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ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~  作者: ひよこ1号


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38/90

不憫な王子様


美味しい料理を食べながら、冒険者達から聞いたこの街の説明もする。

楽しい食事を終えた後、私は王子を宿まで送って行く事にした。


「いや、普通逆じゃないか……?」


王子は困ったように眉を下げるが、今日やらかしたばかりである。

狙われていないとも限らない。


「今日やらかしたの忘れてないですか?私も全然強くないですけど、人がいた方が防犯になります。夜中は絶対部屋の鍵を開けたらだめですよ。私が呼んでるとか火事だって言われてもです」

「……えっ、本当に火事だったらどうするんだ」


驚いた様に言うが、私は冷たい目を王子に向ける。


「二階か三階でしょ?火が部屋まできたら、飛び降りればいいんですよ。死にはしません。怪我はするでしょうけど」

「そっ、それに女性を待たせるなど……」

「夜中に男性の元を訪れる、そういう女だと思ってるんですか?ひどいですぅ」


拗ねたように顔を背ければ、ち、ちがっと言いながら王子は慌てる。

本当にこいつ、騙されそう。


「とにかく、暫く、夜中は部屋の鍵を開けない。分かった?私の言う事聞けないなら、もうここでお別れしますよ」

「分かった!誓う!誓うからそんな事を言わないでくれ……」


涙ながらに縋る姿はかわいそう。

でも心を鬼にしないと、こいつ丸裸にされそうだもんな。

子犬がふわふわの毛を全部剃られると思ったら、ちょっとゾッとするわ。

見つけたのが今日で、お金も取り上げておいて良かった、ほんと。


「分かりました。明日の朝迎えに来るので、良い子にしててください。朝食は私の宿で食べますからね」

「分かった!」


必死でブンブン首を縦に振る王子。

今日だけは、仕方ないと部屋の前にまで付いて行って、見届けてから帰る。

何かこう、お母さんかな?私。

首根っこを噛んで運んでる親猫みたいな気分。

一応、外では特に尾行もされていなかったし、街中でも視線はあるけど追われてはいなさそうだった。

熟練の護衛やら諜報活動する人だったら、多分私には認識できていないけれども。

王子を放り出したとはいえ、王家も護衛は残してると思うんだよなぁ。

でも、その人達の役目が見守るだけなら、やはり危険は自分で対処しないといけない。

手順を踏んで、納得させた上で城を出てきたというのも意外な話だ。

そうしてなかったら、王家に連絡入れて引き取って貰ったけどね。

ついでに報奨金貰うぐらいはしたと思う。

まあ、国王と弟が良い人達で良かったよ。

下手したら、王子を惑わした罪とかで私も殺されてもおかしくなかったもんね。

はー怖い怖い。

今後もその心配は完全に消えるわけじゃないけれど、いつまでも私も弱いままでいるつもりはないし。

全部跳ね返せるくらいには強くなってやる。


私は決意も新たに、部屋に戻るとルーティーンを開始する。

素振りに筋トレ、薬草本の読み込み。

程よく運動して、脳みそに文字列を見せればあっという間に朝になるのである。


目覚めたら、いつもの装備を身に着けて王子の元へと向かう。

部屋に迎えに行き、名前を呼びながらノックすると、恐る恐る王子が扉を細く開いた。

一応警戒してるね?

感心、感心。

でも、何か様子がおかしい。

顔色があまり良くない。

何だろう?


「中入ってもいいですか?」

「……あ、ああ、いいぞ」


部屋の中に入ると、何というかどうしようもなかった。

鬼のように荷物が積みあがっていて、ベッド以外は荷物で埋まっている。

でも、それくらいで顔色悪くなったりしないな?


「ちゃんと寝れました?」

「それが、あまり寝れなくて……」


新しい生活に馴染めないとかならいいけど、枕が僕に合わないとかだったらぶっ飛ばずぞ。

じっと見ていると、王子はとんでもない白状をした。


「鎧が……脱げなくてな……寝転がったけれど、あまり寝心地は良くなくて」


はぁぁ……何とも予想外の理由。

私のは部分的に皮鎧だから、着脱は簡単だ。

皮鎧の部分だけはずせば、普通の服だからそのままでも眠れる。

そうしたことはないけれど、鎧を着けたままでも多少痛いだろうけど寝れない事はないけれど。

そうかぁ。

金属鎧って、自力で着脱するの手間かかりそうだし、王子だから通常の着替えも従者任せだったら、鎧なんて難易度クソ高えじゃねぇか!

王様ァァ!!

貴方の息子がとんでもないところで躓いてますよぉぉ!

でも、こればかりは王子の所為とは言い切れない。

怒られるかな?どうかな?みたいに伺ってくるような、やらかしてしまった後の子犬みたいな目線に、ちょっと同情。

頭を優しく撫でた。


「鎧を脱いだり着たりするのは難しいですよね?ちょっと手伝ってあげるので、自力でも出来るか確認してあげますから、そんなに落ち込まなくていいですよ」


涙目になった王子の背に回って、ちょっと構成を確認してみる。

あっ、これは面倒くさい。

細い紐でいくつもの部品を括り付けるように着せてある。

何でこんな面倒臭い構造なの!?

確かに衝撃で外れたりしないようにというのはわかるんだけどさ、一人で着れないじゃん。

ていうか、解いて脱がせる事は出来るけど、元の様に着せる自信はないです。

だって、どこに紐通すのかもわかんないもん。


「アルク、これ、難しい。脱がす事は出来るけど、私じゃ着せる事できないかもしれない。暫く、脱いだり着たりし易いように、新しい鎧買う?」

「……そうだな。休めないと体力が落ちるだろうし、訓練にも身が入らないのでは本末転倒だ」

「分かった。とりあえず脱ごうね」


意外に冷静な分析に、私も頷いた。

私は細い紐を解いていく。

何か、私にもまだまだ知らない事がある。

昨日の夜置き去りにされた後、一人で悪戦苦闘したのかと思うと何だか切ないな。

生涯で一番、最悪の就寝だっただろうと思うと、かわいそう。

それなのに、叱られると思っていたとか、不憫。

王子を解放するべく、私は無心に紐を解き続けた。

初心者あるある…従者に手伝って貰って着るのが普通なので、きちんとしたやつは着脱に時間がかかりますし、冒険者向きじゃないかなぁ。


読んでくださり、ありがとうございます。

誤字報告も感謝です。

少しでも、楽しんで頂けたら嬉しいです。

ブクマ・いいね・★もとても嬉しいです。励みになっております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不憫属性な王子が可愛く見えてきてしまいました。
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