スライム基準
王子とメガネを連れて、私の定宿「黄金の野うさぎ亭」でご飯を食べる。
メガネは王子ほど甘やかされていないのだろう。
旅でよれよれになって、疲れきった顔をしていた。
見た目も汚れていたので、王子と同じく鑑定と清潔を覚えさせた。
そして、食事をしながら、大まかな迷宮についての説明と、訓練についての話をする。
さすがに王子の様に剣を取って戦えとは言わないが、回避の練習はさせておいた方がいいだろう。
ノーツが来るまで王子にメガネ攻撃をさせる事を心に決めた。
そして何より大事な事は、アルクを王子などと呼ばないことだ。
厳命して、彼らを見送る。
部屋では筋トレをするように言ってあるので、メガネにも同じ試練を課す。
別に筋肉が増えても困りはしない。
魔法の勉強が始まるまでは、王子と切磋琢磨するがいい。
いやー、考えてみると、今日は結構危ない橋渡ったなぁ。
一度に5匹と遭遇してたらヤバかった。
あれは良くない。
反省、反省。
スヤスヤ。
翌日は、何と。
何と!
早起きしてメガネを連れて、ちゃんと私の宿屋に訪れたのだ、王子が。
ママ嬉しい。
ちゃんと起きれたんだね!
寧ろ私の方が寝坊した件。
だって、昨日は頑張ったもん。
朝食を食べて、ギルドへ向かう。
早速エミリーさんに質問をした。
「魔法の授業はここではやってないですかね?」
「ええ、そうね。魔法協会ではやってるけれど、基本的には魔法書で覚えるか、本を読むか、かしらね?」
「分かりました。ありがとうございます」
学園のように教えてくれる機関は無いのか。
まあ、うん。
魔法使いは、色々な所に引っ張りだこだろう。
何しろ素質がないと行使できない力だ。
だから、貴族なら使えるのが当然、ていう国は割と勿体無い事してる。
かもしれない。
そこそこの教育だけして放置だもんね。
戦争とか始まれば別かもしれないけど、今のところそういった話はこの近隣では無い。
昨日の発案どおり、王子がメガネになぐりかかり、メガネは回避する。
「えっ?」
「ええっ?」
二人とも驚くけど、いいからやれ。
メガネは回避の練習、王子は命中させる練習だ。
流石に、色々な人と戦闘したり、昨日は狼とまで戦った王子は、きちんとメガネを捉えている。
メガネは回避し切れずに、肩や頭を叩かれて泣きそう。
「いっ、痛いです、おう…」
「アルク」
王子という前に私が訂正する。
メガネの声がアザラシの鳴き声みたいになったけど気にしない。
抗議してる暇があるなら避けろ。
ぽこぽこ叩き続けているうちに、王子の方が困った顔になっていく。
「スライムより遅い……」
「……そんな罵倒は初めてです」
でしょうね。
私も素振りをしつつ、観察をしていると、懐かしい声がした。
「ミア」
「ノーツさん!お帰りなさい!」
笑顔を向ければ、ノーツは照れ臭そうに微笑み返す。
「土産なのだが……正直、値の張るものではないと思う。21階層の火鼠からドロップした宝石だ。鑑定でも特に高価な物ではないから、俺が貰い受けた。本当は飾りに仕立ててから渡すべきだろうが、どんな物が良いか分からなくて…」
差し出されたノーツの掌に載っているそれは、橙と黒を基調にしたファイアーオパールのように、炎を閉じ込めたような宝石で、見ているだけで美しい。
「綺麗ですねぇ」
大きさは小指の先程度で、指輪にしても耳飾にしても主張が激しそうで、首飾りか髪飾りに良さそうだ。
「首飾りか髪飾りが合いそうですね。そのままでも良いですよ?」
「いや、うん。装飾品にして貰ってから渡そう。少し待っていてくれ」
「はい。今日見せて貰えて嬉しかったです。あ、それと紹介したい人がいるんですけど」
と、王子とメガネを振り返ると、何だか目つきが悪い。
何だ、どうした急に。
「アルク。この人がノーツさん、剣の稽古をしてくれる人だよ」
「よろしく頼む」
何だか睨みながら、王子はノーツに握手を求めた。
「こちらこそ」
「ノーツさん、こちらは私の故郷の友人のアルクです。スライムとよき好敵手です」
「ふむ。初心者か。分かった」
「こちらのメガネはサーフです。魔法使い」
「お見知りおきを」
「ああ、よろしく」
挨拶は済んだ。
後はお任せしよう。
どうせ、メガネに丁度良い先生もいないので、ノーツに任せて私は魔法協会へと実際の話を聞きに行く事にした。
エミリーさんはこの街に詳しいし、信頼できるけど、現場の意見を聞くのも大事である。




