第六十一射目
過去最長になってしまいました。
それに加えて、やっぱり一話でユウリの戦闘は終わりました。
今回視点が行ったり来たりして読みにくいかもしれませんが、なるべく一話で書き上げたかったので、泣く泣くこうなりました。
申し訳ありません。
「さぁ、やるか」
古代樹の弓・参式と特別な付与をされた古代樹の矢を手に持ち呼吸を整える。
「《五感強化反転・遮断》」
まずは視覚と触覚以外の感覚器を遮断する。
「《上限限定解放》」
更に視覚と触覚の上限解放をする。
今回は超長距離狙撃だから視覚メインで触覚はある程度、比率的には四:一で調節をする。
まだ火炎竜にバレないように、念の為眼を伏せておく。
ここから集中力をひたすら高める作業だ。
今回は出し惜しみしている場合じゃないので、防具も最上級の装備を着用している。
全てに気配遮断・魔力遮断・認識阻害・消音が付与されている。
矢を弓に番える。
まだ弦は引かずに片手で持っておくだけだ。
「ここからが本番だ……」
まずは弓矢に魔力を流し込む。
魔力が尽きそうになって頭痛が出始めたら上級魔力回復錠を噛み砕いて魔力を回復させ、また弓矢に魔力を流し込む。
ひたすらこれの繰り返し。
混成軍を《鷹の目》で視れば、残りの距離は二十キリルまで迫っていた。
僕が狙撃する場所まで残り五キリル。
数十回作業を繰り返した所で弓矢に込められる魔力量は上限に達した。
自分の魔力量の少なさが歯痒いが、こればっかりは仕方がないか。
次に自分に身体の中の魔力を練り、循環させる。
飽和する限界まで練る為に同じく回復錠を口に投げ込む。
飽和したところで魔力準備は完了。
あとはいつも通りだ。
弓に矢を番えた物を胸の前に持っていき、弦を引く。
最短・最速・最適の動作で。
呼吸を整えて、沈んでいく。
深く……深く……深く…………。
海の底の更に下、深淵の底に辿り着くまで意識を集中させ、沈める。
リィィィィィン
鈴の音の様な澄んだ音が身体中に響き渡る。
眼を開き、まっすぐと標的を見据える。
残り二キリル。
後は心を無にしたまま、その瞬間が来るまで待つだけだ。
〜方舟第三騎士団side【三人称視点】〜
「流石に圧巻だな……」
「そう……ですね」
ユウリの狙撃地点まで後一キリルとなっていた頃、クランベインとセルハは展開した陣の先頭でその様子を見ていた。
常人の目に六キリル先、いくら見通しの良い平原地帯であれど月の出ていない夜のせいもあり、軍勢は個の存在として認識出来ず、黒い壁が押し寄せてきている様にしか思えない。
それでも尚、存在感を放つ火炎竜が異常だった。
魔力感知の加護が無くとも、まるで炎の様に全身から立ち昇る得体の知れないナニかがハッキリとそれの輪郭を皆に見せ付けている。
まるで『自分はここにいる。逃げも隠れもしない』と言っているかの様に。
あと少し進めばユウリの矢が放たれる。
その瞬間を固唾を呑んで待つ中、いきなり軍勢が止まった。
「どうしたんだ……?」
「止まってますね……」
こちらの思惑がバレたか?と思案した直後、火炎竜の口元に魔力が集まり、真夜中を照らす様な赤々とした炎が見える。
その矛先は王都では無く、陣に向かっていた。
「……っ!?こちらを標的にしたのか!?拙い!防御壁を張れる者達は全力で展開しろ!!後の事は考えるなっ!!この一発を防げっ!!」
クランベインの一声で団員が防御障壁を全力展開する。
そこは方舟として日々研鑽を積んだ団員達、直ぐ様展開し、維持する為の魔力を力の限り流し込む。
直後、竜の口元から火炎の息吹が放たれた。
「総員、防御姿勢を取れ!!直撃するぞ!!」
数キリルの距離を無かったかの様に、一瞬で防御障壁へと到着する火炎の息吹は衝突したと同時に凄まじい轟音を立てて爆発した。
まるで永遠に続くのかと錯覚する程の爆発が終わり、砂煙が晴れていく。
障壁があれど、その高温で防具は焦げ、身体中に火傷を負いながらも、周りを見渡すクランベイン。
「くぅ……。まさかこれ程とは……。セルハ!皆の状況をすぐに確認するんだ!急げ!」
「はっ!」
「ナグネス!防御壁はまだ張れるか!?」
「申し訳……ありません……。先程の攻撃で私はもう……。多分他の者も難しいかと……」
「くそっ!」
息も切れ切れでクランベインの問いかけに答えるナグネス。
団員で一番の防御壁の使い手がこれ程迄に疲弊しているのを見る限り、他の団員は絶望的と見て良い。
つまりは次の息吹を防ぐ術が無くなったという事だ。
「あの時、ユウリの提言を聞き入れていれば……か…………」
実はユウリの提案はもう一つあった。
陣を展開する場所を王都から五キリルの場所にしてほしいと。
しかし、火炎竜の息吹の射程が分からない現状、なるべく王都から遠い位置で食い止めたい。と、団員皆の意見を通してこの場所に展開した。
その結果、王都では無くクランベイン達が攻撃の対象とされた。
つまり、これは第三騎士団、つまりはクランベインの判断ミスであった。
「……今更後悔しても遅いな」
今は後悔する時ではない。とクランベインはこれからの事に目を向ける。
「お待たせいたしました!団員の現状は―――」
セルハが戻り、クランベインに現状を報告した。
奇跡的に死者は出ていないものの、防御壁を張れる団員は第三騎士団と第四騎士団含め全員が魔力切れで次の障壁展開は不可能。直撃は免れたものの、火傷や爆炎の衝撃による負傷者多数。と。
「……絶望的だな」
混成軍勢はまだ先程の場から動かず、こちらを観察するように進行を止めている。
あと少し……あと少し進んでくれればユウリの狙撃位置に入る。
その少しが果てしなく遠く、クランベインは諦めにも似た笑みを零す。
「団長!!竜が二度目の息吹を準備し始めました!」
「万事休すか……」
絶望の赤い火炎を火炎竜が口元に集める。
クランベインを含む全ての団員に諦めの表情が浮かぶ。
今まさに息吹が放たれようとした刹那。
闇夜を切り裂く一筋の光が火炎竜の開いた口元に進入、そのまま、まるで何も無かったかの様に流星の如く夜空に消えていった。
口の中から頭を貫かれた火炎竜は火炎を留めたまま、羽ばたきを止め力無く落下していく。
その先は魔物と魔獣の混成軍。
行き場を失った息吹は地面への落下と同時に爆炎を巻き上げ、地上にいた軍勢の半数以上を灰燼に帰した。
それを眺めていたクランベイン達だったが、ふと我に返り、
「【鷹の目】がやってくれたぞ!我々も遅れを取るな!方舟の底力を見せるぞ!全軍!進めぇ!!」
「「「「「おおぉぉ!!!」」」」」
目の前の光景を目の当たりにし、士気が上がった団員達は先程までとは違い、勇猛果敢に走り出す。
そんな中、クランベインは一度だけ王都を振り返り、誰にともなくこう呟く。
「ユウリ、君の放つ矢。まるで流星だな」
〜ユウリside【三人称視点】〜
少し時間は遡り―――
火炎竜含む軍勢があと一キリルの地点で突如進軍を止めた。
「まさか……僕の存在がバレた……?」
その直後息吹が騎士団の陣営に放たれ、展開された障壁にぶつかった。
「くっ。あと少しなのに……。こうなったら……」
予定していた場所にあと少し届かず、ユウリは意を決して今の場所に狙いを修正する。
たった一キリルとは言え、超長距離に於いてはその差は致命的だ。
コンマ一リルズレただけで、たった一キリルでも十七メリルのズレが生じる。
たった一呼吸、ほんの僅かな動揺が致命的なズレを生んでしまう。
「くそっ!狙いが定まらないっ!」
砂煙が晴れると騎士団員達は満身創痍、火炎竜は次の息吹の準備はしている。
「急げ!急げ急げ急げっ!」
自分がやらなければと焦れば焦るほど、狙いが定まらなくなる。
先程までの集中力は完全に霧散してしまっていた。
「早くしないと皆がっ!」
焦りと共にとうとう弓矢までもがブレ始める。
火炎竜はの息吹は準備を終えようとしている。
急ぐ気持ちと裏腹に、とうとう弦の引きすら保てなくなる。
「頼む!お願いだからっ!今!今ここでやらないと皆が!フランが守れないんだよ!」
ユウリの願いが何に届いたのか分からない。
だが、その願いを聞き届けたかの様に、ユウリだけにしか視えない二つの光が目の前に現れた。
そして、《遮断》で音が聴こえないにも関わらず、その光の中から声が聴こえた。
『お坊っちゃま。心を穏やかに保って下さい。そうすれば貴方の矢は百発百中ですよ』
この場に居るはずの無い、懐かしく優しい声。
そして、もう一つ。
『落ち着け、馬鹿者。お前は既に頂に至っている。後はお前の心次第だ』
自分を愛してくれた厳しさの中に愛情を感じる声。
「ウィル、爺ちゃん……」
『『大丈夫。ユウリ(ユリウス様)なら出来る(ます)。さぁ!』』
「…うんっ!ありがとう、二人共」
まるで息子の様に想っていてくれた血の繋がってないウィル。
自分を心から愛してくれた曽祖父。
こんな二人に恥ずかしい姿を見せられない。
「今の僕の出来る全てを見せるよ」
改めて弦を引き絞る。
集中力は鈴の音と共に一瞬で高まった。
後は手を離せば矢は放たれ、標的に当たる。
既に二人の姿も視えず、声は聴こえない。
それでもそばに居ると感じられる。
もう憂いは無い。
僕は矢を放つ。
だんだんと薄れ行く意識の中でユウリが視た矢は光の尾を引き、まるで流れ星の様に火炎竜元へ飛ぶ光景。
そのまま遮る物が無いかの様に火炎竜を通り抜け、ユウリの眼でも捉えられない夜空の彼方へと消えた。
それを見届けたユウリは笑顔のまま、その意識を手放した。
本来は同じ言い回しの乱用は良くないと思うのですが、違う視点から見たのと、皆が同じ事を感じる描写を書きたかったのでこうなりました。
反省はしているが後悔はしていないっ!(つまり表現力不足)




