第三十ニ射目
次の日の朝いつも通り朝食をとった後、女将さんとニーナに今日は手伝えないかもしれない事を伝えて謝った。
「そんなわざわざ謝らくても良いんだよ。手伝ってくれてるだけで有り難いんだ」
「用事があるならしょうがないよ。暇な時にはまた手伝ってね」
「二人共、ありがとうございます」
お礼を言った後、出来る限りは片付けや掃除の手伝いをしていた。
そろそろ終わるかなという頃に入口の扉が開く。
顔だけ出して覗くとリックさんが立っていた。
「ユウリー。迎えに来たよー」
「あ、はーい。じゃあ女将さん、ちょっと出掛けてきますねー」
「はいよ。……って、リックじゃないか。久々だね」
「御無沙汰してます、サーヤさん」
何やら知り合いの様子、まぁ紹介してくれる位だから顔見知り程度ではあるのか。
「ちょっと部屋に戻って準備してきますね」
「昼からの予定だからゆっくり大丈夫だよ」
「すぐ準備出来ると思うんで、お待たせしないと思います」
部屋に戻って一応着替える。
と言っても、今の僕は礼服を持ってるわけではないので、ここに来るまでに来ていた防具や衣服に着替え、鞄を持って玄関に向かう。
女将さんとニーナとリックさんが何やら話しているが、加護を使ってない状態だとハッキリは聞こえない。
「お待たせしました」
「本当に早かったね。もう少し時間かけてくれれば俺もサボれたのになぁ」
「また謹慎処分にされますよ」
「ははっ。それは勘弁だね」
「じゃあ女将さん、ニーナ、行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
二人に声をかけてリックさんの後を追う。
本来、客人の迎えは馬車で行うのが一般的だが、リックさんが「ユウリはそんな仰々しいのは好きじゃないだろう」と一人で歩いて迎えに来てくれたらしい。
「リックさんは気だけは利くんだからもっと真面目に働けば出世するだろうに」
「おぉい、ユウリ?心の声漏れてるからね?」
辺境伯のお屋敷までの道中、軽口を叩きながらのんびり歩いていく。
もし、リックさんが本当の兄なら凄く楽しかったと思う。
勿論、今のなんちゃって兄さんでも楽しいんだけどね。
大通りを抜け、外壁の近く門と門の合間にある住宅街の一番手前にあるお屋敷が見えた。
大きい。大きいんだけど……。
「あれが辺境伯閣下のお屋敷・・・?」
「そう、屋敷というよりも砦みたいだよね。内緒の話だけど、実は地下も五階まであるんだよ」
「それ言って良いんですか?」
「だから内緒だよ?」
ケラケラと笑いながらリックさんが教えてくれる。
それ機密情報なんじゃないかな?漏らして大丈夫?
「わざと自分の屋敷を手前、なるべく海の近くにして上陸する敵から住民達を守れるようにしてある。正に港町アリアならではの造りなんだよ」
「防衛拠点として使えるように屋敷もこんな形になってるんですね」
「そうそう。理解が早くて助かるよ。一部の貴族から不評だけどね」
「どうせ自分の権力を見せびらかしたい領主か自治領を持ってない一部の法衣貴族が殆でしょう」
「言うねぇ」
耳に入れば厳罰必須の会話をしながら、改めて屋敷を視てみた。
屋根も無く、屋上からは辺り一帯が見渡せるようになっていて、窓も最低限の数と大きさ、もしもの時は窓も内側から塞げるみたいだ。
素材も見た目よりも機能性を重視しているようで、色こそは白く塗っているけど、素材はいかにも硬そうだ。
あれ、射抜けるかな。
「さぁ、到着したよ」
「お帰りなさいませ、リック様。その方は?」
「お館様の客人だ。失礼のない様に。俺が直接お連れする」
「はっ。どうぞ」
「ご苦労さん」
門を潜り、庭を視てもやはり実用性重視みたいだ。
庭を進み、屋敷に近付くと扉の前には燕尾服を来た若い男性が立っていた。
まぁ門に着いた時から視えていたんだけど。
「お帰りなさいませ、リック様。それからユウリ様ですね、本日は足を運んでいただきありがとうございます」
「こちらこそ、お招き頂き光栄です」
胸に手を当て、お辞儀をされたので昔の習慣で思わず同じ様に頭を下げる。
「ユウリ、やっぱり礼儀作法に詳し過ぎないか?」
やらかした。
咄嗟に子どもの頃に叩き込まれた癖が抜けない。
「そう固くならなくて大丈夫ですよ。旦那様は多少の事は気にしませんから」
「そうそう、じゃないと俺みたいな平民を騎士団にいれる訳ないからね」
「リック様はもう少し騎士団らしく振る舞われた方が宜しいかと」
「クライヴまでそんな事言っちゃう?そっちだって昔は随分……」
「リック様?何か?」
怖い怖い怖い怖い。
もの凄く笑顔なのに目が全く笑ってない。
「ナンデモナイデスヨー」
「さぁ、お喋りはここまでにして中に入りましょう。リック様はこのままユウリ様を応接室に、私は旦那様を呼んで参ります」
「了解。ユウリこっちだよ」
言われるがままリックさんの後ろを歩いているが、周りを視てもやはり芸術品や調度品は無く、あるのは武器や甲冑等だ。
一応花瓶に花を飾っているのは少しでも華やかにとの従者の人達の気遣いなのかな?
応接室の部屋の中に通されて、ソファに腰掛け待っている。
しばらく待つと、部屋の扉が開いた。
この国に来てフラン様以外、初めての貴族との対面だ。
さぁ、蛇が出るか蛇が出るか?
どちらにしろ、何かが変わる気がした僕だった。
今回で辺境伯と会うまで書きたかったけど、結局会うまでに一話使ってしまいました。
文字数を多くしてしまえば掛けそうだったんですが、多分いつもの二・三倍になりそうだったので・・・




