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ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~  作者: ひよこ1号


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狼討伐へ

大聖堂から出てすぐの大階段を下りていると、後ろからたったっと走る音が聞こえてきた。

振り返ると、一人の騎士がいる。


「あの、すいません、アウリス副隊長から言い付かっておりまして。不在の際には私がギルドへ同道するようにと……」

「まあ……わざわざ急いで来て下さいましたのね?…短い道程ですがよろしくお願い致します」


騎士鎧を身に着けた青年は茶色の髪に、焦げ茶色の瞳の好青年だ。

名前をユッカという。

子爵家の三男で、アウリスは侯爵家、イェレミアスは伯爵家の出身なのだそうだ。

聖堂騎士団は貴族の子弟が集まる場所で、それなりの戦功を挙げる事で王宮勤めも出来るらしい。

多分、騎士として学生時代に訓練を積まなかった貴族子弟への救済措置でもあるのだろう。

中にはそのまま冒険者として生きていく者もいるのだとか。

聖堂騎士団と言う氏族クランに属しながらも、別個にパーティに入って迷宮に潜り、一攫千金を物にして自分の家門を再興した、などという話も面白い。

氏族クランとして大人数で潜る迷宮探索では、安全ではあるが分配も渋いのだろう。

実力と人脈があるなら、独立した方が稼げそうではある。

ただ、騎士団としての定期収入は安全に暮らすという意味では捨て難いだろうけど。


ユッカはとてもよく喋る青年で、短い距離でも面白い話が聞けたのである。

情報大事。


「ユッカ様と楽しくお喋りしていたら、もうギルドに到着致しましたわ。今日は送迎ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ楽しかったです。ではまた!」


さっと挨拶をして、爽やかな笑顔を残してユッカは大聖堂へ帰っていく。

うん。

普通の人がいるっていいね。

何だか最近濃い人ばっかりだから、癒された。

私はさっさとミアに着替えて、王子を回収して依頼へと向かう。

朝に貰った狼討伐の依頼だ。

ギルドに紹介してもらった村人の荷馬車に、東門から乗せて貰って村へ向かう。


「よろしくお願いしますね」

「こちらこそ。助かります。中々依頼を受けて下さる方もいなくてねえ」

「何故だ?」


王子、偉そう。

ちょっと睨むと、王子ははっとばつの悪そうな顔をした。


「うーむ。依頼の金額が金額ですからね……もっと出せればいいのですが」

「十分ですよ。最近迷宮探索者が増えて通常依頼をする人が減ってるんです」

「そうなのかい。じゃあ、益々有難いねえ」


20銀貨。

初級冒険者にとっては大金だが、癒し手なら大聖堂で一日で稼げる金額だ。

安全に過ごしたいなら、受けたい依頼じゃないだろう。

それに中級以上の冒険者にとってははした金だ。

わざわざ移動して退治して戻るより、迷宮に潜った方が稼げるだろう。

何とも近隣の人達にとっては難しい状況だ。

まだこの都市以外の近くにある村の方が、依頼を受けてくれる人もいるに違いない。


ゴトゴトと揺られているうちに少し眠くなる。

馬車で一時間の距離だという。

うと、とすると王子が気づいて言った。


「着いたら起こすぞ、ミア」

「ありがとう、アル」


私は遠慮なく王子に寄りかかって眠りに就いた。

少し硬いけど。

あれだね、電車に揺られて眠るみたいな感じ。

お尻の下に敷かれている藁がいい緩衝材になっている。


村に着くと、まずは村長の家に案内された。

すぐ近くの森に、狼が住み着いたらしい。

森で仕事をする樵に怪我人が出て、今や村で飼っている牛や豚などの家畜にも被害が出ているのだ。

狼の肉って食べられるのかな。

思わず私は考えてしまった。

毛皮は売れそうだけど。


案内には狩人が来てくれるという事で、安心して森の中に入る。

道案内いるって大事。

だって知らない森の中じゃ迷う可能性が高いし、寧ろ狼よりそっちが問題まである。

森が途切れた場所に来て、そこには洞窟というには小さな巣穴があった。


「あの中ですか?」

「ええ。一度見かけたことがあるので」

「燻り出したいのですけど、お願い出来ますか」

「はい」


狩人は手早く周囲の草と乾いた枝を拾い集めた。


「王子は狩人さんを守ってくださいね」

「いや、俺はミアを守る」


こいつは全く。

私は思わずジト目になってしまった。


「依頼人である村人を守るのも仕事の内なの。私は避ける専門だから、守るの難しいの。分かった?」

「……だ、だが……」

「今は、私の方が強いですよ」


トドメを刺すと、王子はやっと……悔しそうに唇を噛んだ。

かわいそう。

私がトドメ刺したけどな。

でも、実際私の技術じゃ人を背に庇っては戦えない。

避けたら被害に遭うのは後ろにいる人間だ。

受け止めるような戦い方も出来ない。


用意をして風上に向かうと、それだけで匂いに気づいた狼がのそりと姿を現した。

私はそちらに注意が向かないように、巣穴の前の広場に一歩足を踏み入れる。

狼は私を標的と狙い定めたようだ。

ぐるる、と低く唸った所で、私は距離を詰めた。

仲間を呼ばれたら面倒だし、どんどん出てくるだろう。

一匹でも仕留めたい。

短剣ダガーを抜き払って、私は狼との戦闘を開始した。

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