不憫な王子様
美味しい料理を食べながら、冒険者達から聞いたこの街の説明もする。
楽しい食事を終えた後、私は王子を宿まで送って行く事にした。
「いや、普通逆じゃないか……?」
王子は困ったように眉を下げるが、今日やらかしたばかりである。
狙われていないとも限らない。
「今日やらかしたの忘れてないですか?私も全然強くないですけど、人がいた方が防犯になります。夜中は絶対部屋の鍵を開けたらだめですよ。私が呼んでるとか火事だって言われてもです」
「……えっ、本当に火事だったらどうするんだ」
驚いた様に言うが、私は冷たい目を王子に向ける。
「二階か三階でしょ?火が部屋まできたら、飛び降りればいいんですよ。死にはしません。怪我はするでしょうけど」
「そっ、それに女性を待たせるなど……」
「夜中に男性の元を訪れる、そういう女だと思ってるんですか?ひどいですぅ」
拗ねたように顔を背ければ、ち、ちがっと言いながら王子は慌てる。
本当にこいつ、騙されそう。
「とにかく、暫く、夜中は部屋の鍵を開けない。分かった?私の言う事聞けないなら、もうここでお別れしますよ」
「分かった!誓う!誓うからそんな事を言わないでくれ……」
涙ながらに縋る姿はかわいそう。
でも心を鬼にしないと、こいつ丸裸にされそうだもんな。
子犬がふわふわの毛を全部剃られると思ったら、ちょっとゾッとするわ。
見つけたのが今日で、お金も取り上げておいて良かった、ほんと。
「分かりました。明日の朝迎えに来るので、良い子にしててください。朝食は私の宿で食べますからね」
「分かった!」
必死でブンブン首を縦に振る王子。
今日だけは、仕方ないと部屋の前にまで付いて行って、見届けてから帰る。
何かこう、お母さんかな?私。
首根っこを噛んで運んでる親猫みたいな気分。
一応、外では特に尾行もされていなかったし、街中でも視線はあるけど追われてはいなさそうだった。
熟練の護衛やら諜報活動する人だったら、多分私には認識できていないけれども。
王子を放り出したとはいえ、王家も護衛は残してると思うんだよなぁ。
でも、その人達の役目が見守るだけなら、やはり危険は自分で対処しないといけない。
手順を踏んで、納得させた上で城を出てきたというのも意外な話だ。
そうしてなかったら、王家に連絡入れて引き取って貰ったけどね。
ついでに報奨金貰うぐらいはしたと思う。
まあ、国王と弟が良い人達で良かったよ。
下手したら、王子を惑わした罪とかで私も殺されてもおかしくなかったもんね。
はー怖い怖い。
今後もその心配は完全に消えるわけじゃないけれど、いつまでも私も弱いままでいるつもりはないし。
全部跳ね返せるくらいには強くなってやる。
私は決意も新たに、部屋に戻るとルーティーンを開始する。
素振りに筋トレ、薬草本の読み込み。
程よく運動して、脳みそに文字列を見せればあっという間に朝になるのである。
目覚めたら、いつもの装備を身に着けて王子の元へと向かう。
部屋に迎えに行き、名前を呼びながらノックすると、恐る恐る王子が扉を細く開いた。
一応警戒してるね?
感心、感心。
でも、何か様子がおかしい。
顔色があまり良くない。
何だろう?
「中入ってもいいですか?」
「……あ、ああ、いいぞ」
部屋の中に入ると、何というかどうしようもなかった。
鬼のように荷物が積みあがっていて、ベッド以外は荷物で埋まっている。
でも、それくらいで顔色悪くなったりしないな?
「ちゃんと寝れました?」
「それが、あまり寝れなくて……」
新しい生活に馴染めないとかならいいけど、枕が僕に合わないとかだったらぶっ飛ばずぞ。
じっと見ていると、王子はとんでもない白状をした。
「鎧が……脱げなくてな……寝転がったけれど、あまり寝心地は良くなくて」
はぁぁ……何とも予想外の理由。
私のは部分的に皮鎧だから、着脱は簡単だ。
皮鎧の部分だけはずせば、普通の服だからそのままでも眠れる。
そうしたことはないけれど、鎧を着けたままでも多少痛いだろうけど寝れない事はないけれど。
そうかぁ。
金属鎧って、自力で着脱するの手間かかりそうだし、王子だから通常の着替えも従者任せだったら、鎧なんて難易度クソ高えじゃねぇか!
王様ァァ!!
貴方の息子がとんでもないところで躓いてますよぉぉ!
でも、こればかりは王子の所為とは言い切れない。
怒られるかな?どうかな?みたいに伺ってくるような、やらかしてしまった後の子犬みたいな目線に、ちょっと同情。
頭を優しく撫でた。
「鎧を脱いだり着たりするのは難しいですよね?ちょっと手伝ってあげるので、自力でも出来るか確認してあげますから、そんなに落ち込まなくていいですよ」
涙目になった王子の背に回って、ちょっと構成を確認してみる。
あっ、これは面倒くさい。
細い紐でいくつもの部品を括り付けるように着せてある。
何でこんな面倒臭い構造なの!?
確かに衝撃で外れたりしないようにというのはわかるんだけどさ、一人で着れないじゃん。
ていうか、解いて脱がせる事は出来るけど、元の様に着せる自信はないです。
だって、どこに紐通すのかもわかんないもん。
「アルク、これ、難しい。脱がす事は出来るけど、私じゃ着せる事できないかもしれない。暫く、脱いだり着たりし易いように、新しい鎧買う?」
「……そうだな。休めないと体力が落ちるだろうし、訓練にも身が入らないのでは本末転倒だ」
「分かった。とりあえず脱ごうね」
意外に冷静な分析に、私も頷いた。
私は細い紐を解いていく。
何か、私にもまだまだ知らない事がある。
昨日の夜置き去りにされた後、一人で悪戦苦闘したのかと思うと何だか切ないな。
生涯で一番、最悪の就寝だっただろうと思うと、かわいそう。
それなのに、叱られると思っていたとか、不憫。
王子を解放するべく、私は無心に紐を解き続けた。
初心者あるある…従者に手伝って貰って着るのが普通なので、きちんとしたやつは着脱に時間がかかりますし、冒険者向きじゃないかなぁ。
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