王子…お前って奴は…
「で、今は何処に住んでるんです?」
「我が国の冒険者ギルドで登録した際に、冒険者ギルドの提携する宿に住まうように助言されたので、そこにいる。便所のような狭い場所だが…」
「ちょっと!そういう事、他所で言わないでくださいよ?失礼だから」
そりゃあ王族にとっては、そうでしょうとも。
私にとっては雨露が凌げて、変な虫のいない寝床があって、扉に鍵がついている環境なのだから満足だ。
幼い頃から周囲に面倒を看られていた王子にとっては、部屋も狭いし不便だろう。
冒険者やる以前の問題!!
「む、分かった……」
しょぼん、とした子犬のような王子の姿に改めて視線を向ければ。
鎧は身体に合わせた特注品だろう。
問題はないけれど、剣がいやにギラギラしてるんですよね。
「その剣、勝手に持ってきた王家の秘宝とかじゃないですよね?」
「いや?これは違うぞ。成人した私の為に、十五の頃…」
「あ、もういいです。特に何かしら付与とか、魔法の剣じゃなければそれでいいので」
私は思わず必要ないと思われた王子の話をぶった切った。
儀礼用の剣にしろ、普段使いの剣にしろ、見た目が派手で金銀細工に宝石まであしらってある。
こんなもの持ち歩いてたら、金持ちでーす!カモですよ!と喧伝してるようなものだ。
「それ、持ち歩いてたら狙われるんで、預けてきます」
私は無造作に剣を王子から奪い取った。
「あっ……でも武器がないと戦えない……」
という王子の声を背に、私が廊下に出ると、エミリーさんが佇んでいた。
「何か助けが必要になると思って……大丈夫?」
私の担当さん、優秀過ぎぃ!
思わず心の中で、私はエミリーさんを拝んだ。
「この剣、預かって貰えますか?落ち着いたら取りに来るので。あと、あの王子は廃嫡されたって、皆さんには言っておいて下さい」
「分かったわ。じゃあ、明日の大聖堂のお仕事もお休みにしておくわね?」
エミリーさんの気遣いはんぱねぇ!
私は自分の事なのに、すっかり忘れていた。
私まで思考停止してどうする。
「お願いします。まだ長引きそうなので、何かあったらまた相談しますね」
「ええ、遠慮なく声をかけてね?」
ギラギラ剣を持って、エミリーさんは受付ではない方向へ歩いて行った。
エミリーさんの事は信用してるし、万が一エミリーさんがアレを売っ払ったとしても無問題。
将来的には分からないけど、よわよわ王子の今、持つべき物では全然ない。
私は部屋に戻った。
王子は、きちんと座り直していて、私を見るとぱっと顔を輝かせる。
ボク、いい子で待ってたよ!っていう子犬。
ノーツが成犬だとしたら、王子は生まれたての子犬だ。
「それで、所持金は幾らあるんです?」
「……これだけだ」
王子は腰に下げた小さな鞄から、皮袋を出して机の上に置いた。
白金貨にして20枚。
現代のお金に換算すると、実に2億円。
これだけ、じゃねぇよ。
馬鹿ーーーー!
私もやったけどーーーーー!
貴族あるあるなのかもしれないから、罵倒はしないけど!
旅に出たばかりの私の失敗談と、冒険者の皆様に教えてもらった事を私は改めて王子に懇切丁寧に教えた。
大金を持ち歩くんじゃない。
「これは使っちゃ駄目ですね。19枚はギルドに預けます。…私が預かった方がいいのかな」
「ミアの良いようにしてくれ」
おい。
お前今文無しになるかもしれない瀬戸際やぞ?
私が!悪い女なら!明日から王子から乞食にジョブチェンジなんですよ!?
はあもう。
このお金を使えば、今すぐにも王子が快適に暮らせる環境は整うだろう。
でも、それじゃ意味が無い。
自分の力で暮らしていけるくらいには鍛えないと、放り出せない。
現実と向き合えば、多少は痛い目を見るだろう。
それで逃げ出すなら、私は構わないと思っている。
彼にはまだ帰る場所があるのだから。
高貴な責務が大変だとしても、冒険者として生きるよりは長生き出来るだろう。
それに、一緒に居る内に、私が愛したミアじゃないと気づく事も出来る。
尽くす価値もないと分かれば離れていく。
それも仕方ないと思う。
だって、私と彼の間には本当に何も無いのだから。
私は覚悟を決めた。
「王子が冒険者、しかも実力が無いなんて狙われるだけなので、廃嫡されたって事にしましたから。貴族っぽい振る舞いは控えてくださいよ。お金は両替してもらうので、買い物や食事は暫く私と一緒です」
「暫くと言わず、ずっと一緒がいい……!」
おい。
旅立つ気ゼロか。
「守りに来たんですよね?でもどっちかと言ったら私がお世話してません?」
「う……すまない……善処する」
ここまできたら仕方ない。
私は事情をエミリーさんに話して、大量の預金と両替をしてもらう事にした。
「あ、そうでした。王子の名前は何て言うんですか?」
「……あ、……アルクハイド、だ……」
王子は今日一番悲壮な顔をした。
そりゃ、記憶喪失だもの、私。
ていうか、中の人と突然入れ替わってしまったからね。
名前なんて知らないよ。
凹んだ王子を尻目に、私はエミリーさんを呼びに部屋を出た。
教えなきゃいけない事が山積み問題。
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