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いつもの日々に  作者: ルウ
実験No.2 炎よ、潔白を示せ
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戦いの鐘の音

子供が出来た、それはとても最悪のタイミングだった。その頃には冷たくなった夫が、義務になってしまった夫婦の営みに苦痛を感じて家に帰ってこなくなった時期だった。当時は義理の父に買ってもらったマンションに住んでいた、食べるモノにも困らない着る物だっていっぱいある。衣食住がそろった何一つ不自由のない生活だったが、明るい部屋に一人いるのがとても辛かった。すべてがそろった部屋が逆に寒々しく感じるぐらいだ。


「…寂しい」


明るいのに寒々しいその風景に…『彼女』は思わず呟いた。

それが良くなかったのだろうか、子供が出来て三か月ほどだろうか『彼』が返ってきた。




「それで?こうやって街中を歩いてるけど、行動指針はあるのか?」

「うーん。あたしも今回の目標の事、今一解ってないのよね。」

「どういう事?」

「こういう時にあたし達は法則を見るんじゃなくって相手の思考を読むんよ。」

「え?さっきの話じゃ事件の法則性が解ったって。」

「ああ、それは動機とは違うからね。人間生きるにはお金を稼がなきゃいけない、学生だったら学校に行く。そうしたら犯行時間や、日数・場所にはどうしても法則性が出るって事よ!!」


成程ねーと説明する朱璃以外が納得した。この社会に生きている以上、金が必要となる。お金を稼ぐ、貰うなどの行動を取るとするとどうしても社会の仕組みの中に入りこまねければならない。

解りやすく言えば、もし生活保護で生きるとするとお金をもらう時だけが拘束され、それ以外はフリーとなる。バイトで生計を立てるならば、バイトの時間は職種や勤務形態でグリーになる時間は変わる。朱璃が言う学生や会社員だってそうだ、もしこの目的の人間がこのどれかであればこのフリーの時間で行っていると考えが付く。


「最初は繁華街の住人か水商売の関係者かと思ってたけど…なーんか違う気がするんよ。噂話から起こった時間帯を見ると殆ど0時過ぎ。皆にはなじみがないから解んないと思うけど、この時間帯は風営法の営業時間が終わる時間なのよね。ここから考えると帰る人間が多いこの時間帯はキャバクラやホストクラブの客とは違うし、はしごで飲む人間にとっては本番だからその後まで営業が許されてる飲み屋さん関係も違う。」

「何か良く解らないけど…この街の人間がやった可能性は無い訳ね?」

「そゆことー。まあ、あくまでも可能性ってやつよー。で可能性から考えると立ちんぼかなーって事もあるんだけど…あの娘達はうちのチームにはいってないから確認が取れてないんだわ。」


立ちんぼ。隠語で、路上で援助交際の相手を待つ女性を指す言葉。風俗店を介さずに路上に立って同じくそれの目的の男性と、売春の交渉を直接行う女性のことを意味する。

莉奈と斎は聞いて顔を赤くする。聞いた事がある言葉だが、まさか身近にいると少し恥ずかしく感じるのだろうか?

それに対して彩と天子は平然として聞き返した。


「そう言う女性が犯人って目ぼし付けてるの?」

「うんにゃ、同伴で店に入る時に見かけた人の妙な証言があるから違うとは思う。」

「妙な証言?」

「いなくなった人が立ちんぼの女性を買う直前まで行ったみたいだけど、突然立ち止まって夢遊病患者の様にフラフラとどこかに行ったところを見たらしいのよ。あっやしいと思わない?」

「確かに怪しいわ…何らかの儀式か、能力者の固有能力ってところかな?」

「それも含めての調査って事だから…としたらこれはマズいなぁ。どうする彩ちゃん?」

「どうするってここは追加の人員を要請するしかないでしょ…。」


実は今回の仕事の依頼の時、天子は風文からもう一人の人員を第三部隊から出す話を打診されていた。それを天子は断っていた。何故かと言えば一つはプライド、自分は神道流を修め幾つかの事件を解決してきたと言うモノ。もう一つが前回の一件でそのプライドが、神道流の中では弱い方だと解ってしまい自分を追い込んで鍛える為。

しかし、話を聞くにあたって相手の能力の全貌や目的が解るよりも接敵しそうな予感がヒシヒシとして来ている。これは能力者共通の確度の高い虫の知らせだ、こういう時にこの予感を無視すると大抵良くない事が起きる。


「…ちょっと風文さんに電話して頭下げてくるわ…。」

「頑張ってねー。とまあ私達能力者が持つ『前知』はとても大切、何か気になる事があるならちゃんと確認だよー。」

「ああ、そう言う事なんだな…解った。という事は、この感覚は…?」

「…マズいわね。これは…大規模儀式というか知った感じ。」

「この鐘の音は!!」


天子が電話をかけるべく、この場を離れたその時だった。何処からか聞こえる、何か嫌な感じを内包した鐘の音が周囲を包み始めたのだ。初めての斎は妙な胸騒ぎに首を傾げ、彩は聞いた事がある音に何かを感じ。聞いた事のある鐘の音に、莉奈は事態が変わった事を悟る。


「あちゃー、この強引な感じ桃山ね。『忌避の鐘』を使って繁華街を無人にするつもりね!!こんな事をされたら、ウチのメンバーの生活費が大変な事になるじゃない!!」

「えー心配するところソコなの?」

「当たり前じゃない、こういう所は大体日割りの歩合なんだから一日休みになると結構響くのよって、皆人が移動してるの解る?その人の流れに合わせて自然に路地裏に入るよっ!!」


見れば周囲の人間が音が聞こえているにも関わらず無意識に、音の中心から離れる様に離れていく。人々は談笑しながら、何も疑問に思わずゆっくりと音から離れていく。斎はこれはちょっとしたホラーだなと呟きながら、周りに合わせて音から遠ざかる。


「おっけー、そうそうそんな感じで自然にね~。多分これ桃山がやってるから見つかる訳に行かんからねー。」

「確かにそう…で、これからどうする?」

「ははー、決まってるっしょ。天ちゃんと合流して、裏路地から再侵入からのアンブーッシュ!! これ一択じゃね?」

「ふん、それが一番無難ね。」

「酷っ、アーヤ辛辣ぅ。」


とは言え、今なにも解らない状態で桃山に囲まれている時には無難に行くのも間違いではない。流石同じ神道流だと彩は、前を軽やかに歩く朱璃を見て複雑な笑顔を浮かべる。


「ねえ、今回の目標…どんな能力者だと思う?」

「彩さんでも解らないの?」

「莉奈さん?あなた私をなんだと思ってるのよ、そんなの簡単に解る訳ないじゃない。能力者の固有能力は千差万別よ、予想はしてるけど確信は出来ないわよ。」

「読心能力がある彩さんなら解ると思ってたよ。」

「無理無理。ただの人間相手ならいざ知らず、現象を減衰させる神域を持つ能力者相手だと挙動を感じるのが精一杯で情報を抜くのは無理よ。」


彩の固有能力『モーション・エモーション』は、人間が生命活動をしている中で発する色々な物を観測し相手の挙動や精神を読む力。筋肉や神経活動から発する極微弱なパルスや、脳から発せられる精神波を読み込んでいるのだ。

しかしこの能力は発する相手が能力者だと、能力者が持つ神域がその微弱なパルスを減衰させるため読めなくなってしまうのだ。

そう歩きながら説明していると、電話を終わらせた天子が複雑な顔をしながら返ってきた。


「どうしたの?」

「この状況を予想したみたいで、追加人員はもう待機してたらしくて10分もすれば合流できるって。」

「解ってたって…あの人何考えてるんだろう、莉奈ちゃんは解る?」

「解らないよー、あの人の見てる視点は私なんかじゃ理解できないわ。うちの同僚に聞いた事もあるけど皆解らないって言ってた。」

「ホント、あの人何なんだろうねぇ…あー止め止め。水門の名を捨てるつもりで家を出たのに…なんでかなぁ」


嫌になって捨てたつもりの水門の名。使うとしてもそれは利用するつもりでしかなかったのだが…。


「朱璃?」

「っなんでもないよ。さ、ここで生きる人たちの為に…この街から叩き出す!!だから手伝ってね?」


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