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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第三十四話 動き出す悪意


朝のニュース番組が、突然切り替わった。


『速報です。東京都中央区の東都銀行本店で能力者による強盗事件が発生しました。犯人は四名。現在、多数の人質を取って立てこもっています。』


銀行の前にはパトカーが何台も並び、規制線の外では報道陣が慌ただしく動き回っている。


緊迫した空気がテレビ越しにも伝わってきた。


---


「全員、その場から動くな。」


男の一人が低い声で言う。


その瞬間、銀行内の床が重く沈み込んだ。


「うっ……!」


人質たちが一斉に膝をつく。


重力能力。


立ち上がることすらできない圧倒的な重圧だった。


「騒ぐな。命が惜しければ従え。」


冷たい声が銀行内に響く。


もう一人の男が風を操り、入口付近にいた警備員を吹き飛ばした。


三人目の男は全身が鋼のような銀色へと変化する。


拳銃を向けられても、弾丸は甲高い音を立てて弾かれた。


「効きません!」


警察官の叫び声が無線へ飛ぶ。


最後の一人は静かに笑った。


パッ――。


周囲の監視カメラが一斉にブラックアウトする。


無線も激しいノイズに変わった。


「映像、通信ともに遮断されました!」


現場は一瞬で混乱に包まれる。


---


数百キロ離れた薄暗い部屋。


一人の男が静かに目を閉じていた。


ヴォイアント。


彼の視界には、銀行内の様子が鮮明に映っている。


「……予定通りだ。」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


『リーダー。警察が包囲しました。』


イヤホンから部下の声が届く。


「慌てる必要はない。」


「今日の目的は金だけではない。」


「能力犯罪総合対策本部……その実力を見せてもらおう。」


口元がわずかに緩んだ。


---


現場指揮本部。


「通常部隊では制圧困難です!」


「犯人は能力者四名!」


「人質、およそ五十名!」


警察幹部は険しい表情で頷いた。


「……能力犯罪総合対策本部へ出動を要請する。」


その一言で空気が変わった。


---


同じ頃――。


湊たちの教室でもざわめきが広がっていた。


「見た? 銀行強盗!」


「犯人、四人組らしいよ!」


「また能力犯罪か……。」


「今度は銀行を狙ったのか。」


教室前の大型モニターには、現場の生中継が映し出されている。


銀行を取り囲むパトカー。


規制線の向こうで慌ただしく動く警察官たち。


アナウンサーの緊迫した声が教室に響いた。


『現在も犯人グループは銀行内に立てこもっており、人質はおよそ五十名とみられています。なお、犯人は重力能力、風能力、鋼化能力、電子妨害能力を使用しているとの情報が入りました。』


教室の空気が一気に重くなる。


「四人とも能力が違うのか……。」


「警察だけで大丈夫なのかな。」


誰かが不安そうにつぶやいた。


湊は何も言わず、ただモニターを見つめていた。


その表情は真剣そのものだった。


隣で小春も胸の前で手を握り締める。


「……怖いね。」


「うん。」


湊は短く答える。


その横で腕を組んでいた輝羅が、小さく息を吐いた。


「能力をそんなことに使うなんて……くだらねぇ。」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


その時だった。


『速報です。警視庁は通常部隊での対応は困難と判断し、能力犯罪総合対策本部へ出動を要請しました。』


教室中がざわつく。


「能力犯罪総合対策本部……。」


「ついに出るのか。」


「テレビでしか見たことないぞ。」


湊はモニターから目を離さなかった。


(能力犯罪総合対策本部……。)


その名を胸の中で静かに繰り返した。


---


東京都郊外。


巨大な施設の格納庫。


無数の特殊車両が並ぶ中、一人の男が静かに立ち上がる。


年齢は四十代後半。


歴戦の傷跡が刻まれた鋭い眼差し。


能力犯罪総合対策本部――隊長。


部下が敬礼する。


「隊長。」


「出動命令です。」


隊長は無言でコートを羽織る。


「相手は四名。」


「能力は重力、風、鋼化、電子妨害です。」


隊長は淡々と歩き出した。


「能力など関係ない。」


その一言だけを残して。


特殊車両のドアが閉まる。


サイレンを鳴らしながら、本部部隊は現場へ向かった。


その姿を、誰よりも遠くから見つめる男がいた。


ヴォイアントは静かに笑う。


「さあ……。」


「君たちは、私の理想を否定できるかな。」


その瞳には、確かな期待と狂気が宿っていた。


第35話へ続く。

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