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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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祝福のエレスチャル27

「俺はあなたに謝りたいのです」


 エルヴィア様は悲しげな顔で言った。


「三年前、俺はシセラの嘘のせいで、あなたにひどいことをしてしまった。あなたが心優しく優秀な竜医師だと知っていたのに……すべてはこの女が仕組んだことです。俺はこの女を許さない」


 エルヴィア様は憎々しそうに、気絶しているシセラ様をにらみつけた。


(私を穢れ者と呼んで殴ったことを、すべてシセラ様の責任にするなんて……)


 自分は何ひとつ悪くない。そう主張するエルヴィア様がおぞましく思えた。


「あなたは最初から私の言葉を嘘と決めつけて、まったく耳を貸さなかった。私を信じないと決めて、暴力を振るったのはあなたの選択です」

「違う! この女が諸悪の根源なのです。俺を騙した重罪人なのです! 俺は心の底ではあなたを信じていました。だから、あなたも俺を信じてください」


 彼の何を信じろと言うのだろう。この人が何を考えているのかわからない。

 一刻も早く、つかまれた腕を振り解きたかった。

 

「安心してください、ウタヒメ。これからは俺があなたを守ります」

「ま、守る?」

「ええ。あなたをあの暴力的で無能なヘリアスから守ります。大丈夫、俺があなたを癒し、必ず幸せにしてみせます。それが俺の使命なのです」


 そう、恍惚とした表情で微笑んだ。

 頭の奥がかっと熱くなり、反射的に抗議する。


「ヘリアス様を侮辱しないでください! 彼は私のことを、とても大切にしてくださっています。あなたに幸せにしてほしいなんて望んでいません!」

「ああ、フィルナ様、お可哀想に。あの男を裏切ればひどい目に遭うと恐れておられるのですね。大丈夫ですよ、これからは俺がお守りしますから」


 そう言って、彼は私の腕を引っ張って歩き出した。


(この人、まったく人の話を聞こうとしない!)


 私はせめてもの抵抗として、エルヴィア様の手に思い切り爪を立てた。

 エルヴィア様は痛みに驚いて、悲しげに眉を寄せた。


「ウタヒメ……」

「守ってもらわなくても結構です。何を勘違いしているのか知りませんが、私は自らの意思で、ヘリアス様と生きることを選んだのです!」

「違う」


 エルヴィア様の瞳孔が開き、その手に力がこめられた。 

 指が腕に食いこみ、その痛みに私は小さな悲鳴を漏らしてしまう。


「ああ……やはり、ヘリアスに毒されてしまったのですね。あなたをあの男から引き離さなければ」


 彼は再び歩き出す。容赦なくずるずると引きずられ、何度もつまづきそうになる。

 彼に何を言っても響かない。己の正義に酔い、自分の判断こそが正しいと思いこんでいる。


 エルヴィア様は二体のラドロンの前で立ち止まった。


「片方は不良品だが、もう片方は使えそうだな。人間にも作用する毒が使えるのは大きい」

「エルヴィア様?」

「これなら、ヘリアスとルイスを殺せる!」


 彼はラドロンを見上げ、勝利を確信したように歓喜の声を上げた。

 ラドロンを恐れず、道具扱いしているなんて……。


「あなたは……セイレニア教の人間なのですか?」


 エルヴィア様は一瞬気まずそうな顔をして、小さくうなずいた。


「ええ、そうです」

「イーリス騎士団の副団長なのに?」


 私の指摘にエルヴィア様は顔をゆがませ、怒声を爆発させた。


「俺は女神イーリスに忠誠を誓った身だ! それは今も変わらない! ですが……」


 一度言葉を切り、悔しげに歯ぎしりの音を立てる。


「ルイスを排除するためにはこれしかなかった。あの男は大罪人であり、穢れ者だ! なのに誰も俺の話を信じない!」

「ルイス様が、大罪人?」

「そうです、聡明なあなたなら信じてくれると思っていました! ルイスという異物を排除するには、異端者どもと手を組むしかなかったのです。わかってください、ウタヒメ」


 エルヴィア様は切なそうな顔をして、すがるように私の腕をつかむ。

 私は首を横に振った。


「私にはわかりません。ただ、あなたのせいでフェリシアが命の危機にさらされた。私は絶対にあなたを許さない」


 沸々と怒りが湧き上がり、声が震えた。

 エルヴィア様は不思議そうに首を傾げて、


「フェリシア? ああ……シセラを始末するつもりが、あなたの侍女が巻きこまれたのですね。ですが、あんな生意気な女はあなたに相応しくありませんし、死んで当然でしょう。俺が新しい侍女を見つけますよ」


 怒りのあまり、言葉を失った私に気づいた様子もなく、エルヴィア様は私の頬に触れた。


「一緒に逃げましょう、ウタヒメ。しばらくセイレニアに身を寄せ、騒ぎが収まれば、静かな場所でふたりで暮らすのです。そして……」


 彼は、熱に浮かされたように私を見つめて言った。


「いつか、俺の子供をたくさん産んでくだされば」

「気持ち悪い」


 強烈な嫌悪感から、私はすかさず吐き捨てていた。

 エルヴィア様の神経を逆なでするとわかっていても、抑えきれなかった。


 彼は信じられないとばかりに目を見開き、怒りに顔を真っ赤に染めた。


「こ、この俺に向かって、気持ち悪いと言ったな!」


 彼の手が私の腕から離れ、代わりに拳が飛んでくる。

 私は持っていた注射器を、エルヴィア様の左肩に突き刺した。

  

「ぐあぁ!?」


 エルヴィア様が悲鳴を上げ、痛みにもがいている隙に、私は駆け出した。


「待て、逃がさないぞ! あなたは俺と一緒にセイレニアに行くんだ!」


 背後からエルヴィア様の怒鳴り声が迫ってくる。

 私は息を切らしながら、竜舎の方角に向かって無我夢中で走った。

 エアルを呼べば、この状況を変えられる。そう信じて。

 

 けれど、私の動きに反応して、シセラ様が操っていたラドロンがこちらに向かってきた。


(まずい! あの竜笛は……!)


 竜医師コートのポケットに手を入れる。竜笛を吹くのが先か、噛みつかれるのが先か。

 ドクンドクンと心臓が脈打ち、すべての動きが緩やかに見える。

 

 ラドロンが大きく口を開け、鋭い牙が私の身体に突き立てられるその瞬間、ラドロンの首に閃光が走った。

 パッと鮮やかな血が舞い散る。


 視線を上げると、ラドロンの頭の上に誰かが立っていることに気づいた。

 竜騎士のマントを風になびかせ、月の輝きを受けた赤髪が闇の中に浮かび上がる。

 暗闇に沈む瞳が私を捉えた。

 その冷たい美しさに、胸が震えた。

 

「ヘリアス様……!」

次回更新は1/2です。

来年もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
今年最後の更新ありがとうございます! そうでした、フィルナさんは目の前の命を諦めるなんてことはしない、人でも竜でも懸命に手を伸ばす素敵な人でした 百歩譲ってそんなフィルナさんに横恋慕するのはわかる…
きゃーっヒーロー降臨ですよ!スゴい!タイミングばっちりぃ??!へリアス様、気持ち悪い男を退治してくださいっ!ええ本当に気持ち悪ぅ。
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