第三十六射目
十歳迄の僕の人生は、正直に言って楽しいとは言えなかった。
ブルーローズ公爵家次男として生まれ、優秀な兄と姉がおり、何をするにも比べられていた。
ブルーローズを名乗る者として必要な英雄級・上級の水属性の加護とそれを支える同等の職種持ち。
父と母もそうだった。
『お前もきっと良い職種を…………』
水属性の加護は当たり前、後は職種次第で今後がどうなるだろうか。
そういう前提の下に育った。
唯一それらを気にせず接してくれたウィルとケティ。
今頃どうしているだろうか?
そして、加護も職種も満足いく結果を得られず、捨てられた。
そこから爺ちゃんに拾われ、人生が変わった。
『どんな加護や職種でも出発地点が違うだけで、目指す高みは同じだ。』
そう言われた。
『山を一合目から登るのが下級だとすれば、神話級は最初から七合目。
しかもただ、七合目にいるだけではなくそれまでの道のりを登りもせずに把握し、踏破出来る実力を持っている。
それ程の差がある。
それでも、ゴールは決まっており、目指す場所はただ一緒。
それなら同じようにば登り続ければ、自ずと同じ場所に辿り着く。
ただ、それを成すには人生は短すぎる。
だからこそ同じやり方では駄目だ、やり方を考えろ、皆が山道を登っているならそれに追いつき、追い越す為に、崖でも川でも超えて最短を進めば良い。
そのやり方を儂は知っている。』
爺ちゃんの教えを信じて自分なりに道を切り開いて今の場所まで辿り着いた。
今何合目なのかは分からないけど、確実に前進していた五年間。
そして数日前、爺ちゃんとの思い出の家を出た。
そう、たった数日前に出たはずなのにここ数日はどれ程の濃さだっただろう。
そして、僕は今何をしてたんだっけ?
そうだ・・・
「思い出した……。あの後倒れたんだっけ……」
ガルシア団長に矢を放った後、魔力が底を突き、意識を失ってしまった。
でも僕は訓練所ではなく宿でもない、何処かの部屋のベッドにいる。
「目が覚めたか」
足元から声が聞こえて、慌てて起き上がると椅子に腰を掛けたガルシア団長がいた。
「気分はどうだ?」
「まだ少し気持ち悪いですが、もう大丈夫です」
「そうか、それならば良い」
あれ?ガルシア団長少し怒ってる?
「お館様達を呼んできても構わんか?特にフランお嬢様が大変心配されていてな」
倒れて皆に心配掛けてしまったからか……。
「いえ、僕が足を運びます。わざわざ皆様の手を煩わせる訳にはいきません」
「それは出来ん。お主の介抱は儂の役目だ」
「あ……」
倒れる前にお願いしたな、確か。
「少し待っておけ」
席を立ち、部屋から出ようとするガルシア団長に声を掛ける。
「ありがとうございました」
「気にするな。約束は約束だ」
背を向けていたので見えなかったが、笑ってくれたような気がした。
ガルシア団長が戻ってくると、続々と人が入ってきた。
ディーセス辺境伯・辺境伯婦人・フラン様・ガルシア団長・ジルク隊長・ソーラさん・ロビンさん・リックさんと、先程応接室に来た皆が勢揃いだ。
急いで立ち上がろうとすると、辺境伯に手で制される。
「そのままで大丈夫だよ。体調はだ……」
「ユウリ様!大丈夫ですか!?」
「ご心配をおかけして申し訳ありません、フラン様。ただの魔力切れですので、大丈夫です」
「それは良かった……」
辺境伯を遮ってフラン様が駆け寄ってきてくれた。
かなり心配させてしまったみたいだ。
これから護衛として・・・そうだ!結果はどうなった!?
「辺境伯閣下、僕の試験の結果は……?」
「勿論、合格だ。文句の付けようがない。ただ、強いて言うならこれからも従うフランを悲しませるのは減点だね」
「申し訳ありません……」
「こら、あなた。そんな意地悪言わないで下さい」
「そうですよ、お父様」
「はは、ごめんごめん。愛しの娘の愛を一心に受けるユウリ君に少し嫉妬してしまってね」
「お父様ぁ!!」
やっぱりこの人は苦手だ。
「お館様、話が進みませぬぞ」
「そうだったね、ガルシア。ユウリ君、改めてこちらからフランの護衛兼専属執事をお願いしても良いかな?」
「はい、慎んでお受けいたします」
「お願いします、ユウリ様」
「フラン様、これからは僕に敬語は使わないほうが良いんじゃないですか?」
「そうで……そうだね。よろしく、ユウリっ!」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。フランお嬢様」
これで正式な任命はまた改めて行うんだろうが、話が決まった。
「それで、だ。ユウリ君。君の事を聞かせてほしい。さっきのガルシアとの一戦もソーラ達から聞いたフランを助けた時の事も。言いたくない事は言わなくても良いからね」
「いえ、これから従う方々には全てをお話します。長くなりますがよろしいでしょうか?」
「皆構わないかな?」
辺境伯が周りを見回し、皆は声を出さずに肯定を示す。
「よし、良いみたいだね。じゃあお願いするよ」
「分かりました。では僕の生まれから話しますね……」
僕の生まれた国や家庭の事。
神託の儀で授けられた加護と職種、家からの追放という名の実質的殺害。
そして森で爺ちゃんと過ごした四年間とその後の一年間。
森を出て、フランお嬢様達に出会ってからここに来るまで。
途中、皆から質問も挟みつつ全て話した。
「これが全部です。もう僕に隠し事はありません」
「辛い話をさせてしまったね。すまない」
「……っく。っう……」
「話すと決めたのは僕です、辺境伯閣下。謝らないで下さい。ほら、フランお嬢様も泣かないで下さい」
「だ……だってぇ…………」
様々な反応が視えた。
女性陣はそれぞれの泣き方だが涙を流してくれている。
男性陣は信じられないという顔をしている人達と怒りに震えてる人までいる。
ここの人達は優しい。
この家に仕える事になって僕は幸せだ。
「過去には色々ありました。でも僕はこれからこの家に仕えられて幸せです」
「こちらこそ。君のような強く優しい少年がこの家に、フランに仕えてくれて私も娘も幸せだよ」
これからこの家での人生が始まる。
旅を始めてたったの数日でまさかこんな事になるなんて。
数日前も同じような事思ったけど、やっぱり人生何が起こるか分からないな。
これにて、第三章が終了です。
次回、閑話を挟んで四章に移ります。




