7 Barメイド
「コーヒーねぇ……。苦いのは嫌だけど、なんか飲みたくなってきちゃったなぁ〜。」
ミネルは椅子へだらりともたれながら呟いた。
「それなら――」
透がフイッと視線だけで、廊下の先を示す。
「?」
その先にあったのは、薄暗い照明と木製の扉。
看板にはこう書かれていた。
『Barメイド』
「……なろうワークってBarも完備してんの!?」
「メイドがやってるバーなんだ。」
扉を開ける。
カラン、と鈴が鳴った。
「お帰りなさいませ、マスター。」
メイド服姿の女性が、綺麗なお辞儀をする。
「マスター、いつもの。」
透が慣れた様子で席についた。
「かしこまりました、マスター。」
「お互いマスター呼びだからややこしいのよ……。まぁ、そこがいいのかもしれないけど。」
「どうも初めまして。私、ここでメイドをやっているモエと申します。こちらメニューです。」
ミネルもメニューを開く。
「む……。意外とちゃんとメニューあるのね。」
「もちろん、よく分からんジュースの名前ばっかだけど……。」
「お待たせしました、マスター。カクテルのネグローニと……こちら、“ガチエンジェルフレンチ”です。」
「うわでた。てかあれあそこ限定じゃないんかい。」
「あのモエさん、仕事できる人でね。」
透はネグローニを揺らしながら言う。
「ここ、実質モエさん目当てのおじさん達で成り立ってる。」
「へぇ〜。もうスナックみたいなものじゃない。」
そんなことを話していると――
スッ。
モエが、ミネルの前へグラスを置いた。
「……あの、頼んでないんだけど。」
「こちら、“あちらのマスター”からです。」
店の奥。
カウンター席の男が、静かにグラスを掲げていた。
「やっぱそのお客様のことマスターって呼ぶのやめられる……? 主従関係ごっちゃになるのよ。」
「申し訳ございません、プラチナ。」
「あ、まだマスターまでの力が足りてない……。」
――数時間後。
「……お客様、そろそろ閉店のお時間です。」
「うぅ……。」
机へ突っ伏したミネルが、ぐでんと呟く。
「終電なくなっちゃった……ね…?」
「元からねぇよ。」
どうやら完全に酔いつぶれたらしい。




