迫る声
「結論から言うと、特定は出来んかった。ごめんやで。」
高見原市 桜区 楼閣町 路地裏のバラック チーム『マグダレナ』拠点
「見つからなかったの?」
「んーそれは正確じゃないかなー?特定は出来なかっただけで、手掛かりはありって所。」
朱璃が率いるチーム・マグダレナは、高見原の裏に点在するチーム(この場合は不良や半グレの集まり)の中でも異色のチームだ。
一つ、メンバーがほぼ女性のみで下は13歳上は40代と幅広い年代で、200人以上の女性から構成されている。そしてもう一つが、メンバーのほとんどが合法非合法問わず『水商売』か『風俗』をしている人間だ。
「うちの人間の構成は、下は家出少女から上はスナックのママさんでねー。ぶっちゃけ、うちは半グレとかのチームじゃなくて水商売の人達の相互扶助組織なんだわ。」
「なるほ…どじゃない!! たしかあんたこの街に来たのは半年くらい前って言ったわよね!!」
「言ったよー。」
「前聞いてた規模から聞いても半年で出来るモノじゃないわよ!?」
人数もさる事ながら、彼女達のチームは楼閣町の繁華街だけではなく高見原市の各区にある繁華街にも拠点があるのだ。
拠点のほとんどは情報交換や住む場所の無い人に開放している。
裏工作が得意な水門一族の次期党首候補とは言え、これは少し異常すぎると彩は吠える。
「確かにそうだよねぇ…この規模の組織作りは私の一族が十八番とは言っても無理ゲー…だと思うでしょ。むふー協力者がいるんだよー。」
「ん?協力者?」
「そっ、莉奈にゃんなら解るっしょー。」
「え?………あー!!まさか!?」
「にひひ、正―解!!」
その言葉に莉奈のみならず斎以外の三人の頭の中には、共通の人物が人を喰ったような笑い顔を思い浮かべられる。
「あっあの人はー、解っててやってるわねー!!」
「彩ちゃん、落ち着いて!!あの人にそんな事言ってもしょうがないんだって!!息をするように策略を練る人だから、これぐらい普通だって!!」
「だよねー…あの人うちの親戚じゃないよね?なんでそう言う事が専門の水門よりあの人の方が得意なのかなーあははー。」
彩は肩を怒らせる。相性が悪い事もさることながら、あの何もかもあの男の掌の上という事に気が食わないのだ。天子は気持ちは解ると彩を宥め、朱璃は疑問と事実に現実逃避している。そんな三人を引き戻すのは事情を知らない斎だ。
「事情は分からんが、話の続きをしてくれないか?」
「あ、ごめんねー解らない話をしてたよねー。話を続けるとあたしは色々な人から力を借りてこの組織を作ったって話なんよ。そのお陰で私は高見原限定でかなり強力な情報網を作ったのさっ。」
「それは凄いな。」
朱璃の言う通り、水商売で働く相互扶助組織を作って彼女はこの町であらゆる情報を得る事が出来ていた。斎は感心してしまう。
「色々脱線したけど、本題はこっからね。犯人の特定は出来なかったけど、うちのメンバーから聞き込みしたら消えている人間が数十人もいた。期間はここ三か月、通わなかった人も加味したら多分…十人か二十人位かな?」
「それでも多い。でも道理で腰の重い警察がこんなに早い訳だねー。」
「それで?さっきの話ぶりじゃ犯人は解らないけど手掛かりは見つけたのでしょ?」
「とーぜん。見つけたと言うか気付いたんだけどね?」
「気付いた?」
「事件の法則性ってヤツよっ!!」
今回の事件の被害は、警察の方では行方不明者が多数確認している位だろうが、実際の所その被害者はかなりの人数になっていた。表に出ている被害は実際少ない、しかしこの街の裏側の住人たちは戦々恐々としていた。
「ポリスは行方不明届の数だけで見てるみたい。でもこの町は裏側で、ポリスにお世話になれない連中が山ほどいるからねー。全体でみると被害者はメチャいるみたい。」
裏の世界にも横の繋がりがある、朱璃はそれを利用しつつ水商売や風俗店で働く仲間を使い情報を収集していた。その結果解ったのが表に出ていない大量の行方不明者だ。
警察などで不明になっていた人数はおおよそ十数人に対して、裏の世界で消えていたのは数十人にのぼる。
「そんなにいるの?」
「精査はしてないけど大雑把な概算だけどね。いやー大変だったわー、そこから最後に見かけた場所何かを皆に聞き込みしてもらって解ったのが…被害者の性別が全員男性だったの。」
「…?たしか女性の犠牲者も出てなかったか?」
「多分それは別の事件だと思うなぁ。三時間前ぐらいの警察無線で私達の所で特定した犯人が捕まったのを聞いたばっかりだし…たしか痴情の縺れってヤツ?」
そう言われて莉奈はスマホを出して、第三部隊が独自に作り上げた情報ネットワークに接続すると聞いた事の裏付けをとる。検索をかけるとその情報は直ぐに出た、彼女の言う通り痴情の縺れで暗がりに連れ込まれ乱暴された上で殺されたと書いてある。こんなに早くと流石サイファグループのITエンジニア部が作り上げた情報処理AIだと感心しながら、それと同等の仕事をしてくる自分と年の近いであろう女性に莉奈は少し嫉妬した。
「私達の情報網は凄いっしょ?まあ、やった後のピロートークで聞けるから強いよねー。」
ブーと噴いてしまう四人。
「あんたねぇ…。」
「ま、まあまあ彩ちゃん。スゴイ事言ってるけど間違いないから…後でやり方聞いておこう…。」
「天子、あんたねぇ…。」
アワアワと泡を喰う斎と莉奈を他所に、彩を宥める天子はよからぬ計画を練っているようだ。彩は天子を睨み付けながら、手で話を続ける様に促した。
「あっはは。ちょっと刺激が強かったかなぁ?」
「さっさと続きを話しなさい。」
「はーい。とまあ、今回の事件を選別して行ったら一つ法則が見えるのよね。最初の行方不明者は半年前で月の中頃、10日から15日ぐらい。それから繁華街を転々と回りながら行方不明者を増やしている、間隔は大体…ん~2週間くらいかな?」
「次の起こるであろう日は解りそう?」
「うーん。どうも犯人の気分しだいだし…予想が難しいのよー。でも、限って起きるのは恐らくは…毎月の14日。」
「14日って明日じゃない!!場所は解る?」
「それは解る。多分ここ、かなぁ?」
朱璃は指を下に差した。
次はこの場所、高見原最大の繁華街。楼閣町の繁華街、通称『百華』だ。
自分の人生を振り返るのならば、何も特徴ある人生ではなかった。
普通の中流家庭に生まれ、何も問題なく幼年期を過ぎた。思春期には友達と同じような恋をして、勉学に励み部活に一喜一憂した。
これと言って特徴のない大学を出て、商社に勤め総務に所属しいい歳だからと言うくだらない理由でお見合いをして。
「結婚した」
それが間違いだった。出会った人は最初とても優しい人だったが、婚約して結婚式を挙げてしばらく経ってから変わってしまった。
二人に子供が出来なかったからだ。
二人とも子供好きで、とても子供を欲しがった。色々な事を試して病院にも行ったが子供が出来なかった。
そうして子供もできないまま五年がたったある日。
「あの人は帰ってこなかった。」




