生まれ変わっても地味でした
何故憧れていた舞台にいるのに、またも地味なのか。転生したら、今までの地味から脱出して、思い描いていた生活が待っていたはずなのに!神様、どうしてよりにもよって王女が地味なんですか!?頭をかかえて私は叫んだ──。
ハッ。
息を吸い込むと同時に私は目を覚ました。
眩しい。窓から入る朝日が起きたばかりの目に刺激を与える。
……夢か……。とんでもない悪夢を見た。これも仕事の疲れが溜まっているせいか…。身体を起こし、ベッドの上に置いてある時計を見る。……やばい、急いで支度しないと間に合わない。ベッドから下りた私は準備をするため部屋を出たのだった。
***
パチッ
目を覚ましたのは、豪華な部屋。大きな窓から入る春の陽気な日を浴びて、私はどうやらうたた寝をしていた様だった。
「姫様?大丈夫ですか……?少しうなされていた様ですが」
「ええ、大丈夫よ。少し悪い夢を見ただけ」
ああ、本当に悪い夢。夢の中で夢から覚める夢を見た。そしてそれは紛れもなく私の記憶、前世というやつだったからだ。未だ心配そうにしている私付きの侍女に寝起きのハーブティーを頼み、一人になる。
夢の中で見た、前世の夢は正夢だったらしい。私は本当に頭を抱えたくなった。
ここは前世の私が憧れていた乙女ゲームの中の世界。そして転生したのは、ヒロインでもなく悪役でもなく。ゲームでは名前がちらっと出ただけの、この国の第六王女。しかも、前世の私と同じく、平均平凡、普通で取り柄など何もなく、王族としての華もオーラもない。地味で忘れられやすいと言う、王女としては欠陥品。それが私、アマリリス・フェリーネ・フィーレンスだった。
前世から地味だった私は、キラキラした乙女ゲームに憧れていたのにこの仕打ちはどういうことだ。職場で上司に本来必要のない仕事は押し付けられ、徹夜続きでゲームをする間もなかったが、それでも我慢して頑張っていたのに。結果、私は悪夢を見たその日、過労死した。我慢のしすぎだったのだろう。でも仕事は我慢するものだと言われて来たし、ていうかどこまで我慢すれば良くて、どこから抗議すれば良かったのだ。過労死したなら、親が抗議してくれるかなぁ?
両親は普通に仲良かったし、別段不幸ではなかった。でも幸せというわけでもなかった。仕事のため、一人暮らしをしていた私は寂しかったのかもしれない。だから二次元、お伽噺の様な世界に憧れた。ハマっていた王道乙女ゲームの中の、攻略の一人、公爵子息に恋をした。
しかし現実は残酷なり。前世を思い出す前から私は公爵子息にまた恋をしていたのだ。
いや無理。名前ちらっとしか出なかった王女だよ? おまけに地味過ぎて、周りから忘れられやすい王女だよ? そもそも第六王女って何よ。忘れられやすいところじゃない!
ちなみに、今の私には兄が二人、弟が一人、姉が五人、妹が一人いる。末っ子のふたつ上って忘れられやすそうなところを!
……兄や姉は優しい。妹も慕ってくれている。しかし。しかしなのだ。何か兄弟姉妹で遊んでいても、私だけハブられている。別にわざとではないのだ、言えば参加させてくれる。ただ、最初から入れて遊ぼうというほど魅力がないというか。自分で言ってて傷付くが、自分のことは自分が一番よく分かる。一言で言うなら空気。存在感がないだけなのだ。こんな私がどうにかできるとは思えない。
「はぁ……」
「姫様、どうかされましたか……?」
ハーブティーを持って来てくれた侍女に、体調が悪いのかと心配されるが、笑って大丈夫だと言う。
「そういえば姫様、ルヴィエ公爵子息のヴィルベルト様がそろそろ社交界に出られるそうですよ」
「え!?」
侍女の言葉に、飲もうとしていたティーカップを落としそうになった。ルヴィエ公爵子息、ヴィルベルトというのは他でもない、私の恋する相手その人だったからだ。
実は現在の婚約者第一候補でもある。ゲームでもさらっと以前第六王女の婚約者候補だったという情報しかなかった。ということはこのままでは婚約の話は流されることになる。
「そういえば姫様ももうすぐ社交界デビューでは?」
「そ、そういえばそうだわ……」
すっかり忘れていたが、ヴィルベルト様が社交界に出るということは私も社交界デビューになるということだ。
今私達は十五歳。必ず貴族以上の子息令嬢は十六歳までに社交界デビューしなければいけないという決まりがある。姫という立場の私は本来ならばもう少し早くデビューするべきだったのだが、引きこもりが影響してギリギリになってしまった。王女として参加しなければいけない行事は参加しているが社交界はそれとはまた違う。おそらくだが、私の社交界デビューに合わせて婚約者候補のヴィルベルト様も合わせてくださっているのだろう。
ヴィルベルト様が社交界に出る。あの素晴らしく凛々しく美しく、優しいあの方が社交界に出ればあっという間に令嬢達に囲まれることだろう。それはゲームのヒロインと恋に落ちることと同義に焦燥することだ。私もこんな地味な女でなくなれば、姉様達のようにきらびやかな姫になれば愛しいあの方に見てもらえるようになるのだろうか。
「変わりたい……」
ポツリと零れたその言葉に侍女のアンジェラが反応した。
「姫様……ついに……!その言葉をお聞きしとうございました…!!」
「えっ、え?」
「いつも姫様がお気になさっていることは存じていました…。このアンジェラ、変わりたいと思われた姫様を全力で応援致します!!」
何がなんだか分からないが、すごく応援されている。どうやら私の優秀な侍女にはなにもかもお見通しらしい。
「そもそも姫様が選ばれるドレスの色からしておとなしめなのです。もっと華やかな物を着られるべきです!明日からは普段選ばない色のドレスを着てみましょう!内面も変わられるべきですが、まずは外面からですわ!」
「わ、わかったわ……」
半ば強引に詰め寄られ、宣言されたその言葉に首肯く。
「皆!姫様が変わられるわ!明日から華やかに着飾るわよ!」
「はい!」
侍女達が結束してやる気を見せている。これからどうなるのやら…。明日が少し怖い。




