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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第四十話 勇気の居場所


エデンからの脅迫メールが届いて一日――。


東洋未来ホールディングス本社。


社長室では、社長、副社長、政府関係者、能力犯罪総合対策本部の隊員による極秘会議が行われていた。


社長は疲れ切った表情で口を開く。


「本当に……家族は守れるんですか。」


政府関係者は静かに頷く。


「警備は最大限強化しています。」


「テロ組織の要求に応じるわけにはいきません。」


社長は拳を握る。


「ですが、もし家族に何かあったら……。」


御堂が静かに言った。


「私たちが必ず守ります。」


「だから、テロリストには屈しないでください。」


社長は小さく頷いた。


「……分かりました。」


「ですが、時間を稼ぐためにも、一度だけ返信させてください。」


「交渉するふりをします。」


御堂は静かに了承した。


「構いません。」


「その間に、こちらも準備を進めます。」


───


能力犯罪総合対策本部。


隊員が古い資料を持って駆け込んできた。


「隊長!」


「過去の能力反対組織について資料が見つかりました!」


御堂は資料を受け取る。


表紙には、


『ZERO』


と書かれていた。


ページをめくる。


そこには代表者の名前。


蓬莱(ほうらい) 良樹(よしき)


御堂は目を細める。


「蓬莱良樹……。」


「能力社会に反対していた組織か。」


隊員が頷く。


「十年前に活動を停止しています。」


御堂は資料を閉じた。


「……偶然とは思えんな。」


───


その頃。


イコル・ヤーレン博士は一人、研究室を後にしていた。


白衣を脱ぎ、古びたコートを羽織る。


「これは私が始めた世界だ。」


「ならば……。」


「終わらせるのも私の役目だ。」


博士は静かに歩き始めた。


その瞳には迷いがなかった。


───


人気のないビルの屋上。


グラビティが双眼鏡を覗く。


その視線の先には東洋未来ホールディングス本社。


「社長が政府関係者と接触した。」


ノイズがイヤホンに触れる。


「政府内部の通信も傍受しています。」


「対応は想定通りです。」


ゲイルが笑う。


「全部、監視されてるとも知らずにな。」


スティールは短く答えた。


「写真も動画も十分だ。」


遠く離れた場所。


ヴォイアントは静かにその報告を聞いていた。


「予定通り進めろ。」


「恐怖は、少しずつ植え付ける。」


───


学校帰り。


湊は一人の青年と肩がぶつかった。


「あっ……すみません!」


青年は慌てて頭を下げる。


その拍子に財布が地面へ落ちた。


「あ、財布。」


湊は拾い上げて差し出す。


「ありがとうございます。」


青年は何度も頭を下げ、その場を去っていった。


湊はその背中を見つめる。


「……変わった人だったな。」


───


その夜。


青年はエデンが指定した場所へ足を運んでいた。


廃工場。


そこにはグラビティ、ゲイル、スティール、ノイズが立っている。


青年は緊張した表情で言った。


「動画を見て来ました。」


グラビティが静かに尋ねる。


「能力は。」


青年は俯いた。


「……分かりません。」


その場が静まり返る。


ヴォイアントの声が通信機から聞こえた。


『分からない?』


「はい。」


「能力はあるらしいんですが……。」


「何の能力なのか誰にも分からないんです。」


ヴォイアントは静かに問いかける。


『自分や周りに、何か変わった出来事はなかったか。』


青年は少し考えた。


「気のせいかもしれませんが……。」


「体育のマラソンで、いつも最下位だった友達を必死に応援したら、一位でゴールしたことがあります。」


「あと、好きな野球チームを応援しに行くと、周りのみんなの応援もいつも以上に熱くなる気がして……。」


その言葉を聞いたヴォイアントは静かに笑った。


『……なるほど。』


『スティール。』


「はい。」


『彼に応援してもらえ。』


スティールは青年の前へ立つ。


青年は戸惑いながらも声を上げた。


「が、頑張ってください!」


「あなたなら勝てます!」


その瞬間。


スティールの身体が軽くなる。


「……。」


腕が鋼へ変わる。


足も鋼化する。


さらに――。


全身が鋼に包まれた。


ゲイルが目を見開く。


「おい……!」


「全身鋼化だと!?」


スティールも驚きを隠せなかった。


「いつもより……長く維持できる。」


二十秒。


三十秒。


普段なら数秒しか維持できない全身鋼化が続いている。


ヴォイアントは確信したように言った。


『君の能力は、鼓舞。』


『仲間を鼓舞し、能力や身体能力を引き上げる力だ。』


青年は目を見開く。


「鼓舞……。」


『今日から君のコードネームは――』


一拍置く。


『ブレイブ。』


青年はその名を小さく繰り返した。


「ブレイブ……。」


ヴォイアントは静かに告げる。


『勇気は、人から人へ伝わる。』


『お前の能力も同じだ。』


『ようこそ、エデンへ。』


ブレイブはゆっくりと頷いた。


「……よろしくお願いします。」


その頃。


東洋未来ホールディングス社長のスマートフォンへ、一通のメールが届く。


添付されていたのは三枚の写真。


学校から帰る娘。


買い物をする妻。


自宅前で遊ぶ息子。


本文には、たった一行だけ。


『ご家族は、今日も元気です。』


社長の顔から血の気が引いた。


第41話へ続く

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