演習場のゴーレム1
それから俺達はAクラス全員で、演習場と書かれた扉を開けて中に入った。
演習場は、森の木を切り倒して作られたスペースに、周りに10メートルほどの壁を設置してあるため
魔物の心配はなさそうだ。
演習場の中央を見ると、ルミア先生がすでに立っていいて、その横には俺の身長ほどの大きな丸い魔石が見える
「ルミア先生の横にあるのって魔石かな?」
ハルが俺の横を歩きながら聞いてくる、
「うーん、よく分からないけど、お互いの能力と実力を知るためと言っていたし、あの玉に何かするのは間違いなさそうだな」
「おい!お前達早くここまでこい!」
「「は、はい」」
話しながらゆっくり移動していると、ルミア先生に怒られてしまったのでみんな小走りで中央に集まる
「よーし、全員揃ったな、ではこれよりレクリエーションを行う」
ルミア先生は膝をつき、手を地面につける、そして一瞬の詠唱を終えると、地面についた手を中心に
土色の魔法陣が展開される、
すると、横にある魔石の下からゴゴゴゴと音がし、土の中から岩が形を変えながら出てきて、魔石をのみこみながら地面に出てきた、それは次第に形を変え、いつの間にか人型のおおきなゴーレムになっていた
「おおー!」
生徒たちから驚きの声が聞こえる、その中でハルが一番驚いていたので聞くと、
ゴーレムを作る魔法は生成するための情報量が膨大なためかなりの詠唱時間と魔力が必要らしく、
それを一瞬で完了させたことに驚いているようだ、ハルは土魔法を使うと言っていたし、そうとう難しい技術なのだろう、さすがAクラスを任される教師だ
「今からお前達にはこれと戦ってもらう、ルールは簡単だ、五人の班に分かれてその四人で協力してゴーレムを倒せ、このゴーレムは私の得意魔法だ、もちろんそれなりに強いぞ?倒すことが出来たらその班全員に一週間食堂無料券をやろう!まあ普通他のクラスにこんなことはさせないんだが、お前達はAクラスだ、聖学戦に向けて
お前たちの授業はかなりハードになる、ついてこれるな?」
「「「はい!!」」」
聖学戦?なんだそれ?
(記録書から簡単に説明すると、様々な国の学園から選抜されたメンバーを競わせるもののようですね、
行う理由としては、生徒の成長を見てもらうためや学園の優位を獲得することなどあるそうですが、
最も大きな理由は、国々による生徒の争奪でしょうか、)
生徒の争奪ってもしかして学園の生徒ってこの国以外の騎士団や冒険者になってもいいのか?
(はい、聖学戦は国々にとっては優秀な生徒を獲得するため、そして生徒たちにとっては自分の能力を国々に見せつけるためと言えるでしょう)
なるほどな、それで生徒たちもこんなにやる気になっているのか
「や、やったこれで勝てばなんとか一週間は生き延びられる」
横を見ると緑色の長い髪をした可愛い少女がよだれを垂らしながら目を輝かせている
・・・いや、学食の方を狙ってる人もいるみたい
それから俺達は五人の班を作り始めた訳だが、班を作れと指示があった途端にルーシュ、アベル、ハルとリンが俺のとこに来て班を作ろうとすると、戦力が偏りすぎてお互いの能力を見る前に終わてしまうと言われ俺とルーシュとアベルはばらばらの班に入れられる
ルーシュとアベルは別れた後、直ぐに他の生徒に囲まれていた、流石Aクラスの一位二位、あいつらを欲しがるのは当然だろう
とはいえ俺にも何人か班に入ってくれと言ってくれる生徒がいた、ルーシュやアベルとは違って素性が分からない分警戒しているのだろう
「俺も入れてくれー」
そういってきた男を最後に俺の班の五人が集まろうとした時、少し離れたとこにリンが話しかけようとしてやめてを繰り返しながらおどおどしているのが見えた、
「あーごめん、君ちょっと匂うから他の人誘うね」
「俺そんなに匂う!?」
自分の服をくんかくんかしているのを放っておいてリンの所まで行く、俺に気付いたリンが恥ずかしそうに下を向いて顔を隠す
「おーいリンー、俺達の班今ちょうど一人足りなくてさ、回復魔法が使える人を探してて、よかったら
俺達の班に入ってくれないか?」
「ふぇ?」
自分が思っていたのとは違うことを言われたような顔をして俺を見る、聞くと、俺の班には回復魔法を使える人がいないらしい、班としては回復要因がいないのは致命的だし、リンを入れることが出来ればその問題も解決できるだろう、別にリンを気遣ったわけじゃない、まあそれも少しあるけど・・
「どうだ?入ってくれないか?」
「は、はい!よろしくお願い・・・します」
これで五人の班が集まり、他の班もすでに班全員がそろっていた、俺が断った男も他の班に入れたようだ
そして班ごとに順番を決められ、少しの話し合いの時間を設けられた
班員一人一人にスキルや得意なことを聞く、
ふむふむ、思ったよりもかなり使えるスキルが多いな、リンの回復魔法もかなりのものだし、これなら
ゴーレムくらいやれそうだな
そして1班目の戦闘が始まった。
しかし結果はボロボロ、なんとゴーレムに一つも傷をつけられないまま全員がやられていた
「全く情けないな、今後の授業は期待しておけ!」
「「は、はい」」
俺はさっきの戦闘をみて素直に驚いた、
あのゴーレム思っていた以上に強い、巨体のくせに人間らしいスムーズな動きをして速度も速い、
これは思っていた以上だ、俺の班もきつそうだなー
それにしても流石Aクラス、本当にいろいろな能力を持っていてワクワクする!
「さあ次の班出てこい!」
「はーはっはっは!タツヤよ、ようやく俺の力を見せる時が来たようだな!そこでよく見ておくがよい!」
アベルが俺を指さしながら大声で叫んでいたが、すぐにルミア先生から横腹をキックされていた
なるほど次はアベルの班か、あいつどんな能力を使うんだ?
そして戦闘が開始される、するとアベルが直ぐにゴーレムの前に立つ
「いくぞ俺の力!サプレッションフレイムハンド!」
掲げられたアベルの両腕から大きな腕の形をした炎が出現し、ゴーレムを掴み、完全に動きを封じる
そんな名前の魔法があるのか!?
(いえ、この世界の魔法にそのような魔法はありません、あれはエクストラスキルの力によるものです、
恐らく名前は自分でつけたのでしょう)
直訳すると制圧する炎の手か
アベル、想像以上に恥ずかしい奴なのかも・・・そういうの嫌いじゃないけど!むしろ好きだけど!
生徒たちはその光景を見ておお!!と興奮気味になっている
「今のうちに攻撃しろ!」
そういわれたアベルの班のメンバーは直ぐに攻撃に移ろうとするが、アベルが邪魔になっていて攻撃することが出来ないでいる、なんとアベル以外の全員は剣の装備していた、つまりアベルの大出力の炎によってゴーレムに近づけないでいるのだ、
「っな!?」
今頃気付いたのだろう、アベルはどうやら班全員の能力を把握していないままこの作戦に出たようだ
そしてそのまま耐えきれなくなったアベルは倒され、アベルという戦力を失ったメンバーも脱落、
結局ゴーレムを倒しことは出来なかった
「はあ、まったくアベル、お前の戦力ならやれると思ったが、どうやらお前には実践において必要なことが欠けているらしい、お前も叩き直してやるから覚悟しておけ!」
とぼとぼと帰ってくるアベルをニヤニヤしながら見ていると、その視線に気づいたのか、今は体操座りで下を向いて「違う」「違うんだ」などとぶつぶつ言っている
ドンマイアベル!名前のセンスはいいと思うぞ
そして次は俺達の班、
作戦は特にないが、全員が協力すれば勝てない相手ではないと思う、
そう思ってゴーレムを観察していた時、唐突にゴーレムがゴゴゴゴと動き出し形を変える、
足が無くなり、ゴーレムの方から手が二本はえてきた
「・・・は?」
ルミア先生の方を見ると、ニヤニヤしていたので嫌な予感しかしないんだが
戦闘開始、接近戦が得意そうなゴーレムだったので、魔法が使える二人に魔法攻撃を開始してもらう
と思ったその時、
ゴーレムの四本の腕からそれぞれ違った属性の魔法の玉が飛んできた
「っはあ!?」
魔法を撃とうとしていたメンバーが詠唱をやめ何とかそれを回避する、そしてルミア先生に向かって
「ゴーレムが魔法使うとか聞いてないんですけど!?」
「当然だ、前の生徒は何の情報もないまま戦ったんだ、少しくらい強くしないと不公平だろう」
それはごもっともだ、それにしてもこのゴーレム性能がいいな、こんなのを簡単に出せるなんて
この先生もしかしたらすごい人なのかも
仕方ない、すぐに突っ込んで腕を切り落とそうかと思ったがこの魔法の攻撃を抜けて攻撃するのは
難しい、あの形状はおそらく俺が剣を使うことを知って砲撃型のように変えたんだろうな、こうなったら・・・
「作戦を決めた、取りあえず全員俺の後ろに!」
「え?」
戸惑っているようだが、すぐに俺の後ろについてくれた
「それではここに撃ってくださいといているようなものだぞ!」
ゴーレムはすぐに四つの腕から魔法の玉を発射、俺達に向かって飛んでくる
ああ、その通りだよ、ここに撃ってくれと言っているんだよ
一瞬で剣にエンチャント魔法をかけ、構える、
「おい!何してんだよ!早く散開しよう!」
後ろから慌てて逃げようとする生徒の声が聞こえるが、すまん今は集中してるから無視
「わ、私はタツヤさんを信じます・・!」
四つの玉が俺達の目の前まで来る
「うわあ!もうだめだあー!!」
「はあ!」
迫る四つの魔法の玉は俺の剣が振れた途端に消えていく
「へ?」
気の抜けた声が後ろから聞こえる
・・・ふう、何とか成功したか、シスと訓練し始めて直ぐだったから心配だったが、
ゲームの魔法よりだいぶ遅い分難易度は下がったな、
剣に魔法消去のエンチャントを付属させて魔法を消す技だ
「う、嘘だろ、・・あの数の魔法を全部消しやがった・・・」
「流石Aクラス三位・・・!いや、なんでこいつが三位なんだ!?」
おいおい後ろで驚いてる場合じゃないぞ!
「今だ!魔法を撃て!」
そうして二人は詠唱を開始し、魔法を発動する、
ゴーレムもさらに魔法を発動して攻撃してくるが俺はそのほとんどを消すことに成功、しかし
「っく!」
全ての魔法を斬ることが出来ず、魔法の攻撃を受けてしまう、うーん、流石にまだ全部落とすのは無理か
あ、でも全然いたくない
その上、エメラルドになった俺にはあんな魔法攻撃では傷一つつかない
でも流石にあの攻撃を受けて傷つかないのは不自然だな、と思い、自分の剣で腕に傷をつける
すると、
「た、大変です!タツヤさんに傷が!」
「く、タツヤが頑張ってんだ!俺達が頑張らないでどうする」
「うおー!俺達に任せろ!」
「タツヤ!俺達が直ぐにやってやるから頑張ってくれ!」
「え?あ、うん」
他のメンバーは俺が一人で魔法をふせいでいるのを見て、なんとか早くゴーレムを倒そうと必死になってくれているようだ
リンが俺の体に触れる
「今すぐ直しますね!」
そしてリンの回復魔法が発動し、直ぐに傷がふさがった、すごい力だな
「どれだけ傷ついても私が直します!」
リンは、最初の恥ずかしがった様子はなく、真剣に役に立とうと必死になっている
なんか申し訳なくなってきた。
そしてついにゴーレムが崩れ始め、中にある魔石があらわになる
「あそこだ」
剣を投げ見事に魔石に命中、ゴーレムは姿を保てなくなり、崩れた
「やった、やりましたねタツヤさん!」「そうだな」
リンが俺の手を握って笑顔で飛び跳ねている、そしてハッと何かに気付いて手を放し
後ろを向いて手で顔を隠す、
耳が真っ赤になってるけど大丈夫かな?
他のメンバーからも称賛の声を浴び、もともと観戦していた場所に戻ると、
他の生徒たちがひそひそと話しているのが聞こえる
「なるほど、流石俺達のクラスの三位だな、実力に偽りはないか」
「魔法攻撃は通じないか、・・魔力のこもってない攻撃ならどうだ・・」
ふむ、すでに剣を使う俺の対策を考えているものもいるようだ、流石Aクラス意識が高いな
すると、ルーシュがこっちに走ってくるのが見えた
「すごい!すごいよタツヤ!俺と戦った時よりも剣が上手になってたし、あの時は手加減してたの?」
手加減なんてするはずが無い、シスも俺の成長はとんでもなく速いと言っていたが、そこまでなのか?
「興味なかったけど、あれを見せられちゃ、俺も燃えてきたな」
ルーシュは無邪気な子供のような笑みを浮かべている、ルーシュの能力は俺も気になるし、次の戦いも楽しみだな、
リンはいつの間にか男子生徒に囲まれ、質問攻めにあっていた、あれほどの美人だしそうなるのが当然だろうが、近づきずらい印象を持たれていたのだろうか、
あれだけの回復魔法の持ち主だと分かればそうなるのも仕方ない
リンは中心で今にも泣きそうなほどにおどおどしているが
ハルが直ぐに入っていってリンを取り返していたのでひと安心だな
次の班はルーシュとハルがいるな、あ、それにあの緑も髪の子も、どんなスキルを持っているのか見ものだ
「よし、新しいゴーレムを生成した、次の班、こい!」
俺はさらに頭が下がっているアベルの横にニヤニヤしながら座った