第十九話
数日後、メリスのお茶会当日。我が家の大広間には、私と歳の近い令嬢が二十人ほど集まっていた。
「少しお変わりになられましたか?」
私の左隣に立つルベルム伯爵家の令嬢、プラム様がそう言うと。
「なんだか、雰囲気が少し柔らかくなられた気がしますわ」
今度は私の右隣に立つセルム伯爵家の令嬢、エルベル様がこう言った。
彼女たちはゲームでも名前があった令嬢たちで、ゲームでの私の取り巻きツートップだった方々だ。
「倒れたとお聞きしましたが、元気そうでなによりですわ」
「ええ、ほんとに。お変わりなくてなによりです」
「ご心配しておりました」
「本当にお元気そうでなによりです」
二人に続き、近くにいた令嬢が口々に心配していたと口にした。
「皆様、ご心配をおかけしましたわ」
さてと。とりあえず招待した方々と一通り接してみましょうか。会話に一区切りついたので、私は親友探しのために動き出す。
すると、当然のようにプラム様とエルベル様がついてきた。
もっとも、これはいつものことなので気にしない。二人を引き連れて、会場にいる令嬢たちと話して回る。
そうして一通り、令嬢たちと接してみるが、当たり障りのない雑談ばかりで、人柄はさほど把握できなかった。
まあ、それでも一応の目星はついたわ。
(ねえ、メリス。どの子となら親友になれそうかしら? 私は目星をつけたのだけど。あなたの意見が聞きたいわ)
『そうねぇー。アリク様やカトラ様なんてどう?』
(あら? プラム様とエルベル様はいいの?)
私ともっとも関係が深い二人を外すの? まあ、私もあの二人は外すつもりだったのだけど……。
『彼女たちは、あなただって避けたいでしょ?』
(……まあね)
別に嫌いというわけでもないのだけど。ただ、彼女たちは私に気に入られようと必死過ぎるところがある。
フレール侯爵家派閥の中でも、格のある家柄の出身のせいで、権力闘争に積極的なのだと思うけど……。
真の友情を結ぶという目的には、その必死さは弊害にしかならない。本音が見えにくいのは困るのよ。
おべっかを使ってくる相手は遠慮したい。できれば私の立場をそれほど気にしない方が良いのだ。
その点、先ほどメリスが名を挙げたカトラ様やアリク様は良いと思う。私も目を付けていた相手だ。
カトラ様は表裏がはっきりとわかりやすい人物。嘘が苦手で、たまにぽろっと本音をこぼしてしまう方だ。
だから私に対して失言もあり、私にはあまり好かれていなかったが、今はむしろその性格が好ましいと言える。
そしてアリク様も、私に好かれていない人物。もっとも、別に嫌っているというわけでもなく、ただ関わりの薄い方だ。
どうも気弱で引っ込み思案な性格らしく。メリスのお茶会では、いつも隅っこで静かに過ごしており、空気みたいな存在だった。
ただ、だからこそ私は、アリク様はそれほど権力に興味がなく、私の家柄を斟酌しない方だと考えた。
このメリスのお茶会で、私に気に入られようと動かない令嬢は少ない。だからアリク様には期待している。
(いいわ。アリク様とカトラ様ね。彼女たちを第一候補としましょう)
『決まりね。それで。私からはその二人だけだけど、あなたが目星をつけた相手は誰なのかしら?』
(私もその二人と。あと、カラミラ様がいいかなって)
カラミラ様はかなり世渡りがうまい令嬢だ。私に対してイエスマンというわけでもなく、苦言を呈すこともあったのに。
それでも、私に好かれていた数少ない令嬢であり、笑顔でお茶を濁すことを得意としている、計算高い方だと思われる。
『うーん。彼女は本音が見えにくいし。どうなの?』
(ええ。まあ、そうだけど。ああいうタイプと友情を築いておけば、のちのち助かると思うのよ)
『そう言われればそうだけど……。目的がズレてないかしら?』
うっ……。確かに、打算的な目的で友情というのも。
『まあ、別にいいけどね。なら、とりあえずその三人で決まりね。予定通りに後日、三人だけを呼び出して頂戴』
(わかったわ)
これで、とりあえず親友候補を選ぶことができたわね。
「そういえばメリス様は、最近勉学に力を入れ始めたそうですね」
「あら、そうですの。通りで……。佇まいが、以前よりも洗練されているのは、そういうことでしたのね」
左右からエルベル様とプラム様が話しかけてきた。
「ええ。少し自分を磨こうと思ったの」
「それは素晴らしい」
「ええ。本当に素晴らしいですわ。エルベル様も見習ってはいかがかしら?」
「あら。どういう意味ですの?」
「ほら。メリス様が成長なされたのだから、私たちもメリス様の隣に立つに相応しい振る舞いを見につけないとでしょう?」
「あら。だったら努力すべきは、プラム様のほうですわね。特にお召し物は、もう少し良い物を身に着けるべきではなくて?」
なんだか険悪なムードになる二人。そういえばプラム様とエルベル様って、仲が悪かったのよね……。
うーん。ゲームのときはそういうものだと思っていたから、疑問に思わなかったけど。どうして仲が悪いのかしら?
記憶を探っても、二人の仲が悪くなるきっかけは出てこない。というか、私の知る限り、最初から仲が悪かった気が……。
「何を着ようと私の勝手でしょう」
「そのドレス。大分長い間、お召しになられていますわよね? そろそろ新しいのに買い換えてはいかが?」
「べ、別にいいでしょ。お気に入りなのよ!」
家同士の確執とかそういうアレなのかしら?
「そうでしたの? てっきり買い換えるお金がないのかと思っていましたわ」
「ふん。私は倹約家なのよ。エルベル様のようにジャラジャラと着飾って、無駄遣いはしませんの」
「あらまあ、貧乏くさいこと」
おっと、考えている場合ではなかった。止めないと。
「まあまあ、お二人とも。喧嘩はよしなさい。プラム様、そのドレスお似合いだといつも思っていましたわ」
この二人は私が止めないと延々ヒートアップしてしまうのよね。
「それにエルベル様のそのブローチも素敵ね。前に着けていたものも素敵だったけど。そちらもよく似合っているわ」
今回は身なりのことで喧嘩をしていたので、こう言っておけば収まるでしょう。この二人なら私が褒めた物を貶すことはないから……。
まあ、そうでなくとも私が止めれば、すぐに喧嘩をやめるのだけどね。
「ありがとうございます」
「メリス様。ありがとうございます。こちらのブローチは、お父様からの誕生日プレゼントですのよ」
予想通り、ぱっと喧嘩をやめる二人。やれやれね。




