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第十五話 最初の一日


翌朝。


朝霧湊は再び育成プログラムの門をくぐった。


昨日とは違う。


今日は「見学者」ではない。


これから始まる新しい一日を迎えるために、この場所へ来た。


深呼吸を一つして、施設の中へ足を踏み入れる。


訓練場へ向かう廊下では、能力者たちが思い思いに過ごしていた。


談笑する者。


準備運動をする者。


真剣な表情で資料を読む者。


湊は少し驚く。


「もっと張り詰めた場所かと思ってた……。」


能力者だからといって、特別な人間ではない。


普通に笑い、普通に話し、普通に朝を迎えていた。


その光景に、少しだけ肩の力が抜ける。


「朝霧。」


落ち着いた声が聞こえた。


振り向くと、九条蓮が立っていた。


「おはよう。」


「お、おはよう。」


九条は穏やかな表情で湊を見る。


「昨日は驚いた。」


「えっ?」


「教官が君を選んだことだ。」


少しだけ間が空く。


「だが。」


「教官が選んだなら理由がある。」


湊はその言葉を静かに受け止めた。


「ありがとうございます。」


九条は小さく頷く。


「ここでは能力よりも、信頼の方が大切だ。」


「教官は、そういう人だ。」


その言葉を聞いて、湊は昨日の日下部の言葉を思い出していた。


『能力は、人を助ける手段だ。人を助ける理由にはならない。』


少し離れた場所では、二人の能力者が湊を見ていた。


如月葵が小さく呟く。


「あの子が例の無能力者?」


隣に立つ神童輝羅は視線を向けたまま答える。


「ああ。」


「朝霧だ。」


「思ったより普通ね。」


「……普通だから気になる。」


輝羅はそれ以上何も話さなかった。


やがて訓練場へ集合の合図が鳴る。


能力者たちが一斉に整列した。


日下部が全員の前へ立つ。


「おはよう。」


「今日から新しい課題を始める。」


訓練場が静まり返る。


「能力は一人で使うものではない。」


「仲間と連携して初めて、本当の力になる。」


誰も口を開かない。


日下部は全員を見渡した。


「これから数日間。」


「各自、課題へ取り組んでもらう。」


「詳細は後ほど説明する。」


湊は静かに話を聞いていた。


育成プログラムへ来てまだ二日。


それでも、この場所が「能力の強さ」を競う場所ではないことは分かっていた。


ここで学ぶのは、能力そのものではない。


能力をどう使うか。


人をどう守るか。


そのための場所なのだ。


日下部は一度言葉を切り、静かに続ける。


「今日の訓練が終わった後。」


「今回の課題を共に行う二人一組を発表する。」


訓練場が少しざわつく。


誰と組むのか。


能力の相性か。


実力か。


様々な考えが交差する。


湊も静かに前を見つめる。


自分は誰と組むことになるのだろう。


日下部は全員を見渡し、小さく頷いた。


「では、訓練を始める。」


号令とともに、能力者たちは一斉に動き出した。


湊の「最初の一日」が、今始まる。


第15話 最初の一日 完

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