1食目
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前回の解決レシピ:宝くじ一等当せんから異世界へ!? チートな魔法屋台と相棒の地竜を手に入れ、最高の隠居(?)スローライフがスタート!
※カクヨム様から移転してきました。なろう版のアキラたちの旅も、ぜひ応援よろしくお願いします!
その時、俺の指先は確かに「世界の頂点」に触れていた。
西新宿のオフィスビル。
窓の外に見える摩天楼すら、今の俺には安っぽい書き割りにしか見えない。
手の中にある、たった一枚の薄っぺらい紙切れ。
そこには、俺がこの十年、戦略コンサルタントとしてすり減らしてきた精神の報酬を、数千倍にしてなお余りある数字が刻印されていた。
「一等、前後賞合わせて……六億円」
思わず、乾いた笑いが漏れた。
俺、佐藤アキラ、三十二歳。
職業、企業再生コンサルタント。
他人の会社の不振を分析し、リストラを断行し、数字上の最適解を導き出す機械のような毎日。
クライアントからは神のように崇められ、解雇された社員からは悪魔のように呪われる。
寝る間もなくカフェインと栄養剤で無理やり脳を回し続ける社畜日々は――今日、この瞬間をもって終了する。
さらば、不毛な会議。
さらば、終わりのない損益計算書。
俺はこの六億を握りしめ、南の島で一生分の「のんびり」を買い占めてやるのだ。
銀行は目と鼻の先だった。
横断歩道を渡る足取りは、羽が生えたように軽い。
信号が青に変わり、一歩踏み出したその瞬間。
――視界が、真っ白な光に塗りつぶされた。
ブレーキの絶叫。
凄まじい衝撃。
不思議と痛みはなかった。
ただ、カバンの中にある「六億円の約束手形」が、春風に吹かれた桜の花びらのように、ひらひらと視界を舞い上がっていくのが見えた。
(冗談だろ……? 俺の、俺の隠居生活が……)
意識が遠のく中、俺の脳内コンサルタントが冷静に現状を分析した。
【事象:交通事故による生命活動の停止】
【機会損失:現金六億円、および想定される約五十年の自由時間】
【結論:最悪のバッドエンド】
……はずだった。
「……おーい、聞こえるか? 人間」
頭上で、ひどく間の抜けた声がした。
目を開けると、そこは新宿の雑踏ではなく、見渡す限りの草原だった。
そして目の前には、パジャマ姿で煎餅をかじっている、自称「神様」の老人が立っていた。
「残念だったのう。あと五メートルで銀行じゃったのに」
「……神様。単刀直入に聞きます。俺の六億はどうなりましたか?」
「燃えた。チリ一つ残らずな」
俺は天を仰いだ。
絶望という名の損益分岐点を一瞬で突破した気分だ。
「まあ、そう落ち込むな。お主、これまでの人生で徳を積みすぎたんじゃよ。あのブラック環境で働きながら、倒産しかけたパン屋やら、潰れそうな町工場をボランティアで救いまくったじゃろ? その分の『お返し』を、別の世界でさせてやろうと思ってな」
「別の世界、ですか」
「そう。剣と魔法の異世界じゃ。そこでお主が願った『のんびりした暮らし』を楽しめるよう、お主の全財産――つまり【六億円分の価値】を、こっちの世界の資材に変換してプレゼントしておいたぞ」
六億円分の価値。
それは、伝説の聖剣か。
あるいは、一国の城か。
期待に胸を膨らませた俺の前に、それは「それ」は現れた。
――巨大な、あまりにも巨大な「馬車」だった。
いや、ただの馬車ではない。
外装は美しい白木と真鍮で装飾され、側面には『アキラのキッチン』という文字。
内部を覗けば、驚きの光景が広がっていた。
最新鋭の厨房設備。
魔法で冷やす冷蔵庫。
無限に湧き出る清潔な水。
そして、どんな悪路でも絶対に揺れない魔法のサスペンション。
さらに、その馬車を引くのは、馬ではない。
一頭の小さな、しかしガッシリとした体格の「地竜」だった。
「これが……俺の六億?」
「そう。世界一多機能な『移動式屋台』じゃ。お主のコンサル能力があれば、これ一台で一生食いっぱぐれることはなかろう。好きなところへ行き、好きな時に店を開き、気が向いたら誰かの悩みを聞いてやる……。どうじゃ、最高の隠居生活じゃろ?」
俺は、呆然としながら地竜の頭を撫でた。
地竜は「グルル」と心地よさそうに喉を鳴らし、俺の服の裾を甘噛みしている。
確かに、一箇所に留まって王様になるのはガラじゃない。
旅をしながら、旨いものを食い、気が向いた時だけ「最適解」を提示してやる。
悪くない。
いや、むしろ理想的だ。
「……いいでしょう。この『資産』、有効活用させていただきます」
「そうこなくっちゃな。あ、言い忘れたが、その屋台の食材や設備は、お主が『誰かの悩みを解決して得た報酬』を投入することでアップグレードされる仕組みじゃ。つまり、働かないとニートのままだぞ。せいぜい頑張れよ、元・敏腕コンサルくん!」
神様はそう言い残して、煙のように消えた。
静かな草原。
吹き抜ける風はハーブの香りがした。
俺はネクタイを緩め、キッチンカーの運転席……ではなく、地竜の手綱を握った。
「よし、相棒。まずは最初の目的地を決めようか。……おっと、その前に、俺たちの昼飯だな。とりあえず、この高スペックな厨房で『黄金のコンソメスープ』でも作るとするか」
六億円を失った男の、一等当せん級に贅沢な旅。
異世界移動屋台「アキラのキッチン」、本日、気ままに開店である。
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