第1話 最悪なスタート
昔から空気が読めてノリが良く、運動も勉強もそこそこ出来たので人生において悩みなんて無かった。
どちらかというと人気者で、クラスの中心グループにいる事が多かった。
そんな生活に、何となく物足りなさは感じつつも満足していたし、このままずっと続くと思っていた。
中学の頃までは。
「俺、本田!よろしくー」
高校の入学初日、名簿順で後ろの席になった本田に話しかけられた。
「こちらこそよろしく!俺は三峰。」
中学時代の友人は皆別のクラスになってしまい、心細かったところに向こうから話しかけられた。
早速友達が出来そうで安堵する。
「俺もよろしくしてもらって良い?」
前の席に座っていた向井も話しかけてきた。
最初の頃は中学時代の友人か、名簿順で席が近い人とつるみがちだが、もれなく自分もそうなった。
昼飯や班分けなどで、自然と3人で過ごすことが増えた。
本田は頭は悪いが明るくて裏表がない。
向井は大人っぽくて話が面白い。
2人とも良い奴である事には間違いない。
だが、正直言ってノリを合わせるのがキツかった。
と、言うのも2人は大の女好きで休み時間には「クラスで1番可愛い子は誰か」だの「ギリギリ付き合えるのは誰か」だの、本人にも聞こえるくらいの声量で話すのだ。
自分は他人に順位を付けたり、品定めするような事は好きじゃない。
だがついついノリを合わせてしまうので、クラスで1番可愛いのは誰か聞かれた時に、”國塚さん“ と言ってしまった。
その後、彼女と目が合って「うわぁ...」といった表情をされたのは苦い思い出だ。
気付けば裏で女子から “アホ3人衆” と呼ばれているらしく、自分にも女好きイメージが定着してしまった。
高校デビューは完全に失敗だ。
「あぁ〜!彼女欲しい〜!!」
毎日のように聞かされているが、本田は今日も同じセリフを叫んでいる。
最近は壊れたスピーカーだと思って聞き流すようにしている。
「そんなに欲しいなら合コンする?」
いつもは自分と同じく聞き流している向井だが、今日は珍しく話に乗ってきた。
「え?!合コン?!やりたい!やりたい!」
「おけー。丁度集まってくれそうな子居るんだよね。」
本田が食い気味に答えると、向井はスマホをいじりだした。もう声をかけ始めているようだ。
「俺合コンなんて初めて!ドラマの中だけだと思ってたわ!やっぱ持つべきものは合コン開ける友達だよな〜!」
本田は喜びのあまりテキトーな事を言っている。
「はは、何だそれ。三峰も来るでしょ?」
「...行く行く〜!」
行かない。と言えれば良かったが、2人の視線が同時に集まった瞬間、また無意識のうちに話を合わせてしまった。
この2人と遊んでいると、ナンパスポットに連れ回されたり、そこで会った女の子にご飯を奢ったりと、元より少ないお小遣いが一瞬で消えていく。
バイトもしているが、たいしてシフトに入っていないので稼ぎはたかが知れている。
(今度は合コンかよ...男側の奢りじゃありませんように...)
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合コン当日はカラオケに集合した。男女3:3なので、男側は見知ったメンツだが、女側は向井の中学時代の友人と、その友人が高校で出来た友人。
つまり、全く知らない人達だ。
本田は盛り上げ要員として張り切ってマラカスを振っている。だが残念ながら、女子3人中 2人は向井狙いらしい。ガッチリと両側を固めている。
向井は女の子の腰に腕を回して抱き寄せている。しかも時々胸を揉んだり尻を撫でたり、やりたい放題だ。
(おいおい...まじかよ...)
この空間に居るのもしんどいので、誰かのグラスが空くたびに率先して飲み物を取りに行った。
「ねぇ。三峰くん、だよね?」
ドリンクバーでボーっとしていると、3人の女の子のうち残りの1人が部屋を抜けて話しかけてきた。
「ん?うん。えっと...キララちゃんはどうしたの?」
「え〜名前覚えてくれたの嬉しい♡」
そう言って体を寄せてくる。飲み物を取りに来たのだと思ったが、どうやら違うらしい。
「な〜んか綾の奴が久しぶりに会いたいって言うから来たのに、他の女とベタベタしてるから三峰くんのとこ来ちゃった♡」
「...なるほどねー。じゃあここでお喋りしとく?」
話ぶりから察するに、このキララという子は向井の元カノのようだ。向井が他の女とイチャついててムカつくから代わりの男、要するに自分が代理として選ばれたのだろう。
(本田の方に行ってやれ...)
「キャハハ!三峰くん可愛い〜♡お喋りって!それよりもっとイイコトしようよ...」
ね? と言われて腕を引かれる。
会計もまだなのに2人で抜け出して、一体誰が立て替えるのだろう、とどうでもいい事を考えた。
いつかは経験するだろうと思っていたが、まさか今とは思っていなかった。
本田と違って誰でもいい訳じゃない。本当は心から好きになった人と、ちゃんと付き合ってからしたい。
だが、女の子側からあそこまでお膳立てされた状態で断ったら、恥をかかせてしまうのではないかと思うと断れなかった。
完全に義務感でこなした初体験は、あまり良いものではなかった。
後日、学校に行くと怒りで顔を真っ赤にした本田に詰め寄られた。
「三峰〜!!お前キララちゃんと2人で抜けてナニしてたんだよ〜!!」
「えーっと...」
無実ではないので言葉に詰まる。
「俺キララちゃん狙ってたのに!」
「あいつ締まりが悪くてゆるゆるだったでしょ?」
本田はしつこく喚くし、向井はニヤニヤしながら言ってくる。
自分とキララのカラオケ代は本田が立て替えていたらしく、良い思いをしたんだから、とキララの分まで払わされた。
どちらかと言うと、2人も女の子を取っていった向井の方が良い思いをしている筈なので、そちらに怒りを向けて欲しいが、聞く耳を持ってくれそうもない。
懐は寒いし、耳は痛いし、ついでに心も虚しい。
最悪な日になった。




