけど。
我が強く、他人の意見に流されることはほとんどなく。意見しても、それでメリス様が行動を改めることなど、滅多にないのだから。
「そうだけどさー」
「そんなに迷惑しているのなら、カトラ様からメリス様に言ってみたら? プラム様が突っかかってきて困っていますって」
「それ。本気で言ってる?」
「言ってみる価値はあるんじゃないかしら?」
「どうかな。メリス様が何かしてくれるとは思えないし……」
私もカトラ様に同意する。エルベル様とプラム様のときだって、メリス様は二人の仲を放置していたから……。
もちろん、メリス様の目の前でエルベル様とプラム様が言い争いをしたりしていたら、そのときは注意していたけれど。
強く止めたり、どちらかに味方をしたりすることはなく。また、二人が仲良くなれるように仲を取り持ったりもしなかった。
「でも。メリス様も軽く注意ぐらいはしてくださると思うわよ」
「いや。注意しても、それでどうこうなるとも思えないし。プラム様を怒らせるだけでしょう?」
「まあ。プラム様は怒るでしょうね」
「……まったく、メリス様も何で私たちをお茶会に呼ぶのかしら。おかげでプラム様に絡まれて。いい迷惑よね?」
「そうね……」
苦笑を浮かべながら控えめに頷くカラミラ様。
「はぁー。ほんとメリス様の真意は何なのかしらね……」
「あら、久しぶりに考えてみる?」
「……」
久しぶりにこのお茶会の本来の趣旨に沿った話題が。メリス様の真意か……。
メリス様は事あるごとに私たちと「仲良くなりたい」と口にする。それこそ会う度に一度は口にしていると思う。
カラミラ様とカトラ様は、そのあまりに軽く口にする「仲良くなりたい」という言葉を、社交辞令だと考えているようだけど……。
私はメリス様が本心からその言葉を口にしていると思っている。
私も、最初にメリス様に呼ばれたときは、何か粗相でもしたかと思い、すごく不安で怖かったのを覚えているけど……。
今は仲良くしてもらっているし。それにエルベル様は、メリス様は腹芸が得意ではなく、本音のわかりやすい方だと言っていた。
だから、何度も「仲良くなりたい」と口にするということは、たぶん本気で仲良くしたいと思っているのだと。私はそう思う。
もっとも、それは私が勝手にそう思い込んでいるだけで……。本当にメリス様がそう思っているかどうか、自信を持って断言できない。
カトラ様とカラミラ様とこんなに仲良くなることができたのは、メリス様が引き合わせてくれたからこそだと。
そんな風に、私が個人的にメリス様に感謝しているから、そう思えるのかもしれないし。口に出せるほどの確信はない。
でも、果たしてこのまま黙っていても良いのだろうか?
カトラ様とカラミラ様はメリス様に対して壁を、距離を作ってしまっている。それはメリス様の真意がわからないからだ。
だけど、メリス様が仲良くなりたがっているだけだと知れば、二人だってもっと素直にメリス様と接することができるのでは?
ここで私が二人に自分の考えを伝えれば、メリス様の力になれるのでは?
そう思うも、私の口が開くことはなかった。本当に自分の考えがあっているか自信がなく。
また、うまく二人を納得させることができるかと考えると。どうしても不安で、動けなかった。
「いい。どうせ「仲良くなりたかったから」という結論にしかならないし……。何か新しい情報でもあれば別だけど」
「残念ながらないわ」
「そう。じゃあ、やめておきましょ。それより聞いた……」
結局、タイミングを逃してしまう。あっさりと話題を他愛ない雑談に切り替えたカトラ様。
「はぁー」
意気地のない自分のことが嫌になる。話題が流れてほっとした自分がいたことも、それに追い討ちをかける。
どうして私はこんなに臆病で、自分に自信が持てないのだろうか。




