海の果てには何がある?
「ご、豪華客船!?…こんな片田舎の地方都市に!?」
その桂二の言葉に最近のニュースを知らなかった東哉が声を上げる。
「豪華客船の入港ってアレだろ?有名観光地や発着港ぐらいでしか止まらない筈だ…なんでこんな工場位しかない片田舎の港に入るんだ?」
「わー東哉君、よく知ってるねー」
「天子、馬鹿にすんなよ!!昔、莉奈が豪華客船で世界一周とかしたいねっていって色々調べたんだ!!」
動機がぶれねぇな、とその場全員が引いた。とは言え桂二は話が続かないと、話を強引に続ける。
「まあ、豪華客船のここに来るのは目的がここじゃ無いからだ。正確には燃料と水・食料の補給って所だな」
「ん?南の県庁所在地じゃなくて、高見原の港でわざわざ?…そっか、この消えた人たちをこの豪華客船で運ぶって事か…?おかしくないかそれ、いなくなったのは15人程度だろ?普通の船か飛行機で送れば良くないか?」
「何か東哉、今日は珍しく冴えてるな? 明日は雷雨だな」
「珍しくってヒデェ…」
褒められたがあっさりと落とされる東哉。椅子の上でいじけるが、周りはそれを無視して話に耳を傾ける。桂二はそれを見て再び画像を変える、そして今度は衛星写真を映し出す。
「この豪華客船・神楽の行先は此処だ。気象衛星『天照』の画像だから少し荒いが、場所は高見原から東に350km。日本の領海外にあるギガフロート『天常』だ」
「ギガフロート!? ここ最近のニュースにあったか?いつの間にこんなものを!?」
「…東哉、お前ネットニュースぐらい見ろ。…数年前位に南海トラフによる津波被害があるって覚えてるか?」
「ああ、なんか一時期やってた…ああ、なんか思い出したっ!!」
話は数年程前にあった南海トラフ地震の確率が発表された事が切欠だった。当時の政府が出した被害の試算は、死者約30万人・全壊や焼失が約235万棟。経済活動や資産への被害を合わせて大体270兆円と言われている。そのいつ起こるか解らない地震に対して政府は色々な手を講じた。その一つがこのギガフロート計画である。
「この高見原から東に350kmあるギガフロート『天常』は、海盆域にある巨大な浮島だ」
「海盆って何だ?」
「解りやすく言えば海底にある盆地のような物だ…たしかここら辺の水深はかなり深い筈だ」
「斎さんの言う通りだ、この地域はかなり水深が深く海底が平らと言う特徴がある。そしてこの特徴が地震津波がもし起きた時に、それを軽減出来る場所でもある…ここら辺の説明は長いから省略するぞ…まあ、地震の時の海上支援拠点などで使う為に政府は企業の協力でこの場所にギガフロートを作った…んだが、ここで各企業の思惑が混じり合ってな…」
この事業には色々な企業が参加した、それこそ海外企業の参入もあった。その所為か、色々な想定外が生まれた。一つは海上物流拠点としての役割を求めた事、二つは政府の防災基地など、三つめは観光地などにし豪華客船を呼び込む。等々、色々な思惑と資金が交差し投入された結果…6km級の巨大な海上都市型のギガフロートが誕生してしまったのである。
「どうしてこうなった…って方々が思っているでしょうね」
「彩さんの言う通りだと思うよ、とは言え出来てしまったものはしょうがないとギガフロートは出来てしまっている。…んでこれがギガフロートの全体図だ」
画面にギガフロートを上空からの俯瞰図が映される。それを見て、誠一があれっ?と目を見開いた。
「どうした?」
「最近、師匠と風文さんから儀式関係を叩きこまれているんだけど…このギガフロートの形って、儀式を使ってないか?」
「気付いたか…、流石思惟さん。今誠一が言ったように、実はここの設計は重金教授の従弟・八意の一人『大智』の重金玄智が担っている。それで判明したのはこのギガフロートは密教系儀式がふんだんに使われている」
「なるほどねー、という事はこの場所の情報が色々あるってことね…道理でギガフロートの情報がポンポン出てくるわけだ~」
サイファ学園都市の重金浄には『八意』と呼ばれる智慧を司る八人の親戚がいる。その一人が重金玄智、建設関係を得意とする智慧を司る神の末裔の一人だ。それはそうと桂二は、天子の言葉を肯定すると話を続ける。
「持つべきものは顔が広い知り合いって事だ。この俯瞰図から見てわかる様にこのギガフロートは、儀式『五法輪』によって四つの区画と一つの中央塔によって構成される。海上物流拠点で港や倉庫街が立ち並ぶ風の区画、学術・医療や研究所が集まる水の区画、防災や治安維持などに使う地の区画、真ん中の塔『天の常立』がこのギガフロートすべての行政と制御を行う空の区画。そして今回のターゲットがここ、繁華街や商店などが集まり観光にも力を入れている火の区画だ」
高見原市海見区 高見原港 ベイサイドタウン 乗船ゲストラウンジ
高見原港から出る船に、乗るまでの待合所。とは言え誠一達は少し緊張気味だった、今回の作戦についてくるのは東哉と斎・誠一と天子、それと桂二の五人だけだ。では何に緊張しているかと言えば、彼等の着る服と周囲の環境だ。
東哉と誠一は普段着ない一着十数万円と言うような服を着ており、服に着られない様に頑張っていた。その服は和装を洋服に落とし込んだような服で、ズボンはゆったりとした広がりを見せており袴の様なシルエット、上半身は青灰色のシルクシャツと墨黒のロングジャケットで揃えている。地味な感じだが動きやすい仕掛けがあり、近くから見れば仕立ての良さが見える。
「おい誠一…俺の恰好、大丈夫かな…」
「大丈夫ってなんだ、気持ちは解るが、不安そうな顔をするな」
普段着ない高級な服、もし戦闘になったら破くんじゃないかと二人はヒヤヒヤだ。そんな二人をソファーでゆったりと座りながら、ノートパソコンを開き作業をする桂二はヤレヤレと溜息を吐きながら二人を見る。
「お前ら今からそんなんでどうするよ、今から俺らが乗り込む所はもっとすごいぞ。力を抜いてリラックスしておかないと、肉体的にはともかく精神的には持たないぞ」
「そうは言うけどよ、俺ら一般市民にこの格好はなぁ?」
「東哉じゃないが、緊張はする。この服の値段が聞けないくらいだ…そう言う桂二は余裕だな?」
「俺は風文さんについて色々なパーティーについて行っているからな、慣れだ慣れ。それにその服は高級品だが、サイファ警備の祭事などの警備に携わる時に着る服だ。心配する事は無い」
「…これ?制服みたいなモノか!?」
「そうなるな」
この服が制服かー、ってかこんな高級な服を制服とかサイファグループすげーなと二人は心の中で想った。
桂二はそんな二人を少し微笑ましく思いながら、ノートパソコンを畳むと二人に向き直る。
「今回はお前ら二人とまだ準備で来てない女性陣は、サイファ警備の従業員として入り込んでもらう」
「豪華客船内の警備として動くんだっけ」
「そうだ、その後ギガフロートに到着後に火の区画に入り込む」
今回の依頼の目的は二つ。一つは『偽神薬』の存在を確認する事、これは今回の事は本当に偽神薬が使われているかの確認と、もし使われているのであればどのようなルートで流れてきているかを確認するのが目的だ。二つ目は引退してスポーツ界から居なくなった彼らが。どこに行って何をするのかを調査するのが目的。火の区画に絞られているのは、第三部隊が凍結する前まで調査して解っていた事だ。
「おそらく、この二つの話は関係がある。今回の話は俺が主軸で動く…二人ともサポート頼む」
「ああ」
「気にすんなよ、水臭い」
そうやって三人は笑い合い、乗船の時間まで今回の依頼に付いての話を詰めた。




