前に出るなと何度言えば!
部屋を出ると、左側に曲がってきた角、右側に続く廊下があるので、右側へ進む。
少し進むと左側に通路、廊下はまだ真っ直ぐ続いているので、とりあえず真っ直ぐ進んだ。
突き当たりの壁と、右側には地下へ続く階段。
左側に続く通路と、部屋の扉。
「二人ともここでちょっと待ってて下さい。見てきます」
多分だけど、この廊下を真っ直ぐ行けば、出入り口に繋がる通路だと思う。
敵も罠もなし。
帰りは階段から真っ直ぐ進んで左に折れればすぐ階段がある。
私は戻って、メガネの地図に書き込んだ。
はい、安全ルート確保。
「じゃあ、この部屋開けましょうか」
二人が待機していたすぐ近くの扉を調べる。
鍵も罠もない。
「アル」
「うむ」
慣れた様子で王子が扉を開ける。
中には何もいなかった。
捜索しても宝箱もゼロ。
残念、外れです。
「じゃあ、先程の分かれ道に戻りますか?」
地図を見ながらメガネが言う。
私は頷いた。
そして、通路の分岐点まで来た時に、メガネが私より先に踏み出した。
「何か光りましたね。あれは何でしょう?」
「ちょっ」
制止しようとする前に、メガネに向かって壁から矢が放たれた。
ヒュッと空気を裂く音がして、反対側の壁に突き刺さる。
「ヒェッ」
「ああ、そうですか、矢に当たりたかったんですね?何度も何度も言ってるのに、二人とも…」
一度発動した罠で、一回切りのようだ。
壁に突き刺さって落ちた矢も迷宮産なので、時間が経過すれば消えるだろう。
「す、すみません、ミア……」
危ない目にあったメガネが立ち上がりながら謝罪する。
もちろん、光ったのは壁に埋め込まれた罠の一部で、ある程度の低い知能の魔物もこの罠にかかるだろう。
メガネもかかりましたけどね。
「この光る金属も含めて罠です。勝手に前に出ないで下さい」
「はい……」
私はそのまま扉に向かう。
おや?
罠は無いけど、鍵がかかってる。
私は盗賊道具を取り出して、鍵を開けた。
「アル」
「うむ」
鍵がかかっていたという事は中に何か良い物があるかもしれない。
王子が扉を開けるが、中には魔物はいなかった。
探索すると宝箱はある。
罠解除して、鍵も開けて中身を確認すると、魔法書が入っていた。
何の魔法書だろう?
まあいいか、後で鑑定でもしよう。
良い物だといいな。
私は王子の背負い袋に入れる。
「さて、あとは階段がありましたけど、もう一階行っておきます?」
経過時間は大体一時間くらいだろう。
戦闘回数や魔物の数によって少しは差が出るが、多分五層まではそこまで大差なさそうだ。
「多分、三層まで潜っても夕方には戻れると思いますけど」
「じゃあ、行こう。まだ疲れていないしな」
「ええ、行きましょう」
二人のやる気に満ちた顔を見て、私はにっこりした。
部屋から出て階段を下りると、王子に縄をつける。
力縄だ。
「ん?何だ?どうしたんだ?ミア…」
困惑した王子が問いかけるが、無視して腰周りにロープを括りつけて、私は縄の先端を持つ。
お子様をつなぐ簡易ハーネスだ。
「何って?アルもサーフも私の前に出たがるから、先に歩かせようと思って、さあどうぞ」
「……な、いや……それは、すまなかったと……」
「大丈夫です。罠が発動したら、次はサーフの番ですから」
にっこり言うと、王子は顔を青褪めさせた。
即死級の罠は無いが、ここで改めて言って安心させる事はないだろう。
「発動しなかったら……?」
「発動するまでどうぞ。ね?」
正直、斥候の仕事は楽ではない。
パーティーの露払いであり、仲間を守るために自ら先頭に立ち罠を見つけ、その危険を排除するのだから。
一番前を歩くのも、罠に気を配るのも神経が削れる。
「……分かった」
私の後をついてくるだけでは、多分彼らも真の意味で理解できないのかもしれない。
ってのは建前で。
ぶっちゃけムカついたので八つ当たりです。
緊張感と責任感と不安と恐怖を味わうがいい。




