表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/22

第十四話 選ばれた理由


重厚な扉がゆっくりと開く。


その先には、静かな空間が広がっていた。


壁一面には数え切れないほどの写真が飾られている。


歴代の育成プログラム修了者たちだった。


災害現場。


能力犯罪の制圧。


海外での救助活動。


一枚一枚の写真には、それぞれの功績が記されている。


湊はゆっくりと歩きながら写真を見つめた。


「この人たちが……。」


日下部が静かに頷く。


「能力を、人を守るために使い続けた者たちだ。」


「彼らは強かった。」


「だが、それ以上に優しかった。」


その言葉に、湊は写真から目を離せなかった。


部屋の奥には一つのモニターが置かれていた。


日下部はリモコンを手に取り、映像を再生する。


画面に映し出されたのは、見覚えのある交差点。


物流事故。


大型トラック。


悲鳴。


そして、一人の少女。


「……。」


湊は息を呑んだ。


映像は、あの日の出来事を映していた。


能力者たちは状況を見ていた。


どう助けるか。


どの能力を使うか。


その一瞬。


画面の中で、一人だけ飛び出した人物がいる。


朝霧湊。


映像は、湊が少女へ飛び込む瞬間で止まった。


静寂が流れる。


日下部がモニターを見つめたまま口を開く。


「君は、あの時何を考えて飛び出した?」


湊は映像を見つめる。


少し考え、


静かに答えた。


「何も考えてません。」


「助けなきゃって思ったら……。」


「体が勝手に動いていました。」


日下部はゆっくり頷いた。


「それでいい。」


その一言は、とても穏やかだった。


「能力を持つ者は、能力で助けようとする。」


「炎なら炎で。」


「風なら風で。」


「念力なら念力で。」


「だが君は違った。」


日下部は湊を見る。


「君は能力ではなく、人を見ていた。」


湊は言葉を失う。


「能力は、人を助ける手段だ。」


「人を助ける理由にはならない。」


その言葉が、静かな部屋に響いた。


湊はその意味を考え続ける。


今まで誰にも言われたことのない言葉だった。


日下部は窓の外を見る。


訓練場では能力者たちが汗を流していた。


「能力は便利だ。」


「人々の生活を変えた。」


「多くの命も救ってきた。」


少し間を置く。


「だが。」


「能力だけでは人は救えない。」


「最後に人を動かすのは、人の心だ。」


その言葉を聞きながら、湊は静かに考えていた。


自分は特別なことをしたつもりはない。


ただ、助けなければいけないと思った。


それだけだった。


「能力者じゃない僕に……。」


湊は静かに口を開く。


「能力者じゃない僕に、何ができるんですか?」


日下部は少し笑った。


「その質問をする時点で、君は能力に縛られている。」


「えっ?」


「君はあの日。」


「能力がないから助けなかったか?」


「……。」


「違う。」


「能力がなくても助けた。」


湊は何も言えなかった。


日下部は湊の肩へ静かに手を置く。


「だから私は君を選んだ。」


「しかし。」


その表情が少しだけ厳しくなる。


「育成プログラムは優しい世界じゃない。」


「ここには全国から選ばれた能力者が集まる。」


「能力がない君は。」


「能力者以上に努力しなければならない。」


静かな沈黙。


「それでも来るか?」


湊はゆっくりと目を閉じた。


あの日の少女の姿が浮かぶ。


「助けたい。」


あの時、そう思った気持ちは今も変わらない。


湊は静かに目を開いた。


迷いはなかった。


「……はい。」


日下部は小さく頷く。


「その返事で十分だ。」


窓の外では、能力者たちの訓練が続いている。


能力があるか、ないか。


そんなことよりも、大切なものがあるのかもしれない。


その答えを知るために。


湊は、新たな一歩を踏み出した。


第14話 選ばれた理由 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ