第二十九話・カトラ視点
馬車から降りると、ちょっとだけ離れた場所に、コルタリア子爵家の馬車が停まっているのが見えた。
やっぱり……。さきほど我が家の馬車の横を通り過ぎて行ったのは、アリク様の家の馬車だったようね。
珍しくアリク様と同じタイミングで到着したらしい。私たちもこれでけっこうな回数で集まっているのに、こういうことって初めてね。
そんなことを思いながら、挨拶をするためにコルタリア家の馬車に近づくと。丁度、御者の手を借りて馬車からアリク様が降りてきた。
「ごきげんよう。アリク様も今着いたところなのね」
「はい。今しがた。ごきげんよう、カトラ様」
「奇遇ね。いや、そうでもないのかな?」
「どうでしょう……」
曖昧な私の言葉に首を傾げるアリク様。奇遇と言ってしまったけど、よく考えると招待されている時間は同じだから……。
でも、これまで一度もこういうことがなかったわけだし、奇遇と言っても過言ではないわよね。いや、どうでも良いんだけどさ。
「まあ、そんなことは別にいいわ。ほら、行きましょ」
ニル子爵家の使用人が出迎えに出てきているのが見える。待たせるのも悪いから、さっさと行きましょう。
私が動き出すと、アリク様も後に続いた。
「カトラ様、それにアリク様も。ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ。ご案内いたします」
ニル子爵家の使用人に続き屋敷の中に入る私たち、しばらく廊下を進み。やがていつも通される部屋の前に辿り着く。
「お嬢様、アリク様とカトラ様がお見えになりました」
「通して頂戴」
「どうぞお入りください」
使用人が扉を開けると、椅子から立ち上がるカラミラ様の姿が見えた。
「ごきげんよう」
「カラミラ様、ごきげんよう」
「お二人とも、ごきげんよう。ようこそ我が家へお越しくださいました。さあどうぞ、そちらへお掛けになって」
「ええ」
「ありがとうございます」
カラミラ様の勧めに従い、私とアリク様は部屋の中央付近に置かれた四人掛けの丸テーブルに近づく。
そうして私とカラミラ様が向かい合って座り、アリク様が私の左側に座った。
「失礼いたします」
私たちが席に着くと、壁際に控えていたニル子爵家のメイドたちが、テーブルに紅茶とお菓子を並べていく。
今日のお茶請けはクッキーか。おいしそうね。
「ありがとう。あなたたちは下がって頂戴」
「失礼いたします」
お茶会の準備が整うと、カラミラ様がメイドに退出を命じ、それを受けてメイドは一礼して部屋を出て行く。
「はぁー」
部屋の中に私たち三人だけしかいなくなると私は、テーブルに頬杖をつき、大きなため息をこぼした。
「あらあら、相当溜まっているようね」
「まっ。それなりにね」
「やっぱりプラム様のせいかしら?」
「それ以外何があるって言うのよ」
「ふふっ。そうね」
くすくす笑うカラミラ様。どうやらわかっていて聞いてきたらしい。といっても、それは私も理解していた。
カラミラ様は私が話しやすい空気を作ってくれているのだ。
最近の私たちのお茶会はたいていこのように、私がプラム様への不平不満を吐き出すことから始まる。
もともとこうして三人で集まり、お茶会をするようになったのは、メリス様への対策を練るためだったけど……。
突然、メリス様からお茶会に呼ばれるようになった理由がわからず、メリス様が何か悪意を持って私たちを呼び出したのではと。
私たちはメリス様を疑っていたから、メリス様の真意は何かを考え、対策を練るために集まったのが、このお茶会の始まりだった。
しかし、メリス様から何かされることもなく時が過ぎていくにつれ、いつしかお茶会の趣旨は形骸化してしまい。
結局、メリス様の真意はわからないまま、今ではただ楽しくおしゃべりをするだけのお茶会になってしまっていた。
「会う度、いちいち突っかかってくるは本当に勘弁して欲しいわよね」
「そうね」
「我慢して適当に聞き流せば良いのはわかっているんだけどさ。こっちが黙っているとプラム様はつけ上がるじゃない?」
こうしてだらけた態度でぶーたれることは貴族の令嬢として、あまり褒められた行動ではないのだけど……。
咎めたりする者はここにはいない。私たちはここ数ヶ月の付き合いで親睦を深め、気心の知れた仲になっていたからだ。
「好き放題言われるのは癪だし、やっぱり腹立つでしょ? だから、つい言い返したくなるのよね」
プラム様は、かなり言いがかりに近いことを言ってくるから、カチンときちゃっても仕方ないのだ。
「うーん。私はそうでもないけど……」
まあ、カラミラ様はいっつもうまく受け流しているものね。
「カラミラ様は大人よね。はぁー」
ため息をこぼしながら、クッキーを一枚いただく。あっ、おいしい。
それにしても、本当にメリス様はなぜ私たちをお茶会に呼び出すのか……。
最初にダンスのコツを教えて欲しいから呼んだと、そう言っていた割には、ダンスの話なんて滅多にしないし。
一応、お茶会とは別にダンスの練習に付き合ったりもしたけど、それも片手の指で数えられるほどの回数だった。
よく「仲良くなりたいから」とは口にするけど、私のことを嫌っていたはずのメリス様が今さらどうしてって感じてしまう。
実際には思っていた以上に良好な関係を続けられているから、さほど苦ではないのだけど、なんだか釈然としないというか……。
とにかく素直に受け止められない。プラム様に絡まれるのだって、メリス様のせいみたいなものだし。
「大人? これってそういう問題なのかしら。単にカトラ様が負けず嫌いなだけに思えるのだけど」
「そうかなー。まあ、否定はしないけど。でもカラミラ様だし……」
「あら。どういう意味かしら?」
いや、私が普通より少し負けず嫌いで、我慢強くないほうだとは理解しているけど、カラミラ様も大概だと思うのよ。
本心はどうか本当のところはわからないけど、表面上はプラム様に絡まれても、まったく気にしていないように見えてさ。
「カラミラ様は大らか過ぎるから、参考にならないって意味よ。ねえ、アリク様はどう? 少しは腹が立つよね?」




