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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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祝福のエレスチャル8【シセラ視点】

「うわ、汚い」


 思わずそんな声が出た。

 (シセラ)の前には、竜房の隅で座ってぼんやりしているエレスチャルがいる。

 そして、エレスチャルのそばには、ごっそりと抜け落ちた美しい金色の長毛が散らばっていた。


(うそ……背中の一部がはげてる?)


 はげたところから、赤くなった肌が見えている。その見た目にゾッと鳥肌が立つ。

 金色の毛こそが光竜の美しさのすべてなのに!


「ちょっと、これはどういうこと!? ほんの少し目を離した隙に何があったのですか!!」

「も、申し訳ありません!」


 竜調教師の女は怯えたように謝罪して、恐る恐るといった表情で説明した。


「その、気づいたらすでに毛が落ちていて、急いで竜医師に診せましたが、原因はストレスだと……」

「は? ストレス? エレスチャルの管理はあなたに任せているはずですが、つまりあなたの管理が悪かったってことですよね?」

「そ、そんな、私はきちんとお世話をして……」

「お黙りなさい! もう、どうしてくれるのよ! これじゃあ竜品評会に間に合わないじゃない!」

「でも、シセラ様はペナルティで出場停止に――」


 カッと頭の奥が熱くなり、私は思い切りその女の頬を叩いた。

 バシンッと鋭い音が鳴り響き、エレスチャルがびくりと身体を震わせる。


「私は必ず竜品評会に出るの! お兄様ならわかってくれるわ!」


 じゃないと他の令嬢たちに笑いものにされてしまう! そんなの許せない。


「あなた、何とかしなさい。じゃないとどうなるか、わかりますよね?」

「は、はい!」


 女は泣き出しそうな顔をして、慌てて竜舎から出ていった。

 あんなに怯えちゃって馬鹿みたい。ほんの少しだけ苛立ちが紛れた気がする。

 私はこちらに近づいてくるエレスチャルをにらんだ。


「ストレスって何? こんなにたくさんお金をかけてあげたのに、役立たずな竜ですね。餌なんてあげるわけないでしょう」


 すると、エレスチャルは後ろ足で立ち上がり、前足を胸の前で合わせて、「お願い」でもするようにパタパタと上下に動かした。

 

 「キュウ、キュウ」といかにも悲しげな鳴き声を上げたりなんかして、こちらの同情を誘おうとしているのかしら。


「はあ……前の竜調教師が教えた芸、まだ覚えているの? そんなことをしたって何もあげないわよ、お馬鹿さん! そんなことよりも、竜品評会で使える芸を覚えなさい!」


 目を潤ませて、必死に物乞いみたいな真似をするエレスチャルが滑稽だった。

 汚くて馬鹿な竜なんて、もういらない。


「そうだ、エルヴィアの家から新しい光竜を貰えないかしら?」


 あそこは元々光竜専門の竜医師の家だし、綺麗な光竜がいるはず。一番いいのは売れちゃってるだろうけど、エレスチャルよりマシな竜なら何でもいい。


「やはりそうか」


 ぽつりと低い声が聞こえて、慌てて振り返ると、竜舎の出入口にエルヴィアが立っていた。

 顔の左側は大きなガーゼが貼られているけれど、肌は赤黒く染まり、かなり腫れている。

 端正な顔が台無しね。


「あら、ちょうどよかったです、エルヴィア。あなたに話があって――」

「シセラ。きみと婚約してからおかしいと思っていたんだ。きみに竜の知識があるとは思えないからね」

「え? 突然何を言っているのですか?」

「きみとの婚約は破棄する」

「は?」


 一瞬何を言われたのかわからなくて、ぽかんとしてしまった。

 婚約破棄? ええ、そのつもりではあったけれど。でも、向こうから言われるなんて予想外だった。


(これじゃあまるで、私の方が捨てられたみたいじゃない!)


 衝撃と屈辱のあまり、何か言おうとしても舌がもつれて言葉にならない。

 エルヴィアは私に構うことなく、言葉をつづけた。


「三年前、きみはフィルナ様が開発した治療薬の手柄を横取りしただろう」

「横取りだなんて失礼ですね! 私の助言があったから治療薬は完成したのです! 私は途中まで竜医師の勉強をしていましたし、今では優秀な竜調教師なのですよ?」

「俺はきみが竜を訓練しているところを見たことがない。それに、きみの知識でフィルナ様に助言など無理だろう」

「そんなのわからないじゃないですか!」


 すかさず抗議するけれど、彼はもう私の話を聞いてはいなかった。


「溺れていた子竜を助けただけ……あの時、フィルナ様はそう言っていた。危険を顧みず、彼女は子竜を助けたんだな。あの人の言葉を信じてあげればよかった……!」


 彼はそう言って悔しげな表情を浮かべた。けれど、次の瞬間には表情を引きしめ、真剣な顔で言った。


「彼女を助けよう」

「は!? 助ける!?」

「きみの嘘のせいで、あの人にひどいことをしてしまった。優秀な竜医師で、心優しい人だとわかっていたのに!」


 私の嘘のせいで? 胸の奥に不快な気持ちが湧き上がる。


「心優しいから何だというのですか? フィルナ様はあの罪深いキントバージェ家の娘ですよ?」

「関係ない。俺はフィルナ様が好きだった。三年前のあの時から」


 エルヴィアの告白に、思わず顔が引きつった。


「好きだからこそ、嘘をつかれたと思い、裏切られた気持ちになったんだ。だが、彼女は無実だった」


 エルヴィアは切なげに目を伏せて、小さく微笑んだ。


「彼女の笑顔はとても純粋で美しかった。ヘリアスに向けていたあの笑顔は、本当は俺に向けられるべきものだったんだ」


 彼の言動があまりに衝撃的で唖然としてしまう。

 三年前から好きだった? 私が声をかければ嬉しそうにしていたくせに、ふざけないでよ!

 私は苛立ちを抑えながら、ふんと鼻で笑った。


「穢れ者と呼んで殴ったくせに。きっとフィルナ様は、あなたのことを嫌っていると思いますけど?」

「誠意をもって謝罪する。それが竜騎士というものだ」


 彼は胸を張って言った。その目は異様に熱く、ギラギラと輝いていた。


「ヘリアスはあの通りの暴力的で冷酷な男だ。フィルナ様はきっと、今もつらい思いをされているに違いない」


 エルヴィアは沈痛な表情を浮かべた。自分の正義に酔いしれて、もう私の存在すら見えていないみたいだ。


「それに彼女はウタヒメだ。彼女は本来、教会が保護するべき存在だ。憎きヘリアスの手から、フィルナ様を助け出す!」


 「それが俺の使命だ」彼はそう宣言すると、こちらを冷たく見やってから去っていった。


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― 新着の感想 ―
うわぁ~斜め上な勘違いクソヤロウ(口汚なくてスミマセン)だな、エルヴィア!エレスチャルはフィルナ先生が治してくれるからアホゥな飼い主は見限るとよいよ!愚かな二人に天罰をお願いします作者様!
エルヴィア、目が覚めたか!と思ったら、よくないほうへ向かっていきましたね···。もう一発ヘリアス様に殴られてください。というか、次にやらかしたら斬り捨てられちゃうんだった!エレスチャルがかわいそうなの…
エレスチャル可哀想°・(ノД`)・°・ エルヴィアが助けるのかと思えばシセルをせめるだけでいたいけな竜は放置ですか ふたりとも最悪である意味お似合いだよお前ら 美しきエレスチャルはフィルナ様がきっと助…
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