第九十五射目
全話に引き続き、フランsideからスタートです。
もうしばらく視点変更をちょいちょい挟みながら進行していきます。
「戻りましたよぉ」
「お帰りなさいませ。お言葉ですが、その少女は……?」
「彼女は連れて帰るんですよお。僕のものだから誰も手を出さないで下さいねぇ。殺しちゃうよぉ」
「はっ!すぐに全員に通達致します!」
「お願いしますねぇ。じゃあ、君はこちらに来てくれるかなぁ?」
ローブの人物の言われるがまま、甲板の中央に立つ。
そこに立つと、周りに魔法陣が展開され、障壁がまるで牢の様になり、フランを閉じこた。
「ちょっと!何でこんな!ちゃんと付いていくって言ったでしょ!」
「君は《精霊の加護》かそれ以上を持ってるでしょぉ?さっきからそのおかしな首飾りに呼び掛けているのも分かっているんですよぉ。だから、念の為にそちらに居てくださいぃ」
そう、この人物と相対してからフランはずっと水の大精霊に呼び掛けていた。
しかし呼び掛けには応えてくれず、時折応えたと思えば断片的にしか聞こえず意思疎通はままならなかった。
「まぁ、呼び掛けても無駄ですけどねぇ」
「それは分からないでしょ?」
「分かりますよぉ。その理由を説明する程僕は親切ではありませんけどねぇ」
この人物がウンディーネに何かしらの干渉をしているのだろうか?
しかし、考えても分からないので、フランは頭を切り替えて次の話題に移る。
「それで?もう帰るんでしょ?早く帰らないの?」
「帰りますよぉ。でもその前に……」
そこで、不自然に言葉を切る。
その口元を三日月の様に歪ませながら。
「総員、アリアを全力で攻撃して下さい。一切の容赦は要りません」
「え……!?」
「私は魔法を止めるとは言いましたが、攻撃しないとは言ってないですよぉ?」
「貴方って人は……」
「おやおや。怒っちゃいましたかぁ?でも確認しない君が悪いんですよぉ」
「最低な男……」
「男ぉ?僕は歴とした女ですよぉ?」
『失礼ですねぇ』と、ボサボサの髪をかき上げ、ローブを脱ぎ捨てる。
端正に整いながら、やる気のない瞳と病的に白い肌。
ブカブカの上着を被り、太腿がほんの少し見える程度のロングブーツ。
殆ど肌の露出が無いにも関わらず分かる、その均整整った身体付きは世の男性を魅了するだろう。
「さぁ。見ていて下さいねぇ。楽しい楽しい悲劇の始まりですよぉ」
「貴女は…………」
障壁を壊そうとするも、ビクともしない。
魔法を行使しようとしても魔力を散らされて発現出来ず、マリンも召喚出来ずにいた。
それでも三叉槍でどうにか出来ないか足掻き続ける。
「無駄だよぉ。一度発動したら外部から解除しない限り、竜の攻撃すら耐える代物だからねぇ」
そんなフランを見てケラケラと笑う女。
しかし、彼女は聞き逃さなかった。
『竜の攻撃すら耐える』のその一言を。
彼女は知っている。
竜の攻撃を防ぐ障壁だろうと、ましてその竜の鱗ですら何の障害にならない一撃がある事を。
そして、それを放てる者がいる事も。
彼はきっと来くれる、たとえ何処に居ようと必ず駆け付けてくれる。
あの時もそうだったから。
フランはそう信じて彼が来るのを待つ。
何故そうしたか分からないが、ふと、アリアの方に視線を向ける。
その視線の先、人が見る事の叶わない遥か遠くから飛んでくる何かを見付けた。
それを見て、『ほら……』と一筋の涙を流し、フランは小さく微笑んだ。
【不沈艦side〜三人称視点】
その頃、アリアの港は混乱を極めていた。
破られる筈の無いガルシアの障壁が謎の魔法によって破られた。
再度展開しようとするも、皆が知らない制約でもおるのか破れられた反動なのか分からないが、ガルシアは気を失ってしまっている。
ユウリ達の回復薬のお陰で傷一つ無く、魔力も戻っている筈なのに意識を取り戻せずにいた。
今いる人員でどうにか障壁を展開するも、後の事を考えていないのか、それとも先程まで手を抜いていたのか、攻撃は激しさを増している。
時間が経つにつれ、港にも被害が拡がってしまっていた。
誰しも『このままでは不味い』と分かりながらも、どうしようする事も出来ず、対応に追われている。
「副団長!このままでは!」
「分かってます!ですが、今はこの攻撃に耐えるしかありません!皆、死力を尽くして街を守って下さい!援軍がきっと来ます!」
アメリアが団員達を鼓舞するも、士気は上がらない。
まだ夜も開けてない、伝令が王都に着いていないのも皆分かっているからだ。
仮に伝令が到着していたとしてもそこから軍を編成して到着するのはどんなに急いでも夜明け過ぎ、それも第三騎士団の騎竜隊かリックが居てようやくだ。
そんな疲労困憊の状態で到着したところで、この状況を覆す手段は無い。
幸い、先程障壁を破った魔法は襲ってこず、それが唯一の救いだった。
しかし、永遠と思う程、終わりの見えない攻撃に刻々と精神が削られていく。
「せめて叔父上が起きて下されば先程の様に時間を稼ぐ事が出来るのに……」
口から出た言葉にハッとする。
考える事を放棄して、何かに縋る様な発言をした。
同時にどれ程ぬるま湯に浸かっていたかも思い知る。
死に直面する事は今までもあったがそれは魔物や魔獣相手の事、彼等は生きる為に殺すのだ。
しかし今は違う。
人が人を殺す為だけに、明確な殺意を目の前に居なくても感じる程に向けられている。
「こんな事、経験した事無いですからね……」
「副団長!被害が更に拡大しています!」
「誰か……」
団員の声はアメリアに届かなかった。
聞こえているが、それが理解出来なかった。
否、しようとしなかった。
自分の指示一つで沢山の人が死ぬ。
それがどうしょうもなく怖かった。
彼女の心はもう折れてしまっていた。
「誰か……助けて…………」
「っ!?副団長!お逃げください!」
「え……?」
俯いていた顔を上げると、敵船から放たれた魔法が直上に迫っていた。
アメリアにはもう逃げる暇も逃げる気力も残ってはいなかった。
「これで終わりか……」と呟き、諦めて目を閉じる。
しかし、いつまで経っても痛みも衝撃も感じなかった。
恐る恐る目を開けると信じられない光景が目に映った。
「魔法が相殺されてる……?」
「敵の先頭を除く二隻が何者かの攻撃により、完全に沈黙しました!今が好機です!」
「誰がこんな……?」
周りを見ても走り回る団員達しかいない。
何気無しに見た街の向こう、その上空に黒い影が見えた。
そこから雨の様に降り注ぐ大量の何かが敵船の魔法を全て相殺する。
「あれは……宮廷魔道師団……?」
「いえ、違いますよ」
「ジルク隊長?それでは誰なのですか?」
「あの少年……いや、あの方はこの街の守り神ですよ」
「守り神……?」
「おや?ご存知でしょう?この街には全てを見守る鷹がいる事を」
背後から現れたジルクに声を掛けられた上、謎掛けの様な事を言われてますます混乱するアメリア。
しかし、ジルクの発言は間違っていない。
全てを視渡す眼を持つ、翼を持たないその鷹が。
この街を護る為に、大空から現れた。
今正に敵を穿たんとするその爪を鋭く研ぎながら。
鷹かー。誰だろうなー。
そして、閑話やプロローグを挟んでズレがありますが、百ページ目に到達しました!
そしてもう少しで百射目に差し掛かります!
まさかここまで続くとは……。
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