狼との戦闘
狼は連携をとる動物だ。
ファンタジーでは偶にゴブリンが飼育している事もあるけれど、戦闘能力はゴブリンよりも高そう。
爪での攻撃を避けながら、首筋を狙って短剣を叩き込む。
流石に一角兎みたいに一撃で絶命したりはしないけれど、それでも重症だ。
仲間を呼ぶ声も出せなければ、少しマシと思っていたから、成功といえる。
でも血の匂いですぐに出てくるだろうし、燻されたら奥で寝ているのも難しい。
次の狼が出てくる前に、トドメをさすより私は狼の目を狙った。
深く刺す必要は無いから、避けながら切りつける。
この狼は多分リーダーだろうけど、視界を失っても、闘志は失っていない。
強いな。
でも血は止め処もなく流れていく。
毛皮を汚し、貫かれたせいで口からもだらだらと血を垂らしていた。
動きは既に精彩を欠いている。
火を付け終わるくらいに、もう一匹が巣穴から顔を出した。
吠えながら飛び掛ってきたのを、同じく首筋を狙って切り上げる。
爪が当たったが、鎧部分を削ったくらいだ。
先程と違って切り裂いたので、血が滔々と噴出し、流れ落ちる。
これで二匹。
やっと、二匹だ。
だが、遅れて出てきた三匹相手には少し分が悪い。
同時に相手をするとなると、動きを止めた瞬間に食いつかれるだろう。
二匹を倒しているとはいえ、威嚇できるほど私は強くも身体が大きくもない。
彼らにとっては餌。
噛み付いたり引っかいたりする攻撃を、バックステップで避けるけれど、回避しながら顔面狙いで短剣を振り抜くのが精々だ。
力を入れた刺突攻撃では、どうしても身体が止まってしまう。
かといって、延々と戦い続けられる訳でもない。
毎日訓練したけれど、実戦の緊張感でプレッシャーもかかる。
体力もどんどん削れていく。
「おい!こっちだ」
王子が声を上げて、狼がそちらに注意を引かれる。
背中に庇っていた狩人はいない。
逃がしたか、隠したか。
まだ私の側から離れない狼を、王子は背後から切りつける。
切り付けられた狼は流石に、王子に標的を変えた。
試合ではない。
私にとっても王子にとってもこれは現実で、命がかかっている。
一匹を引き付けてくれただけでかなり、助かった。
金属鎧は首元まで覆っているから、いきなり殺される事はないだろう。
私は短剣を左手に持ち替えた。
利き手は右だが、左でも威嚇くらいは可能だ。
そして、右手には投擲用の短刀を握る。
出来れば目を。
シュッと空気を裂いて、短刀が狼の顔面に飛ぶ。
流石に目には当たらなかったが、額には刺さった。
「ギャウン!」
悲鳴を上げるように、狼は背後に飛び退った。
もう一匹にも短刀を投擲。
今度は片目を射抜くことが出来た。
「キャイン!」
前足でどうにか取り除こうとしている片目に、右手で握りなおした短剣を突き立てる。
もう一匹は、取り去るのを諦めて、中途半端にささった短刀をそのまま、飛び掛ってきたところを、短刀目掛けて足で蹴った。
そのまま短刀が、狼の飛び込む勢いと、私の蹴りで深く脳天まで刺さったようで、一瞬にして沈んだ。
王子は、と見れば。
うん?
何してるんだろ?
王子が左手に着けた小盾に、狼が噛み付いている、のはいいとして、そのまま揉み合っている。
どうやら、王子の盾のサイズがちょうど狼の大口を開けた大きさにピッタリはまってしまったようで、噛めもしないし後ろに引いても、離れられず。
口を閉じる事もできないまま、爪で何とか王子の身体を剥がそうとするが、そこはそれ。
金属鎧相手に、近い場所からの弱い攻撃では傷つきすらしない。
「この、引っ張るな、離せ…!」
言いながら王子も盾を引っ張るように踏ん張っているので、剣を振るう力も余裕も無い様だ。
うーん。
子犬と狼のじゃれあい。
私は素早く近寄って、後ろから狼の首筋に短剣を滑らせた。
血が流れ落ちると共に、生命が抜け落ちていく。
「死んだら盾、斜めにして口から抜いてください」
盾が狼の口サイズで良かったかもしれない。
噛まれずに済んだもんね。
「剣、貸してください」
「あ……ああ」
抜き身の剣を受け取ると、傷だらけのリーダー狼の元へ行く。
伏せてはいるが、距離を詰めたら危険だ。
私は、王子の剣を狼に突き立てた。




