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ロッテとシャル  作者: 三沢ケイ
4 ロッテとシャルの蜜月
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後日談 ロッテとシャルの蜜月 4話

本日4話目です。読む順序にご注意下さい。

 リーズロッテは前日からうきうきした気分で居た。今日はシアルヴァンが一日お休みの予定なので、2人でお出かけする約束をしているのだ。近所の聖地にも途中で立ち寄る約束をしている。

 楽しみすぎていつもより早く起きてしまったリーズロッテはベッドからもそもそと起き出そうとした。しかし、お腹の辺りにあるシアルヴァンの腕がしっかり固定されていて抜け出せない。体を捻ってシアルヴァンの方を見ると、深い碧の瞳としっかりと目があった。


 「おはよう、シャル。」


 「おはよう。まだ早いからゆっくりしよう。」


 しっかりと胸の中に抱き寄せられて二度寝されそうになっているのに気付き、リーズロッテは慌ててシアルヴァンの胸を押し返した。二度寝されては出かける時間が遅くなってしまう。


 「起きて、シャル。今日はお出かけする約束だわ。」


 「ああ、勿論行くさ。でも、朝にロッテを抱きしめてゆっくり出来ることも滅多に無い。これも私には至福の時間だ。」


 そう言われてしまうとぐうの音も出ない。確かに毎日、シアルヴァンは多忙で朝が早いのでゆっくりは出来ない。リーズロッテは腕に入れていた力を抜いて、シアルヴァンに身を任せた。

 頭頂部に落とされた唇の温もりは額、鼻先、頬と段々と降りてきて、唇が重なるとそれは激しく貪るような熱いキスへと変わる。

 結局、この日リーズロッテがシアルヴァンをベッドから連れ出すのに成功したのはだいぶ日が高くなってからだった。


***


 「こっちだよ。足元に気をつけて。」


 シアルヴァンに連れて来られたのは大河沿い近くの崖のような場所だった。切り立った壁は地層が何そうにも重なっているせいか、ミルフィーユのような見た目だ。そして、足元にはゴロゴロと石や岩が転がる中、辿り着いた先には小さな洞穴のようなものが見えた。


 シアルヴァンはそっとリーズロッテの手をとって慎重に中へと進む。

 一見狭く見えた洞穴は中が大きく広がっていて、奥の天井には孔があいてそこから太陽光が射し込んでいた。その光が照らす先には小さな湖が広がっており、碧くキラキラと反射する光がとても幻想的だ。


 「まぁ、とっても綺麗!」

 

 「地元の住民に聞いたんだが、川の氾濫のたびに少しずつ出来た自然の洞窟と湖らしい。ラダルウィル子爵領でよく行った滝の脇の聖地も幻想的だったが、ここも霊験あらたかな雰囲気だろ?」


 シアルヴァンは湖の畔であたりをゆっくりと見回しながら、地元の住民から聞いたというここの起源を話してくれた。天井の穴から差し込む光はまさに神々が降り立つという雰囲気にぴったりだった。

 

 「何も居ないわね。」


 リーズロッテは周囲を1周見回した。神々らしき者は見当たらない。ラダルウィル子爵領でよく行った聖地には猫のトラがいたが、ここは猫すら居らずシーンとしている。


 「小鳥がいるよ。ほら、あそこ。」


 シアルヴァンが指さす方向にリーズロッテも目を向けると、小鳥が2羽天井の穴の際に停まっていた。


 「じゃあ、願い事しなきゃだわ。もしかしたら、もしかするとだもの。」


 慌てて小鳥に向かって両手を合わせるリーズロッテを見て、シアルヴァンはククッと肩を震わわせて笑った。


 「ロッテは相変わらずだな。じゃあ、私も願い事をするとしよう。願い事と言うか、決意表明だな。」


 「どんな決意表明?」


 「スバル地区の治水事業を無事にやり遂げ、その後の発展に尽力する。そして、この地区をガーディン国有数の豊かな都市にしてみせる。」

  

 小鳥の方向を向いたままそう言いきったシアルヴァンの横顔は自信に溢れている。リーズロッテはそんなシアルヴァンが眩しく見えた。


 「流石ね。シャルならきっと出来るわ。」


 総指揮官としてのシアルヴァンは非常に有能であると聞く。多くの補佐官達に支えられながらも、シアルヴァンは確実に成果を上げていっていた。

 スバル地区がガーディン国有数の豊かな都市になる。そんな日は遠くない未来に来る予感がした。


 「ロッテは?」


 シアルヴァンの深い碧の双眸に覗き込まれて、リーズロッテはなんだかとても恥ずかしくなった。シアルヴァンの願い事に比べて、自分の願い事がものすごくちっぽけなものに思えたのだ。


 「私は、シャルと死ぬまで仲良しで、ずっと幸せに暮らせますようにって。シャルに比べたらちっぽけな願い事だね。」


 「ちっぽけでは無いよ。それは私が叶えよう。」


 気恥ずかしいから俯いていたリーズロッテは、シアルヴァンに手を握られて顔を上げた。シアルヴァンは目が合うと優しく微笑んだ。


 「ロッテ。私がこうして仕事に専念して領地に気を遣えるのは、隣にロッテが居てくれるからだ。ロッテが私に安寧を与えてくれるから、頑張る事が出来る。ロッテのことは必ず幸せにする。だから、これから先も私の傍に居てくれ。」


 リーズロッテは息をのんだ。自分は少しでもシャルの役に立てている?それなら、そんなに嬉しいことはない。


 「はい。私などでもお役にたてるならばいつまでもシャルの傍に居るわ。」


 「ロッテなど、では無く、ロッテだから、だ。愛している。」


 「私も愛しているわ。」


 光が降り注ぐ厳かな空間で、2人の影はゆっくりと重なった。


 長らく水害多発地域として嫌煙され、国の直轄地域としてして存在していたスバル地区は、初代領主シアルヴァン・スバル公爵とその補佐官達の尽力により、数十年間で大いに発展を遂げた。


 そして、領民達から絶大な支持をうけた初代領主は愛妻家としても有名で、沢山の子宝に恵まれた。

 息子に領主の座を明け渡した後も仲むつまじく愛らしい奥方と寄り添い領地を視察する姿が度々目撃され、それは理想の夫婦像として領民達からも愛され続ける憧れの存在になったと言う。


ロッテとシャル ー完ー

 

後日談も含めて全て完結です。

ご清覧頂き本当にありがとうございました!

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