第七十ニ話 静かなる始動
現在――。
テレビには、エデンの犯行声明が繰り返し映し出されていた。
『世界は、もう後戻りできない。』
その一言だけが何度も報道される。
発信者の正体。
目的。
居場所。
その全てが不明。
分かっているのは一つ。
エデンが再び動き始めたということだけだった。
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朝霧家。
リビングには重い空気が流れていた。
テレビを見つめる湊。
その隣には義一と詩織。
誰も言葉を発しない。
やがてテレビの電源を切ると、静寂が部屋を包んだ。
湊はゆっくり口を開く。
「昨日までなら。」
「きっと俺は。」
「エデンは悪い組織だって。」
「それだけ思ってた。」
義一は黙って聞いている。
「でも。」
「蓬莱さんの過去を知った今は。」
「そんな簡単には割り切れない。」
詩織は静かに微笑んだ。
「その気持ちでいいの。」
「人を決めつけないこと。」
「それが一番難しいから。」
湊は静かに頷いた。
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その頃。
首相官邸。
能力犯罪対策本部。
会議室には重苦しい空気が流れていた。
大型モニターには、エデンの犯行声明が映し出されている。
「エデンは新たな声明を発表しました。」
「依然として東洋未来ホールディングス社長の娘の居場所は分かっていません。」
会議室が静まり返る。
一人の政府関係者が口を開く。
「交渉の可能性は。」
別の職員が首を横に振る。
「今のところ接触はありません。」
「要求も依然として不明です。」
沈黙。
誰も決定打を持っていなかった。
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東洋未来ホールディングス。
社長室。
社長は窓の外を見つめていた。
机の上には娘の写真。
その写真を静かに手に取る。
「必ず……。」
「迎えに行く。」
その瞳には父親としての決意だけが宿っていた。
その隣には義一が立っている。
「社長。」
「ご安心ください。」
「私が必ずお守りします。」
社長は静かに頷いた。
「頼む。」
その一言には、すべての想いが込められていた。
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朝霧家。
出掛ける準備を終えた湊が玄関へ向かう。
詩織が後ろから声を掛けた。
「湊。」
湊は振り返る。
詩織は優しく微笑んでいた。
「あなたは。」
「あなた自身の答えを見つけてきなさい。」
「誰かの正義じゃなく。」
「あなた自身が信じる正義を。」
湊は少しだけ笑った。
「うん。」
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
義一も静かに頷く。
「焦るな。」
「答えは急いで出すものじゃない。」
「はい。」
湊は家を後にした。
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その頃――。
エデン本部。
暗い部屋。
大型モニターには世界中のニュースが映し出されていた。
部下が静かに報告する。
「声明は各国で大きく報道されています。」
沈黙。
部屋の奥。
一人の男が窓の外を見つめていた。
黒いローブ。
その後ろ姿だけが映る。
部下は続ける。
「政府も本格的に動き始めました。」
男は静かに目を閉じる。
「……そうか。」
たった一言。
それだけだった。
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その日の夕方。
湊が家へ戻ろうとした、その時だった。
「湊!」
聞き慣れた声が響く。
振り返ると、息を切らした御堂が走ってくる。
「大変だ!」
「今すぐ来てくれ!」
湊の表情が引き締まる。
「何があった?」
御堂は息を整えながら言った。
「能力者が――。」
そこで言葉が止まる。
ただ事ではない。
その空気だけが伝わってきた。
湊は無言で走り出す。
新たな事件が、
静かに幕を開けようとしていた――。
第73話へ続く




