第十七話 小さな変化
朝の訓練場。
育成プログラムのメンバーが整列していた。
日下部が全員を見渡す。
「昨日に続き、救助訓練を行う。」
「今日は二人一組で行動してもらう。」
「能力だけを見るな。」
「仲間を見ろ。」
「それが今日の課題だ。」
訓練場に緊張が走る。
「では、始めろ。」
全員が一斉に動き始めた。
湊は昨日と同じく九条とペアになった。
訓練開始前。
九条が静かに口を開く。
「朝霧。」
「はい。」
「昨日、一つ聞き忘れていた。」
「昨日の判断は、その場で思いついたのか?」
湊は少し考えて答える。
「はい。」
「九条さんが瓦礫を動かしているのを見ていて、この場合は違う方法もあるかなって思いました。」
九条は少しだけ目を細めた。
「観察して考える。」
「それも一つの力だ。」
湊は少し照れながら笑う。
「ありがとうございます。」
二人は瓦礫の救助訓練を始める。
九条は念力で大きな瓦礫を支える。
湊は周囲を確認しながら、安全なルートを探していく。
「九条さん、そのままでお願いします。」
「分かった。」
短い会話だけで息が合う。
昨日よりも連携は明らかに良くなっていた。
日下部は少し離れた場所から、その様子を静かに見守っていた。
一方。
別の訓練エリアでは、神童輝羅と如月葵がペア訓練を行っていた。
雷が走る。
氷が瓦礫を支える。
二人は迷いなく課題を終える。
訓練終了後。
輝羅はタオルで汗を拭きながら歩き出した。
向かった先には湊がいた。
「朝霧。」
湊は振り返る。
「神童くん。」
輝羅は短く言う。
「昨日の判断。」
「悪くなかった。」
湊は少し驚いたあと、笑顔で答えた。
「ありがとうございます。」
それだけ話すと、輝羅は踵を返して歩き出す。
その様子を、如月は少し離れた場所から見ていた。
(神童くんが、人を褒めた……。)
思わず小さく笑う。
「朝霧湊か。」
「ちょっと面白い人かも。」
その様子を見ていた人物がもう一人いた。
蒼井源太。
腕を組み、黙って湊を見つめている。
「……。」
昨日のように否定はしない。
だが、認めてもいない。
湊は蒼井に気付き、軽く頭を下げた。
蒼井は何も言わず、そのまま歩き去る。
しかし昨日ほど険しい表情ではなかった。
訓練が終わる。
育成プログラムでは、片付けも訓練の一つだった。
能力者も無能力者も関係ない。
全員が瓦礫を運び、道具を片付け、訓練場を元の状態へ戻していく。
湊も黙々と作業を続ける。
九条も無言で手伝う。
如月もほうきを持って掃除をしている。
輝羅も文句一つ言わず瓦礫を運んでいた。
この場所では、能力があることは特別ではない。
人を守るために行動すること。
それが何より大切だった。
全ての片付けが終わる。
日下部が全員の前に立つ。
「今日はここまでだ。」
全員が整列する。
日下部は静かに全員を見渡した。
「明日から訓練内容を一段階引き上げる。」
その一言で空気が変わる。
「ここからが、本当の育成プログラムだ。」
誰も言葉を発さない。
湊は静かに拳を握る。
自分に何ができるのか。
まだ分からない。
それでも、この場所で学びたい。
その気持ちは昨日よりも強くなっていた。
第17話 小さな変化 完




