王子が追ってきた
「探したぞ!ミア!」
えっ?
何でここにいるの?
此処は冒険者ギルド。
私は冒険者。
目の前にいるのは。
「何でここにいるんですか?」
王子ィィィ!?
「君を、守りに来た!」
ドヤ顔で言うけれども。
キラキラ笑顔で言われてもね。
追いかけてきてくれた…トゥンク…とはならないんだよな。
「何かやらかしたんですか?それとも婚約者にフラレたからとか?」
「いや、私が、自分で決めたのだ!王太子の座も婚約者も弟に譲っ…」
は?
私は思わず王子の手をガッと掴んだ。
驚いた顔で赤面して王子が黙る。
「部屋、借ります」
「え、ええ、どうぞ」
私の鬼気迫る勢いに、エミリーさんがいつになく頼りない声で応じる。
王子の手を引いて、私はずんずん扉の奥へ進んで、王子を部屋に放り込む。
そして私も中に入って、扉を閉じると、王子は顔を赤くしたままもじもじとした。
「こ、こんな、密室で男女で二人きりなど……良いのか?ミア……」
何も良くねえわ!!
私はドン、と両手を突き出して、王子を突き飛ばす。
王子はバランスを崩して、ソファに尻餅をつくように座った。
「あのね!あんな公衆の面前で!誰がいるかも分からない場所で、王族だって事を言う意味、分かってますか?!誘拐されたり、その上身代金要求されたり!困るのは実家の国王と弟なんですよ!?」
さあっと王子の顔が蒼白になる。
此処に来るまで王家の馬車で、護衛付きで旅をしてきたの?
多分、そうでもなければ、もっと悲惨な状況になっていたでしょ。
この街はまだ、治安が良い方だとは思う。
東西南北の門番の衛兵や、中央付近にも衛兵の詰め所もあるし、聖堂騎士団という自警団の要みたいな人達もいる。
でも、街中ですら女性一人で歩くには危ない場所もあれば、往来でだって囲まれたりするのだ。
私みたいに。
冒険者が皆良い人達な訳が無い。
一攫千金を夢見ている冒険者達だって、ネギを背負ったカモがうろうろしていれば、気も迷うだろう。
危険な場所へ行かなくても、お金になるんだもの。
そんなに甘い世界ではないのに。
「……あ、すまない……私の思慮が足りなかった」
私の剣幕に、王子はおずおずと謝罪の言葉を口にする。
この人は良い人なのだろう。
城を飛び出して、何も無い女性の元に駆けつけるのだから。
自分に酔っているだけかもしれないけど。
だとしたら、帰った方がいい。
ぬくぬくと城の中で生きて行った方が、ここにいるよりも。
「迷惑です。お帰りください」
私は出来るだけ冷たく言う。
だって、この人の愛したミアは私じゃない。
お花畑天使はもう昇天したんですよ。
マジで。
「帰れない」
は?
キッと私は見るが、王子も決意を決めたような眼差しでこちらを見返す。
「帰らないと約束したんだ。私は、遠く離れていても、君の事が心配で何も手につかない。たとえ君に拒絶されても、私は戻らない」
くっそー!王子の癖に!
変な方向に意志が固いんだが??
でも、そしたら、私が見捨てたらこの人、どうなっちゃうの。
多分、騙される。
多分、色々脅し取られる。
悪い事しか思い浮かばねぇ。
キラキラ澄んだ目を向けやがって!
「私、記憶喪失だし、貴方との思い出もない、ただの平民のミアですよ」
「重々承知だ」
ほんとに分かってんのかなー?
やっと王子到着です。
ここから介護というか子育てというか、教育が始まるのです。
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※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。




